神奈川県畜産技術センター 研究情報 2005.04

掲載日:2016年4月1日

神奈川県畜産技術センター 研究情報 2005年4月

「オゾンによる豚舎内の衛生環境改善への取り組み」

はじめに 
  当センターでは平成10年度にオゾンの持つ酸化分解力を利用した豚舎内の脱臭試験を実施しました。その結果、オゾンは硫黄化合物に対して高い脱臭効果がありましたが、アンモニアに対しての脱臭効果は確認できませんでした。また、オゾンガスの送風直後は、豚舎内の落下大腸菌群数が減少することが確認されました。そこで、オゾンの持つ高い殺菌力を豚舎の衛生環境改善対策に利用することが可能であるか試験を実施しましたので、その概要についてご紹介します。

1.オゾンとは?
 最近、「オゾンホールの出現」など地球規模の環境問題が取り上げられ、「オゾン」という言葉をよく耳にすると思います。
 オゾンとは、もともとギリシャ語で「におう(ozein)」という意味で、その名のとおり青臭い特徴的な臭気を持ち、0.02ppmという低濃度でもその臭気が感じられるといわれています。
 オゾン(O3)は酸素分子(O2)に酸素原子(O)が結合した物質ですが、非常に不安定な物質であるため常温で速やかに分解され、もとの酸素に戻るという性質があります。その際に放出された酸素原子が細菌や臭いのもととくっつき殺菌や脱臭を行ないます。
 それでは、オゾンはどれくらいの殺菌力があるかというと、0.1ppmのオゾンガスを60分間噴霧すると落下細菌数が30%に減少し、オゾン水の場合は、大腸菌などの細菌を0.2から6ppmの濃度で処理すると99%以上が瞬時に殺菌されるという報告があります。このようにオゾンは殺菌や脱臭効果を持ち、残留性が無い環境にやさしい物質として注目されていますが、高濃度のオゾンは表1に示すように人体に影響を及ぼすため、日本産業衛生学会では労働衛生許容濃度を0.1ppmと定めており、利用には注意が必要です。そのことから、当所で実施している試験では試験室内のオゾンガス濃度を0.1ppmとして行っています。

表1 オゾンの暴露による人体への影響
オゾン濃度(ppm)作     用
0.01から0.02多少の臭気を覚える(やがて慣れる)
0.1明らかな臭気があり、鼻や喉に刺激を感じる。
0.2から0.53から6時間暴露で視覚が低下する。
0.5明らかに上部気道に刺激を感じる。
1から22時間暴露で頭痛・胸部痛・上部気道の渇きと咳が起こる。
暴露を繰り返せば慢性中毒となる。
5から10脈拍増加・体痛・麻酔症状が現れ、暴露が続けば肺水腫を招く。
15から20小動物は2週間以内に死亡する。
50人間は1時間で生命が危険となる。
(多田 治:有害物管理のための測定法から)

2.殺菌効果の確認
 豚に対するオゾンの殺菌効果を確認するため、0.1ppmのオゾンガスを送風した容器内に離乳直後の子豚を入れ、24時間後に体表細菌数及び鼻腔内細菌数が試験開始前に比べどのように変化するか調査しました。その結果、体表細菌数、鼻腔内細菌数ともに約10%に減少し、高い殺菌効果が確認されました(図1)。
体表及び鼻腔内細菌数の変化グラフ
図1 体表及び鼻腔内細菌数の変化

3.オゾンガス濃度制御方法の検討
  オゾンによる効果を期待するため、豚舎内へのオゾンガス供給量を多くすると、生体に影響を及ぼす事が懸念されます。そのためには、いかに豚舎内を適正なオゾンガス濃度で制御できるかが重要となってきます。そこで、豚舎内を一定の濃度で制御することが可能であるか検討しました。気象条件による影響を少なくするため、温度や湿度を一定に保つことのできる人工気象室に約4週齢の試験豚を入れ試験を実施しました。試験には、高電圧電極からの放電によって空気中の酸素をオゾンにする発生機を用いました。また、電圧調整器を使ってオゾン供給量を一時間あたり0.7gに調整し、オゾン発生機と濃度計とを連動させることにより、試験室内のオゾン濃度が0.06六ppmになると発生機が稼働し、0.1ppm になると停止するように設定しました。その結果、発生機は2から3分間稼働した後、4から5分間停止するという動きを交互に繰り返し、試験期間中の試験室内オゾンガス濃度は0.06から0.1ppm付近で制御することができました(図2)。
オゾン発生機の運転状況とオゾンガス濃度推移のグラフ
       図2 オゾン発生機の運転状況とオゾンガス濃度推移

4.豚舎内での殺菌効果と生体への影響
 6平方メートル(2m×3m)の試験豚房をシートで覆い、地上190cmの位置に塩ビパイプを配管し、約20cm間隔に直径3mmの穴をあけ、試験区にはオゾンガス、対照区には空気のみを送風しました。試験豚房内のオゾンガス濃度は前述の制御方法を用い0.1ppm前後となるようにしました。オゾンガスの送風時間は飼養管理者の安全性を考慮し、作業の終了する12時30分から翌朝の8時30分までとしました。試験は29日間実施し、8日目からオゾンガスを送風し、豚房内の殺菌効果と生体への影響について調査しました。
 殺菌効果は、落下細菌数、体表細菌数及び鼻腔内細菌数の比較、生体への影響については、発育状況と血液生化学的検査により確認しました。
 「落下細菌数の変化」を図3に示しました。試験開始1日目は、試験区と対照区に差は認められませんでしたが、5日目以降は試験区が低く推移する傾向にありました。体表細菌数はオゾン送風開始1日目は両区に有意な差が認められましたが、7日目以降は豚の体表全体が糞尿で汚れはじめ、22日目には逆に試験区の体表細菌数の方が多くなっていました(図4)。

落下細菌数の変化のグラフ
図3 落下細菌数の変化
体表細菌数の変化のグラフ
図4 体表細菌数の変化

 試験終了時に試験区及び対照区を2頭ずつ解剖し、鼻腔内の細菌数を調査したところ、試験区の鼻腔内細菌数は対照区の20分の1以下に減少していました(写真1)。落下細菌や鼻腔内細菌に高い殺菌効果が認められましたことから、肺炎を予防する手段として十分に実用性があると思われます。

鼻腔内細菌数の試験区と対象区を比較した画像

写真1 鼻腔内細菌数の比較
体重の推移のグラフ
図5 体重の推移

 発育成績では、両区の間に有意な差は認められませんでしたが、試験終了時には試験区が対照区をやや上回りました(図5)。ビタミンE、過酸化脂質など14項目について実施した血清学的検査では、7日目に過酸化脂質量、クンケル、チモールの3項目について試験区は対照区に比べ有意に高くなっていました。過酸化脂質は生体内で不飽和脂肪酸が酸化されることにより生成され、生体に害を与える物質です。過酸化脂質量が有意に増加したということは、オゾンが生体に対して酸化作用を生じさせた可能性も否定できないことから、生体への影響について更に詳しく調べていく必要があると考えています。

5.おわりに
 今回は、オゾンによる豚舎内の衛生環境改善に関する研究について紹介しました。
 今回の試験結果から、オゾンは豚舎内の落下細菌数や鼻腔内細菌数を減少させることがわかり、肺炎予防など豚舎内の衛生環境を改善する方法として十分実用性があると思われます。今後は安全で安心な畜産物を提供するために抗生剤をできる限り控えた飼養管理が今まで以上に求められると思います。
 そこで、オゾンの強い殺菌力と二次汚染物質を生成しないという特長を活用した環境に優しく、生産性の高い飼養衛生管理技術の早期確立をめざしていきます。
(畜産工学部 小嶋信雄)

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