神奈川県畜産技術センター 研究情報 2005.06

掲載日:2016年4月1日

神奈川県畜産技術センター 研究情報 2005年6月

系統豚「カナガワヨーク」と「ユメカナエル」を活用した豚肉生産

はじめに
 養豚の飼養規模が拡大し、豚肉の加工・流通方式が大量化・規格化する中で、これまで以上に生産性が高く、斉一性(バラツキのないこと)に優れた銘柄肉豚生産が必要となってきました。肉豚の生産の基礎豚となる品種の中でも産肉能力に優れている豚がいたり、繁殖能力に優れている豚がいたりと大きなバラツキがあることが知られています。そのため、品種より斉一性が高い血縁集団である「系統」が造成され、生産者に利用されています。
 畜産技術センターでは、平成3年度に完成した大ヨークシャー種の系統豚「カナガワヨーク」と平成14年度に完成したランドレース種の系統豚「ユメカナエル」の二つの系統豚の配布をしています。今回は、この系統豚の特徴や能力についてご紹介します。

1.系統豚とは?

  お互いに一定以上の血のつながりを持った豚の集団のことを「系統」と言い、その集団を構成するそれぞれの豚を「系統豚」と言います。実際にどの程度血のつながりがあると「系統」と認定されるかというと、本県では集団内の平均血縁係数が20%以上、かつ全ての個体同士の血縁係数が10%以上であることと豚産肉能力検定の合格判定基準を満たすことが条件となります。
  血縁係数は同腹のきょうだい同士が50%、異母きょうだい同士が25%、いとこ同士が12.5%となるので、本県の系統豚は、集団内のすべての個体同士が異母きょうだいに近い血のつながりを持っているといえます。
 このように集団内に一定以上の血のつながりを持たせることによって、集団内のどの豚も能力がほぼ揃っている状態になります。
  この系統豚を肉豚生産に利用することにより、発育性や産肉性が揃った肉豚を長期間にわたり生産することが可能となります
 系統造成は昭和44年度から全国的に取り組まれており、現在、神奈川県をはじめとして全国でランドレース種18、大ヨークシャー種14、デュロック種5、バークシャー種3、合成系統豚1の計41種類の系統豚が飼養されています。
2.系統豚の名称
 これらの系統豚は鹿児島県のバークシャー種「サツマ」や山梨県のランドレース種「フジザクラ」のように各々の地名や地域の花等にちなんだ名称や、生産された豚肉に霜降りが入るよう改良された宮城県のデュロック種「しもふりレッド」、3種類(北京黒豚、バークシャー種、デュロック種)の豚がかけ合わされているという意味と未知数のXをかけた東京都の合成系統豚「トウキョウX」のようにそれぞれの特徴にちなんだ名称がつけられています。
 本県の「カナガワヨーク」という名称は、県民に一般募集したところ、235点の応募があり、その中から当時の長洲知事が、県名と大ヨークシャー種の「ヨーク」を組合せた「カナガワヨーク」を選び、決定しました。
 「ユメカナエル」という名称は、「一般の方からも親しみやすい名称とする」ため、その決定には消費者の方に参加してもらう方法をとることになりました。4つの候補名の中から当所のホームページを利用して系統豚のイメージに一番ピッタリな名称を一般の方からの投票により決定しました。その結果、「夢(ユメ)」、神奈川県の「カナ」とランドレース種の頭文字「L(エル)」を使用し「夢を叶える」という期待を表現している「ユメカナエル」が約7割の投票数を獲得し、名称として決定しました。

3.「カナガワヨーク」の特徴
 大ヨークシャー種の系統豚「カナガワヨーク」は、産肉性(発育が速く、ロース肉が多い)の改良を目標に昭和59年度から系統造成を開始し、8年間かけて平成3年度に完成しました。
 図1にカナガワヨークの産肉性を表す指標であるロース断面積の推移を示しました。平成16年度の調査結果は雄30.2cm2、雌30.7cm2であり、改良の目標とされた産肉性において高い能力が保持されています。

カナガワヨークのロース断面積の推移グラフ
図1 カナガワヨークのロース断面積の推移
表1 カナガワヨークの繁殖成績
項 目/年 度認定時1116
分 娩 頭 数65 64 72 70 50
一 腹 平 均
  生産子豚頭数10.3 10.4 9.1 10.0 11.2
  哺乳開始頭数10.2 10.4 9.1 9.7 9.4
  離 乳 頭 数9.1 9.3 9.3 8.6 8.7
  育 成 率(%) 89.6 88.5 88.5 89.4 91.9
子豚平均体重(kg)
  生 時1.3 1.4 1.4 1.3 1.4
  21日齢6.0 6.4 5.8 5.0 5.6
  56日齢18.3 20.1 19.1 17.4 17.1

 表1にカナガワヨークの繁殖成績について示しました。平成16年度は90.9%と畜産経営指標と同等の育成率を示し、カナガワヨークは子育ても上手な系統豚でもあることが伺えます。また、現在産肉性以外にも強健性(足腰の強さ)等の生産者のニーズにも答えられるよう選抜を行っており、体の幅、深みがあり、足も太く、骨格のしっかりした系統豚を選抜しています。
 現在の維持集団の大きさは認定時と同じ雄10頭、雌35頭としています。平成16年度は50頭が分娩し、560頭の子豚が生産され、順調に育っています。(写真1、2)

カナガワヨーク雄の画像
写真1 カナガワヨーク雄
カナガワヨーク育成豚舎でのようす
写真2 カナガワヨーク育成豚

4.「ユメカナエル」の特徴
 ランドレース種の系統豚「ユメカナエル」は産肉性の高い能力を持つ「カナガワヨーク」の交配相手として、繁殖性(子豚を多く生み、上手に育てる能力)と強健性を改良することを目的とし、基礎豚をイギリスから二十頭、国内から四十七頭導入し、平成七年度から八年間かけて系統造成を行いました。
 ユメカナエルの強健性の指標とした管囲(前足首の太さ)について図二に示しました。造成開始時から順調に太く改良され、平成十六年度の調査結果では雄十七.九cm、雌十七.二cmと認定時に比べても太くなり、連産に耐えられる骨格のしっかりとした強健性を示しています。また、体の長さ、深み、幅もあり、体型的にも優れています。

ユメカナエルの前足首の太さ(管囲)の推移グラフ
図2 ユメカナエルの管囲(前足首周囲の太さ)の推移
表2 ユメカナエルの繁殖成績
項 目/年 度認定時1516
分 娩 頭 数42 66 77
一 腹 平 均
  生産子豚頭数10.1 10.1 10.5
  哺乳開始頭数9.5 9.2 9.0
  離 乳 頭 数8.5 8.5 8.5
  育 成 率(%) 89.4 92.4 94.2
子豚平均体重(kg)
  生 時1.5 1.8 1.7
  21日齢5.8 6.8 6.4
  56日齢19.3 20.0 18.8

 表2にユメカナエルの繁殖成績について示しました。平成16年度は94.2%と畜産経営指標と比べても高い育成率を示しており、また、2日齢の子豚の平均体重も6.4kgと大きく、繁殖性に高い能力を持っています。
 現在の維持集団の大きさは「カナガワヨーク」同様、認定時と同じ雄10頭、雌35頭としています。平成16年度は77頭が分娩し、798頭の子豚が生産され、順調に育成されています。(写真3、4)

ユメカナエル雄の画像
写真3 ユメカナエル雄
ユメカナエル育成豚舎でのようす
写真4 ユメカナエル育成豚

おわりに
 今回、紹介しました二つの系統豚を交配して生まれたF1雌豚(交雑種)は、両方の高い能力を受け継いでいるため、肉豚を生産する母豚に適しています。
 さらにこのF1雌豚に県内生産者が飼養している肉質の優れたデュロック種の雄豚を交配して三元交雑種の肉豚を作ることによって、これまで以上に生産性が高く、おいしい豚肉の生産が可能となると思われます。 
 現在、本県では生産者がこれらの系統豚を効率的に利用できるように、生産者団体である(社)神奈川県養豚協会を中心とした配布体制が整備されています。畜産技術センターでは、養豚協会を通じてF1雌豚生産の基礎豚として毎年約100頭の系統豚を生産者に供給し、県内の肉豚生産の約10%に寄与しています。
 このような体制の中、畜産技術センターでは、今後とも長期にわたり系統豚を安定的に供給するため、受精卵移植技術等の新技術を利用した系統豚の維持方法の検討や近交係数上昇を抑制する計画的な交配等の研究を実施していきます。
(畜産工学部 前田高弘)

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