神奈川県畜産技術センター 技術情報 2005.12

掲載日:2016年4月1日

神奈川県畜産技術センター 技術情報 2005年12月

「肥育牛に対するビタミンの影響と使い方」

1.はじめに
1990年代に国公立の「研究機関等」でビタミンAと肉質の関連、その制御方法についての研究に取り組まれ、多くの知見が得られました。その結果は読者がご存知のとおりで、肥育牛生産には欠かすことの出来ない技術の一つとして現在に至っているわけです。
 しかし、上手にコントロールし、より良い牛肉を生産されている方だけではなく、あまりにも極端なビタミンAの制限コントロールにより、欠乏症による大きなリスクを背負っている方も少なくありません。今回は、もう一度原点に帰って、肥育とビタミンAとの関係を勉強したいと思います。また、最近肥育技術の一つとして多くの研究が行われているビタミンCとEについてもその知見を述べたいと思います。

2.肥育におけるビタミンAの生理的機能

生命を維持するために重要な機能を担っているのがビタミンA(以後、VAと言う)です。「発育促進」「脂肪分解促進」「網膜機能の維持」「粘膜上皮保護物質ムチンの形成」等、肥育牛を成長させるための機能に関与していると言われています。また、成長ホルモンの分泌がVAにより刺激促進されるため、その体内所要量によって肥育牛の発育増体にかなり影響があります。
 月齢の若い牛ほど、増体の良い牛ほど、広い牛房のように運動量の多い牛ほど、冬期より夏期ほどVAの消費量が大きいのです。このことは、若い牛や増体の良い牛ほどVAの欠乏症状が顕著に現れやすいことを示しています。最も発育の盛んな18ケ月齢前後に体内のVA濃度を低下させないことが枝肉重量を大きくする秘訣でもあります。
また、VAは器官の粘膜を保護する「ムチン」という物質を作り上げています。この「ムチン」、不足するといろいろな障害を引き起こします。小腸ではムチン層が角質化すると消化・吸収機能が衰え軟便や下痢になりやすいと言われます。また、尿路のムチン層が角質化すると、脱落したムチンや小結石から肥大した石となり、尿石症の原因となります。更には血管壁のムチン層が角質化すると血液成分が血管壁外へ浸出しやすくなり、ひどい場合はズルの原因になります。
この様に成長・発育には大事なVAですが、別の働きとしてVAにより分泌された成長ホルモンが体内脂肪を分解することが知られています。特に最も蓄積しにくい交雑脂肪などは最初に分解の対象になってしまいます。肥育牛の場合、枝肉重量を大きく、筋肉内蓄積脂肪も多く得たい訳ですから、VAの使い方には細心の注意が必要です。

3.ビタミンAと脂肪交雑との関係

肥育を行う上で重要なことは生後12から15ケ月齢頃に脂肪細胞を作り出すことであり、そのためには肝臓内での脂肪の合成を活発にさせるための飼料摂取、つまり養分摂取量を不足させないことが重要です。但馬系に代表される脂質系とは異なり、最近の肥育素牛は大型化の影響で筋肉内の脂肪細胞が少なく、生まれた時から脂肪組織を皮下、筋間、腎臓周辺にしか持っていないと言われています。一定の期間に筋肉内に脂肪組織を作らないと、筋肉内に脂肪が入らずに終わってしまいます。そのためにも生後12から15ケ月齢に必要十分な飼料を摂取させることが必要です。

4.ビタミンAコントロール
 
山崎(1988)は黒毛和種去勢牛を用いた一連の成長解析で、脂肪交雑の成長盛んな時期は18から24ケ月齢と報告しており、この説は現在も支持されています。つまりこの時期にかけて血中VA濃度を低くコントロールすることが脂肪交雑つくりには有効と言われています。VAは肝臓や体脂肪に蓄えられる性質があり、その消費には体積系で3から5ケ月程度、資質系で4から6ケ月程度を要すると見なされています。つまり系統によって、12から15ケ月齢頃からVAの充足率を100%以下に落としていくと18ケ月齢頃には下限値程度まで下げることが可能です。しかし、18ケ月齢というのは肥育牛が最も発育する時期であり、当然VAも必要とされる訳ですから、生産者の中にはVA下限値とされる40IU/dlの到達月齢を19から20ケ月齢に設定している事例もあります。なお、24ケ月齢を越す頃には脂肪蓄積も終わるため、欠乏症状を起こさないためにもVAを30から50万単位程度経口投与することも有効です。図1、2は兵庫県農業技術センターでの「肉質評価別血中VA濃度の推移」と「肥育牛における血中VAのパターンと増体、肉質の関係」の成績ですが、VAと脂肪交雑、成長の関係が分かると思います。

肉質評価別の血中ビタミンA濃度の推移グラフ
図1 肉質評価別血中ビタミンA濃度の推移(岡:兵庫県農業技術センター)
肥育牛における血中ビタミンAのパターンのグラフ
パターン増体肉質備考




不良
やや不良
不良

不良

病気
図2 肥育牛における血中ビタミンAのパターンと増体、肉質の関係
    (岡:兵庫県農業技術センター)

5.ビタミンCと脂肪交雑との関係 ビタミンC(以下、VCと言う)が牛の脂肪前駆細胞の脂肪細胞への分化を促進することが培養細胞を使用して実証され、VCを適切に調節することにより、脂肪交雑を含む体脂肪の発達をコントロールできる可能性が示唆され、多くの研究がなされています。
 しかし、VCは第一胃内微生物により速やかに分解されてしまうこと、酵素、アルカリ、酸素にも容易に分解されること、組織内での代謝速度も速いことが分かっており、どの様に取り入れていくのかが課題となっています。
 愛知県農業総合試験場では黒毛和種去勢牛を用いた第一胃バイパスVCの肉質、発育に対する効果試験を行いました。一日10gのバイパスVCを肥育後期、肥育中後期、肥育前期、無給与の4区に分けて給与したのですが、その結果、(1)脂肪交雑はVCを後期に給与した区が有意に高い、(2)増体重は肥育前期に給与した区が優れている、(3)肉のしまり、きめ、肉質等は肥育後期にVCを給与した区が有意に優れている、(4)VC給与区は蓄積脂肪の脂肪酸組成で不飽和脂肪酸が有意に増加した...等の報告がされています。
 しかし、肥育中後期にVCを給与した場合、飼料摂取量の低下が認められ、その結果増体成績にも影響するという報告もあることから、いまのところVAを下限値に落としている期間(18から24ケ月齢)での給与が有効とされています。

6.ビタミンEと牛肉との関係
 ビタミンE(以下、VEという)は抗酸化作用やコレステロールの分解、細胞膜の強化などの機能を有し、人間の狭心症や不妊症の治療に投与されています。肥育牛に対しては、抗酸化作用としてビタミンAや不飽和脂肪酸の酸化防止をすることで、ヘム色素の酸化を遅延させ、枝肉や精肉の肉色の変色を長く抑えます。また、細胞膜を強くすることで、肉の保水性を高め、しまりが向上します。つまりドリップの減少と鮮度維持が期待できるわけです。
 ただし、コレステロールも分解するため、蓄積脂肪を溶解してしまうのではないかとの懸念もあり、この分野での研究はあまり行われていませんでした。
 近年、近畿中国四国農業研究センターで行った研究で、VEが精肉色を安定させることが証明されました。VEが直接的には膜の脂質の酸化を防止し、間接的には細胞質中のミオグロビンの酸化を抑制することで肉色を安定させるというものです。十勝農業試験場では出荷前1ケ月間に1日4gのVEを給与した結果、脂質の酸化抑制、ドリップの減少、肉色の安定が確認されたと報告しています。生産した牛肉の色がいつも濃いと言われる生産者にはVEの出荷前の給与が有効かもしれません。

7.おわりに
 各種ビタミンの体内量は生体の観察からはなかなか判断できません。頻繁に血中濃度を測りながら肥育を進めていくのが理想ですが、生産者個人が行うには難しいことですし、肥育牛に与えるストレスも計り知れないものがあります。餌食い、増体、毛並み、牛体各部位の変化等、経験的には分かっていても、それでも失敗することはあります。基本的なことですが、愛情を持って牛に接し、すこしの変化も見逃さないことが大事です。そして素早い対処を行うことです。(普及指導部 川西隆智)

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