神奈川県畜産技術センター 技術情報 2006.08

掲載日:2016年4月1日

神奈川県畜産技術センター 技術情報 2006年8月

なぜ『食育』が必要なのでしょう」

 最近「食育」という言葉をよく耳にされると思います。平成17年7月に食育基本法が施行され、平成18年3月には食育推進基本計画が策定されています。

 この食育推進基本計画では、「食の大切さに対する意識が希薄になり、健全な食生活が失われつつある。加えて、食に関する情報が社会に氾濫し、情報の受け手である国民が食に関する正しい情報を適切に選別し活用することが困難な状況も見受けられる。今や我が国の食をめぐる現状は危機的な状況を迎えていると言っても過言ではない。」「背景には様々な要因があるが、戦後、我が国の社会経済構造等が大きく変化していく中にあって、国民のライフスタイルや価値観・ニーズが高度化・多様化し、これに伴い食生活やこれを取り巻く環境が急激に変わってきたことが大きな原因の一つと考えられる。そして、このような過程において、国民の食に対する意識、食への感謝の念や理解等が薄れ、このままでは健全な食生活の実現は困難といえる状況にまで至っている。」と現在の状況を表現しており、この状況の解決を目指した取り組みが「食育」としています。

 食育という言葉自体は明治からあり、知育・徳育・体育とともに教育の一環とされてきたそうですが、第2次世界大戦後、日本では軽視されてきたと言われています。栄養教育・食教育・「食」の教育・食生活教育・食農教育等々とも表されていますが、食料生産・安全確保・適正選択・各家庭での適切な食物摂取する力を培う等がその意味するところと言えます。教育の基礎として食育を位置づけ、一人一人が健全な食生活を実践できるよう、生涯にわたって健康で豊かな人間性を育むため、食に関する知識と食を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てる食育の推進が必要になってきています。

 ある高名な栄養士・調理師学校の理事長が、「栄養士や調理師の卵である学生に試験で理想的献立を作らせると、80%は正解しているのだが、自身の食生活は朝食抜き・バランスの悪さが目立つ。理論はわかっていても、20歳くらいではもう習慣を変えられない。体は7から14歳の成長期にバランスを欠くと影響が大きい。親の義務であるが、親のバランスが崩れてしまっている。」と述べています。一例として、「今晩何食べたい?」と親が子供にきくことを挙げています。これは一見ほほえましくもありますが、親自身が子供や家族を考えて献立が組み立てられないことの裏返し。結果、家族で食事ができる状態にありながら、バラバラ食(バラバラに食べる)、孤食(一人で食べる)、個食(皆が違ったものを食べる)、固食(決まったものしか食べない)、小食(食べる量が少ない)という状況も生じています。

 また、日本で発生する残飯の量で、世界中の飢餓で死ぬ子供達が救えるといわれています。何故簡単に捨てるのでしょうか?子供達は、何故残してはいけないのか知らないそうです。自給率40%(カロリーベース)の島国・日本は、何らかの問題が生じて食料が輸入できなくなった場合、60%の国民が餓死をするということを感じていない人が多いのも事実です。

 川崎市内で開催された食育に関するシンポジウムで、「食育とはどんなことだと思うか」という質問が参加者に対してありました。(1)1日3食しっかりとる。(2)料理ができる力を養う。(3)日本の食文化(農業)を知る。(4)栄養バランスのよい食事。(5)一家団欒の食事・食事のマナーを身につける。この時は(4)が50%を占めました。また「食育は誰が担うのか?」という質問に対しては、(1)家庭(81%)、(2)学校(4%)、(3)地域(1%)、(4)その他・連携(14%)という結果でした。しかし、既におわかりのとおり、食に関する全てのことについて、全ての人が担うというのが基本的な考えとなります。

 学校教育では、小学校5年生から高校まで「家庭科」を勉強しますが、その内容は、食生活に必要な基礎的知識や技能(小学校)、進んで生活を工夫する能力、家庭・衣食住の基礎的知識・技術(中学校)、家族・家庭の意義・生活に必要な知識・技術、家庭・地域の生活を創造する能力(高校)となっており、食生活領域では、適切な食生活を営む力を身に付けることが目標となっています。

 授業で教えたり指示をするものではなく、実体験が食育の原点という意見も強くあります。

 小学生に、苗作りから精米までの米作りを体験させる、生産者を取材して「地域の名産物」のことを学び、さらに料理を作らせることで、初めて子供達が地域のことや生産の大変さを知る、という例が数多く報告されています。香川県のある町の中学校では「弁当の日」を決め、教職員・全校生徒がその日には弁当を持ってくる活動をしていますが、買い出し・下ごしらえ・調理の全てを生徒が行い、親は一切手を出してはいけないルールになっています。生徒達は、自分が食べたいもの・必要な栄養素・彩り・形状・コスト等弁当を総合的に考えることにより、食に対する知識・理解を深めているそうです。

 さて、これまで基本計画やいくつかの事例について述べてきましたが、要は、農業者の皆さんも、健全な食生活を実践することができる人間を育てていくため、食料の生産者として、地域社会の一員として「食育」に取り組んでいく必要があるということです。

 もうお気づきとは思いますが、新たに「食育」についての取り組みを始めようと大上段に構えなくても、実は皆さんはもう取り組んでいるのです。酪農教育ファームやわくわくモーモースクールに参加していませんか?学校給食に食材を供給していませんか?養豚協会のトントンまつり、農業経営士会等で実施する小中学生の農業体験、学校農園への協力、畜産まつり等での展示や直売等々、現在実行している「地域住民に畜産を理解してもらい、共存をはかっていこう」という活動が、「食育」につながっているのです。これらを念頭に活動を続けることで、健全な食生活を実践することができる人間を育て、地域農業・地域社会の健全な発展につながっていくと考えます。

 畜産技術センターでは、「食育」につながる次のような取り組みを行っています。

○科学技術週間(毎年4月中旬)の施設公開や一般県民を対象とした講座で、家畜・家きんの飼育状況や品種、肉・乳・卵がどのように農場で生産され、どうやって食卓に届くのかを説明し、畜産物や畜産業への理解を深めてもらっています。
H18年度の開催のようすはこちら(このページにはブラウザの「戻る」で帰ってきてください)

○おもしろ科学教室(サイエンスサマー、毎年8月下旬)は小学校高学年を対象とし、家畜と自分達とのつながりや、畜産に関する技術を学んでもらっています。昨年度は卵から鶏になるまでの過程の観察や、卵の鮮度を調べる実験等を実施しました。今年度は浄化槽の仕組みを学習してもらう予定です。
H17年度の開催のようすはこちら(このページにはブラウザの「戻る」で帰ってきてください)  

○家畜に親しむつどい(毎年10月下旬)は、多くの方を対象に、関係団体との共催で、神奈川県の畜産及び畜産技術や、研究の内容を広く一般の方々に公開し、畜産に対する理解を深めてもらっています。
H17年度の開催のようすはこちら(このページにはブラウザの「戻る」で帰ってきてください)

○視察受け入れや講演依頼にも対応しており、小学校の遠足、中学生の職業体験学習も受け入れています。団体等の要望に応え講演も行っていますが、内容は県内の畜産の紹介や、農場から食卓への畜産物の流れについてが主になっています。

小学生が牛を見ている写真
小学生の遠足のようす
施設を説明している写真
一般の方への施設説明(これは衛生的な搾乳施設)


○学校給食残さ有効活用食育モデル事業を、厚木市、市内の養豚農家である(有)臼井農産、(農)高座豚手づくりハム、関係会社・機関等の協力を得て取り組んでいます(図1)。市が取り組んでいる給食残さの飼料化をもとに、その飼料を養豚農家が豚に給与し、その豚を使った加工品(ソーセージ)を給食に還元していくという流れを構築しようとしています。給食への供給は2学期以降に実施できるよう調整中です。また、この流れをもとに小学校で食育の授業を実施します。市立荻野小学校および北小学校をモデル校としていますが、そのうちの北小学校で、6月30日に第1回目の授業を実施しました(写真1から3)。今回の授業は、米作りを学習したばかりの5年生を対象に、米を代表とする地域農業と酪農の関係、農業・酪農をめぐるものの循環という内容になりました。この事業を通じて、児童に「命の大切さ」や「もったいないの心」を学んでもらおうとしています。
 このような取り組みを通じて、一般県民の方々に畜産や地域農業への理解を深めてもらうよう情報発信に努め、地域住民と畜産農家の共存、畜産業の発展に寄与していければと考えています。(普及指導部 関谷敏彦)

モデル事業の模式図
授業風景
先生役の当センター研究員の話しを熱心に聞く小学生 
牛のえさってどんな物かな
牛の飼料に実際にふれて学習
お米のいろいろをさわってみよう
ワラ・モミ・玄米・ヌカ・白米にふれて米作りの復習
神奈川県

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