神奈川県畜産技術センター 研究情報 2006.09

掲載日:2016年4月1日

神奈川県畜産技術センター 研究情報 2006年9月

牛受精卵移植に関する最近の取り組みについて 

1.はじめに
 牛の育種改良を進める手法のひとつに受精卵移植技術があります。
 本県における受精卵移植技術は、昭和57年度から「乳牛の人工妊娠に関する試験」として、過剰排卵処理、採卵、移植、受精卵の凍結保存等の研究を開始しました。その後、昭和61年からは黒毛和種の受精卵を酪農家の乳用牛に移植する事業により実用化のための技術開発と実証展示を開始し、平成4年度からはその技術を農家段階で普及定着化させるため、県内の家畜保健衛生所において採卵や凍結保存を行ってきました。
 当センターでの過去10年間の採卵頭数は、延べ578頭で平均正常卵数は4.7個、過去10年間の受精卵移植頭数は1,839頭、受胎率は平均40%程度となっています。採卵数や受胎率は年々増加してきましたが、ここ数年横ばい傾向にあり、より一層の向上が必要と考えられます。そこで今回はこれらの課題に対する最近の研究についてご紹介します。

2.エストラジオール製剤を用いた採卵成績の向上
 受精卵を採取する際の課題として、供卵牛の個体差があり、採卵数が多い牛と少ない牛がいます。また、せっかく採取した受精卵でもその品質がばらつき、低品質卵では受胎率が低下します。
 そこで、高品質卵を安定的に数多く採取することを目的としてエストラジオール製剤を利用した過剰排卵処理方法を検討しました。
 牛の卵巣内には、他の卵胞の発育を抑制する大きな卵胞が存在することが知られています。その大きな卵胞を、黄体ホルモン製剤とエストラジオール製剤を投与して退行させ、中小卵胞を発育させたうえで過剰排卵処理を行いました。
 エストラジオール投与量や投与時期による過剰排卵処理効果を検討し、エストラジオール製剤を過剰排卵処理開始3日前に投与することで、採卵総数や正常卵数が増加し、特に採卵成績の悪い牛(正常卵数3個以下)で、採卵総数や正常卵数が向上しました(表1)。

表1 全体及び低採卵牛の採卵成績
全体成績低採卵牛(注)
対照区エストラジオール製剤
処理区
対照区エストラジオール製剤
処理区
採卵総数5.37.62.08.4※
正常卵数3.64.81.15.1※
※: 対照区と比較して有意差あり(p<0.01)
(注):対照区時に正常卵数が3個以下であった牛(n=10)


3.hCGやCIDRを用いた受胎率向上
 受精卵移植時に受卵牛の黄体ホルモン濃度が高いと受胎率が高いことが報告があります。そこで、平成13から15年度に黄体ホルモン濃度を上げるホルモン剤のひとつである胎盤性性腺刺激ホルモン(hCG)を受精卵移植前後に投与し、受胎率に及ぼす影響を検討しました。移植前(発情後5日目、6日目、7日目)にhCGを投与した区で移植後7日目に血中黄体ホルモン濃度の上昇が認められました。また、hCGを投与していない対照区(受胎率41.9% 例数31頭)と比較して、移植日(発情後7日目)にhCGを投与した試験区は、高い受胎率(70%  例数10頭)が得られました(図1)。
 しかし、hCGは抗体が出来やすく、同じ牛に何度も反復して使用すると効果が低下することがあります。そこで平成16、17年度には膣内留置型黄体ホルモン製剤(CIDR)を受精卵移植後に留置することで黄体ホルモン濃度を高め、受胎率を向上させる取り組みを行いました。その結果、CIDRの留置により血中の黄体ホルモン濃度の上昇は確認されましたが、受胎率では対照区と比べて差は認められませんでした。今後は黄体ホルモン以外の薬剤についても検討したいと考えています。

hCG投与日と受胎率のグラフ
        図1 hCG投与日別受胎率

4.受精卵産子の状況
 当センターでは、試験に協力し、産子を県内に保留するという条件で、受精卵を提供しています。現在のところ、子牛登記時点ではほぼ全ての受精卵産子が県内に保留されています。そこでその肥育成績を歩留・等級別に調査したところ、60%程度の上物率であることが判りました(表2)。今後はこれらの成績を活用して、新たな供卵牛の生産を行っていく予定です。

表2 当センター受精卵産子肥育成績(歩留・等級別)
供卵牛交配雄名母の父祖父曾祖父生年月日性別出荷
月齢
歩留等級枝重量ロース
面積
バラ厚BMS
ちなみ照藤隆桜糸秀一福H12.09.2426.4 A5401
ちなみ照藤隆桜糸秀一福H13.01.2433.0 A5426577.29
ちなみ金鶴隆桜糸秀一福H13.03.0731.6 A5447647.48
ちなみ金鶴隆桜糸秀一福H13.03.0132.6 A539452810
としえ金鶴菊谷(黒原908)富士寿恵6(黒10045)第3藤良3H12.4.2130.4 A5429498.38
やまゆり36安福栄北国7-8茂重波安美H14.04.2529.8 A5487618.611
やまゆり46北仁美津福茂重波H13.12.0632.1 A5542688.710
さち茂糸波第2波茂茂重波(黒10632)安美金H15.12.0431.1 A55037310.28
ちなみ照藤隆桜糸秀一福H12.12.0229.0 A43827
いちこ安平照平茂勝神高福宝勝H14.07.2824.5 A4469598.55
みえこ安平照神高福第20平茂宝徳H14.07.3128.3 A4418497.76
やまゆり29高栄茂糸波茂重波第4岩登H14.03.2032.8 A4396616.96
としえ金鶴菊谷(黒原908)富士寿恵6(黒10045)第3藤良3H14.6.1929.0 A43956185
としこ第六栄正福寿高国気高H15.2.1732.6 A4464588.55
つねきくしげ北仁恒徳菊谷茂重波H15.8.1128.0 A4400618.67
やまゆり60糸北富士金鶴北国7の8H15.10.131.3 A44894885
ちなみ照藤隆桜糸秀一福H12.09.2432.0 A33255
ちなみ金鶴隆桜糸秀一福H13.03.08A3343456.65
ちなみ松福美隆桜糸秀一福H14.09.2426.5 A33774474
やまゆり39金鶴北国7-8高栄福昌H13.9.2232.2 A3411557.75
やまゆり41第7安福北国7-8菊谷逆持5H13.5.1136.5 A3415567.35
やよい金鶴隆桜秀安美晴H13.09.2032.3 A23314663
つねきくしげ乙次郎恒徳菊谷茂重波H16.4.724.4 A2398  3
やまゆり36金鶴北国7-8茂重波安美H13.09.2932.3 B3323415.24
※ 現在供用中の供卵牛の成績を抽出しました。

5.農業高校への支援
 相原高校の農業クラブから当センターに対して「繁殖雌牛を作り、ブランド牛の生産に取り組みたいので受精卵を利用したい」との要望がありました。平成17年3月に当センターの雌雄判別卵(雌卵)を獣医師の協力により同校の受卵牛に移植し、12月に雌の子牛を誕生させました(写真)。さらに、平成17年10月には黒毛和種の受精卵をホルスタイン種未経産牛に移植しました。現在この牛は中央農業高校に移動し、出産を待っています。生まれた子牛は相原高校が引き取り、母牛(ホルスタイン種)は中央農業高校で搾乳することになっています。

相原高校の生徒と牛の写真相原高校の生徒たちと受精卵産子

6.さいごに
 県内に流通している受精卵はそのほかに、乳牛では輸入受精卵、肉牛では家畜改良事業団の体外受精卵等があり、年々利用が増えています。それぞれの目的にあった受精卵を選択し、経営の向上に役立てていただきたいと思います。
 当センターでは今後も引き続き、大きな課題である受胎率向上対策や、雌雄判別技術に取り組むことはもちろん、新たな経膣採卵技術等へも積極的に取り組んでいきたいと考えています。
(畜産工学部 坂上信忠)

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