神奈川県畜産技術センター 研究情報 2007.02

掲載日:2016年4月1日

神奈川県畜産技術センター 研究情報 2007年2月

「耕作放棄地の省力的な草地造成方法」 

耕作放棄地
 耕作放棄地とは、以前農地であった所が、過去1年間以上作物を栽培せず、しかも、今後数年の間に再び耕作するはっきりした意思のない土地のことをいい、一般には、遊休農地と同義語として使われています。
 耕作放棄地は、県内でも年々増加し、2005年には、2,565ヘクタール(農業センサス)となり、耕地の約13%が耕作放棄地となっています。
 この様な耕作放棄地を有効利用するため、全国で放牧利用について様々な取り組みが行われ、県内でも津久井や伊勢原市で肉用繁殖牛の放牧利用が取り組まれています。

耕作放棄地の肉用牛放牧
 耕作放棄地を放牧利用することのメリットは、野草の飼料利用(低コスト化)、農地管理の省力化、地域の景観保全、放牧終了後農地への復元が比較的容易に可能であるなどで、逆にデメリットは、牛が逃げ出すかもしれないという地域住民の不安、放牧用施設が必要で経費がかかるなどが考えられます。
 現在、耕作放棄地である所が、そのまま耕作放棄地として放置されるのであれば、放牧利用することも検討した方が良いと考えます。
 耕作放棄地への放牧は、電気牧柵などの簡易牧柵を設置し、その土地の野草を牛が全て食べ尽くすと、次の土地に移動(転牧)する移動放牧の形態で行われます。放牧は、牛の食べられる草があり、電気牧柵が設置できれば技術的に可能です。この場合、牛のエサは野草のみとなりますが、野草の栄養価は、その種類により様々なため、放牧する牛は栄養要求量の少ない、肉用繁殖牛が適していると考えられます。
 また、牛は群れをつくる性質があるため、1頭だけでは不安になり脱柵する(逃げ出す)可能性が大きくなるので、2頭以上で放牧することが必要です。
 継続して放牧可能な期間の目安は、その土地の植生状況によりますが、一般には、2頭の肉用繁殖牛を1ヶ月間放牧するには、30a必要だとされています。また、60aあれば、春から秋まで(6ヶ月間)放牧できるとされています。
 耕作放棄地の放牧状況を写真1に示しました。放牧前に生い茂っていた野草は、牛がエサとして食べたため、放牧終了後はきれいになくなっており、比較的容易に耕作を再開することが可能となりました。
 しかし、放牧後の土地利用についは、その土地が耕作放棄地となった理由を解決できなければ、再び耕作放棄地となる可能性が高いといえます。この様な土地は、放牧を継続することにより農地管理の省力化を図ることができます。
 野草地(耕作放棄地)に放牧を続けると、年々牧養力(注1)が低下します。ススキ主体の野草地の場合、利用4から5年目には、乾物生産量が当初の6割程度に減少するという報告があります。そのため、牧養力を維持するため、放牧期間の短縮や、補助飼料を給与することが必要となります。そこで、牧養力を維持するためには、牧草を導入して草地の造成を行うことが検討されます。
 当センターでは、この様な状況を想定し、耕作放棄地の省力的な草地造成方法について検討しましたので、以下その試験の概要についてお知らせします。

用語説明

 注1 牧養力 「草地の生産力を表す用語。CD(カウデイ)、GPU(草地生産単位)などの単位で表される。」
 注2  CD(カウデイ) 「草地で牛が何頭・何日飼養できるかを表す単位。500kgの牛を1日放牧すると1CD。」

放牧前の試験地
放牧前のようす
牛が雑草を食べている様子
放牧中
放牧後の試験地
放牧後のようす

耕作放棄地に適した牧草
 本県の気候は、夏暑く、冬も温暖であるため、導入する牧草は、寒地型牧草より暖地型牧草が適していると考えられます。本試験では、センチピートグラスを用いました。センチピートグラスは、土地を選ばず、ランナーの伸長が旺盛で嗜好性が高いことが特徴で、草地造成後は、シバ型草地となります。
 同じシバ型草地でもノシバは、移植により造成しますが、センチピートグラスは、播種による造成が可能であり、牛を放牧しながら造成する蹄耕法による不耕起造成に適します。
 センチピートグラスの栄養価は、TDNは51%、乾物収量は10a当たり800kg以上あると報告があり、耕作放棄地放牧に適する草種として注目され、各地で様々な試験が行われています

播種適期
 センチピートグラス播種適期を調べるため、異なる温度条件下での発芽状況を調べました。温度条件を、昼と夜で切替え、35℃/25℃(昼の気温/夜の気温、以下同様に表記)、30℃/20℃、25℃/15℃、20℃/10℃、15℃/5℃の5つの条件で、4週間発芽状況を調べました(図1)。
 25℃/15℃以上の温度条件では、播種後14日には発芽率が80%以上であったのに対し、それ以下の温度では、播種後14日後には発芽は認められず、その後も発芽率が低かった。
 このことから、本県では、平均気温が20℃となる5月下旬頃に播種すれば、発芽と梅雨入りのタイミングが同じとなり、センチピートグラスを定着させるため最も適した時期だと考えられます。

発芽状況のグラフ
 図1 異なる温度条件下のセンチピートグラスの発芽状況

蹄耕法(ていこうほう)による草地造成
 草地造成の方法は、一般には、耕起・播種・鎮圧の一連の作業(耕起造成法)で行いますが、省力的な造成方法として、播種のみ行い、後は放牧しながら牛に管理させる「蹄耕法」による造成で試験を行いました。
 草地の面積は15aで、肉用繁殖牛及び育成牛を2頭から5頭のグループにして、放牧しました。
 草地の面積が狭いため、草地内の状況や牛の状態を確認しながら、草がなくなった時は退牧させたり、エサが足りないような時には補助飼料を給与するなど調整しながら放牧しました。
 放牧の概要は、平成16年は、5月から10月まで、平成17年、18年は4月から10月まで牧養力に換算して10a当たり441.9から143CD(カウデイ 注2)の放牧を行いました(表1)。

表1 放牧の概要
年度放牧期間放牧日数延べ放牧頭数(頭)牧養力
繁殖牛育成牛(CD/10a)
H165/26から10/88416541.9
H174/24から10/21113110136132.3
H184/19から10/4120240143.0

 センチピートグラスの播種は、放牧開始後、牛がある程度草地内の草を採食し、地面が見え始めた頃に行います。試験では、平成16年6月14日に10a当たり4kgの種子を播きました。
 しかし、この年はカラ梅雨でほとんど雨が降らず、発芽しても枯死する個体が多く、定着した個体が少なかったため、8月10日に10a当たり2kg追播しました。
 草地の造成状況は、9カ所の定置枠の植生を調査しました。
 3年間の草地の造成状況として、毎年秋のセンチピートグラスの被度(草の茎や葉が地面を覆う割合)をみると、1年目には3%だったものが、2年目には12%、3年目には44%となり、年々被度が増加しました(図2)。また、センチピートグラスの被度の増加に伴い、草地全体の被度も増加しました。

被度の変化グラフ
       図2 センチピートグラスの被度の変化

表2 造成3年目秋の植生調査状況
 草 種 名被度(%)草高(cm)積算優先度
センチピート43.97.526.7
メヒシバ15.018.916.2
オヒシバ6.116.710.5
ギシギシ7.811.39.1
キハマスゲ11.16.78.8
シロザ0.815.06.9
エノコログサ0.215.06.6
カキドオシ4.75.04.7
カタバミ3.16.44.5
オオイヌノフグリ0.77.53.6
タンポポ0.15.02.2

 造成3年目の秋の植生調査では、草地の中にセンチピートグラスを含めて11種類の草種が生えていましたが、センチピートグラスは、積算優先度(被度と草高から求めた値。草地内の優先順位の指標)が1位であり(表2)、センチピートグラス主体の草地が完成しつつあります(写真2、3)。今後、放牧管理を継続することにより、さらにセンチピートグラスの被度が増加すると考えられます。
(畜産工学部 折原健太郎)

完成した草地
写真2 完成したセンチピートグラス主体の草地 
センチピードグラスの写真
写真3 定着したセンチピートグラス

神奈川県

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