神奈川県畜産技術センター 研究情報 2007.05

掲載日:2016年4月1日

神奈川県畜産技術センター 研究情報 2007年5月

「食品残さ飼料による肉用牛肥育の取り組み」 

はじめに
 本県は首都圏に位置する一大消費地であるため、毎日大量の食品残さが発生しており、その多くは廃棄物として処理されています。これらを家畜の飼料として利用することができれば、廃棄物の減量や資源のリサイクル、飼料自給率の向上につながります。
 神奈川県畜産技術センターでは、これまで牛と豚の食品残さ飼料化に取り組んできました。牛では、野菜くずやパンくずなどの植物性の食品製造残さを肉用牛の飼料として活用するための研究を、民間の処理業者と共同で取り組んできました。今回はその内容を紹介します。

(植物性食品残さ飼料を食べる試験牛のようす:右写真)
飼養試験のようす

食品残さの肉用牛における飼料化の条件
 食品残さを牛の飼料として使用する際は、飼料安全法により「動物性蛋白質および油脂等を含まないこと」と規定されているため、植物性の食品残さのみに分別して使用しなければいけません。現状では、たとえば野菜のみを取り扱うカットセンターなどから排出される野菜くず、あるいは豆腐のみを製造する工場から排出されるおからなど、食品製造段階においてきちんと分別されて排出された、植物性の食品残さを使用することが必要です。これらを乳酸発酵技術や乾燥技術などにより処理したのちに、飼料として利用します。

当センターにおける取り組み
 肉用牛におからやビール粕などを単味飼料として利用する事例は多く見受けられます。しかし、肉用牛に複数の植物性食品製造残さを組み合わせて飼料として給与した場合の影響については、これまであまり研究されてきませんでした。
 そこで当センターでは、平成13年度から食品残さ飼料を交雑種肉用牛(F1牛)に給与した場合の発育や肉質への影響を調べる試験を開始しました。

第1次試験(平成13から15年度)
 最初の取り組みとして、食品残さ飼料の肉用牛に対する利用の可能性を検討しました。
 食品残さ飼料の原料は、安定的に入手可能なパンくず、野菜くずおよび米飯を用い、水分調整資材としてふすまを加えました。これらを80℃で約5時間、攪拌しながら加熱乾燥処理し(写真1・2・3)、飼料の扱いやすさや保存性などを考慮した調製を行いました。

飼料調整用機械の写真
写真1 食品残さ飼料調整用機械
(バクファージャパン製、
中央カンセーにて飼料調製)



機械の内部写真
写真2 左機械の内部
     高温乾燥処理のようす



残さ飼料の写真
写真3 食品残さ飼料

 この処理条件で原料の配合割合を変えて12種類の食品残さ飼料を調製したところ、表1(第1次試験)の割合で調製したものが市販の肥育牛用配合飼料に最も近い栄養成分となりました。
 次に、この食品残さ飼料を用い、市販配合飼料の50%および25%を食品残さ飼料で代替給与する「50%区」および「25%区」と、市販配合飼料のみを給与する「対照区」の3区を設け、給与試験を実施しました。供試牛はF1牛9頭で、7ヶ月齢から26ヶ月齢まで給与したのち出荷しました。
 この結果、各区の発育状態や肉質は同程度となり(表2及び図)、飼料摂取量についても大きな差は見られませんでした。また、肉のおいしさや風味などの食味についても、その評価は同程度となりました。
 これらのことから、複数の植物性食品製造残さを組み合わせて調製した食品残さ飼料は、F1牛の肥育用飼料として利用できることが確認されました。

表1 食品残さ飼料の栄養成分と配合割合(原物重量割合)
第1と2次試験の飼料成分と配合割合の表

表2 枝肉成績
第1と2次試験の枝肉成績の表

第1と2次試験牛の体重推移のグラフ
                        図 体重の推移

第2次試験(平成16から18年度)
 第1次試験の結果を受けて、さらにリサイクルの割合を向上させるため、濃厚飼料をすべて食品残さ飼料で給与する肥育試験(100%区)を行いました。
 原料については、試験開始時点で米飯の排出量が減少し入手困難となったため、再度組み合わせを検討し、パンくず、野菜くずに加え、新たに乾燥おからおよび乾燥もやしを用いることとしました。また、今回の試験では食品残さ飼料のみを濃厚飼料として給与するため、飼料の嗜好性が重要なポイントとなります。このことを考慮し、試作した5種類の飼料を2種類ずつF1牛に食べさせて、嗜好性を評価しました。この結果と栄養成分分析値をあわせて検討したところ、表1(第2次試験)に示す割合で調製した食品残さ飼料が、嗜好性、栄養バランスとも優れていました。
 この食品残さ飼料は、配合飼料に比べて消化の早いパンくずやおからを多く含んでいるため、通常より繊維分を多く給与して反芻胃の機能を維持する必要があると考えられます。そこで、反芻胃の機能の発達・維持に重要な肥育前期(7から12ヶ月齢)に十分な量の乾牧草を給与することを条件とし、7ヶ月齢から26ヶ月齢までの間F1牛に対して給与試験を実施しました。
 その結果、発育状況、飼料摂取状況および健康状態はおおむね順調に推移し、枝肉成績についても、第1次試験の市販配合区と同程度の結果となりました(表2)。このことから、肥育の全期間を通じて、食品残さ飼料のみを濃厚飼料として給与することが十分可能であると確認されました。

第2次試験で用いた植物性残さ
乾燥おからの写真
乾燥おから
乾燥もやし
乾燥もやし
パンくず
パンくず
野菜くず
野菜くず
出荷前の肉牛の写真
食品残さ飼料100%区の試験牛
(出荷直前:26ヶ月)
枝肉の写真
通常の飼育法と遜色ないサシが入り、
「B3」の格付けを受けた試験牛の枝肉

おわりに
 エコフィードは食品残さの収集、飼料化処理、農家での利用という一連のシステムを地域一体となって構築することにより、はじめて普及する技術です。
 食品残さは、捨ててしまえばただの廃棄物となってしまいますが、有効に活用すれば立派な資源となり、家畜の飼料として畜産経営に寄与することができます。さらに、現在価格が高騰しているとうもろこし等の輸入穀類に依存することなく、国際情勢に左右されない、安定した飼料の国内供給が可能となります。
 安定的に入手できる食品残さは時代や地域により異なり、常にどこでも同じものが原料として利用できるとは限りません。しかし、入手可能な原料の特性をよく把握し、栄養バランスや嗜好性を考慮して配合すれば、飼料としての再利用が可能となります。さらに地域独自の特色ある飼料を作り出すこともできるため、畜産物のブランド化にもつながるものと思います。
 今後、当センターでは、より低コストで高品質な牛肉生産に向け、黒毛和種を対象とした食品残さ飼料の給与試験に取り組んでいく予定です。
(神奈川県畜産技術センター 畜産工学部 水宅清二)

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