神奈川県畜産技術センター 研究情報 2007.07

掲載日:2016年4月1日

神奈川県畜産技術センター 研究情報 2007年7月

「食品残さ飼料給与豚の肉質改善について」 

発酵リキッド法による飼料化
 食品残さを家畜の飼料にする方法としてはボイル乾燥、油温脱水乾燥、減圧乾燥、高温発酵乾燥法、発酵リキッド法等の技術が開発され、利用されています。その中で食品残さを粉砕、加水、殺菌した後に乳酸発酵させる発酵リキッド法は、牛乳等の液状の食品残さをそのまま利用することが可能であり、液状の飼料を好んで食べる豚の特性と併せて、養豚に適した飼料化技術と言えます。
 他にも発酵リキッド飼料には、(1)製造過程で乾燥という熱量の必要な工程がなく環境負荷が最も少ない(2)肥育前期から出荷まで、配合飼料と100%代替できる可能性を秘めており、生産コスト低減を図ることができる(3)豚舎内の粉塵が少く肺炎の減少が見込まれる、などのメリットがあげられ、「地球に優しい」、「低コスト」、「安心・安全」な畜産物の供給という現在の養豚に求められる要素を満たした飼料と考えられます。
 そこで、当センターでは平成15から18年度にかけてバイオリサイクル農水産エコプロジェクト飼料化システムユニットの共同研究に参画し、従来の残飯養豚でも良好な肉質を得られると言われている中ヨークシャー種(以下「Y」と表記)及びY交雑種を用いて発酵リキッド飼料に対する品種による特性を検討するとともに、肉質の改善方法について検討してきました。

リキッド飼料の写真
発酵リキッド飼料の例
リキッド飼料を食べる豚の写真
リキッド飼料を食べる豚

平成15から17年度の試験概要
 平成15から17年度は肥育後期(体重約70kgから)に発酵リキッド飼料を給与する試験を実施しました。試験には高脂質で水分の多い飼料に対する品種の特性を検討するため、ビタミンやミネラルなどは一切添加せずに、市販の発酵リキッド飼料を用いました。初年度にはY純粋種を、2年目にはY50%交雑種(LY、LWY)を、3年目にはY25%交雑種(LYD、LWYD)を用いて一般的な3元交雑種(LWD、WLD)と比較しながら、発育や肉質について検討を行いました。
 その結果、Y及びY交雑種の、発酵リキッド飼料給与区では、配合飼料給与区と比べ発育は多少遅れるものの、その差は3元交雑種より少なく特にLYDの発育は配合飼料区と遜色ない発育を示しました。また、肉質としては(1)リノール酸、リノレン酸など人の健康に良いと言われている不飽和脂肪酸を多く含んでいる(2)肉が軟らかい(シェアバリューが低い)、(3)脂肪の口溶けが良い(脂肪融点が低い)(4)筋肉内脂肪含量が配合飼料給与に比べ多い傾向があるなどいくつかの特徴が見られました。その他、試験を通じてY及びY交雑種が発酵リキッド飼料に適していると考えられました。
(注)Lはランドレース種、Wは大ヨークシャー種、Dはデュロック種の略称。

平成18年度試験概要
 平成18年度にはこれまでの成果を踏まえY交雑種を主に、発酵リキッド飼料のメリットを最大限生かすために肥育前期(体重約30kg)から出荷まで、発酵リキッド飼料のみを給与する肥育試験を実施しました。

★材料及び方法
 供試豚としては11週齢のLY(Y50%交雑種)、LWYD(Y25%交雑種)及び12週齢のLWD、各8頭を、リキッド区と配合区に4頭ずつ振り分け、不断給餌により体重約110kgで出荷するまで試験を行いました。試験に供した発酵リキッド飼料は従来と同様に県内の工場で厨芥を原材料として混合後、乳酸菌を添加して発酵調製されたもので、成分は表1のとおりでした。

使用したえさの成分

★結果と考察
 体重の推移を図1に示しました。発育は肥育前期(30から70kg)の一日当たり増体重は、リキッド区が0.69から0.79kg/日、配合区で0.65から0.78kg/日と有意差は見られず、LWDではリキッド区が配合区を上回りました。しかし肥育後期には全ての品種で一日当たり増体重が、リキッド区より配合区が有意に高いという結果になりました(図2)。
試験実施豚の体重推移グラフ
                        図1 体重の推移

飼育期間・品種別の増体重グラフ
                 図2 1日あたりの増体重(異符号間に有意差あり P<0.05)

 このことから水分の多い発酵リキッド飼料を給与した場合、特に発育スピードが速い肥育後期には、飽食してもなお発育に応じたTDN、DCPを充足させることが出来ず、増体につながらなかったと考えられます。リキッド区の品種別で比較するとLY、LWD、LWYDの順で一日当たり増体重が多く、その中でLYは肥育後期の一日当たり増体重が肥育前期を上回りました。肥育後期まで比較的順調に発育したことから、発酵リキッド飼料に対する適性があるものと考えられました。
 枝肉調査の結果では、LYではリキッド区が配合区に比べ(1)枝肉歩留まりが有意に高い(図3)、(2)背腰長が有意に短い、(図3)また、(3)中躯重量が大きいという結果になりました。このような点から、LYは発酵リキッド飼料を給与した場合、飼料の利用性に優れ、多くの肉量を得られる品種と考えられます。また、LYでは脂肪が背、肩、(図4)腰とも厚いという結果になりました。肉色では全品種ともリキッド区で薄くなる傾向が認められました。ロース断面積やバラ厚は全品種ともリキッド区と配合区で差は認められませんでした。
品種別枝肉検査成績グラフ1
                  図3 枝肉検査成績(1)(異符号間に有意差あり P<0.05)

品種別枝肉検査成績グラフ2
                   図4 枝肉検査成績(2)(異符号間に有意差あり P<0.05)

 肉質検査の結果、全品種ともリキッド区の筋肉内脂肪が配合区より多くなる傾向がありました。特にLWDでは有意な差が出ており、サシの多い特徴的な豚肉となりました。これは、肥育前期に脂肪分の多い飼料を給与したことにより、筋肉内脂肪が多くなったと考えられ、今後の発酵リキッド飼料による豚肉の高品質化・高付加価値の可能性が示唆されました。ドリップロス等その他の項目はリキッド区と配合区で大きな差はありませんでした。(図5)
品種別肉質検査成績グラフ
                    図5 肉質検査成績(異符号間に有意差あり P<0.05)

 今回は発酵リキッド飼料の給与によって豚がどのような生体反応を示すのかを調査するために、出荷直前に採血し血液生化学検査を実施しました。その結果、グルコース(GLU)、総蛋白(TP)、アルブミン(ALB)など殆どの項目について全品種でリキッド区が配合区より高い傾向が見られました。特にLYリキッド区では血中の中性脂肪を示すトリグセライド(TRIG)が他の全ての区に比べ有意に高いという結果になりました。(表2)
 LYは他の品種に比べ体脂肪が多いことからも、LYという品種に特有なものと考えられます。原因としては、品種的に体内の脂肪合成能が高いことによるものと考えられます。また、肝機能検査のうちリキッド区のGGTが有意に高かったことから、脂肪分の多い飼料の長期給与が豚の代謝系に何らかの影響を及ぼしたとも考えられます。さらに、LYの脂肪の厚さと脂肪合成能の関連を含め、今後調査が必要と思われます。
 試験の結果から、今回供試した品種ではLYが発育、肉質ともに良好で、発酵リキッド飼料の肥育前期からの給与に適しているものと思われました。
血液生化学検査成績の表

●今後の課題
 今回、肥育前期から脂肪分の高い発酵リキッド飼料のみで豚の飼養試験を行いましたが、肥育後期の発育性や脂肪の厚さなどに改善の余地はあるものの、概ね良好な結果が得られたことから、配合リキッド法は配合飼料価格が上昇する中で養豚経営の低コスト化につながる実用的な技術であると考えられました。
  今後は肥育後期に適応した脂肪分の少ない発酵リキッド飼料の使用や配合飼料との混合給与など、肥育後期の発育の改善と適度な脂肪厚とするための給与方法の検討や、軟らかく、サシが入りやすいといった発酵リキッド飼料の特徴を生かした高品質な豚肉生産技術の確立を目指していきたいと考えています。
(畜産工学部 山本 禎)

神奈川県

このページの所管所属は 畜産技術センター です。