神奈川県畜産技術センター 研究情報 2007.08

掲載日:2016年4月1日

神奈川県畜産技術センター 研究情報 2007年8月

「豚舎汚水からリンを含んだ肥料を回収する技術」 

はじめに
 家畜用浄化槽を管理している方の中には、配管や水中ポンプにできてくる白くて固い付着物を「なんだろう?」と疑問に思った方も多いのではないでしょうか?
 写真1は、当センターの連続式活性汚泥浄化施設にある流量調整箱内にできた付着物で、これが配管内にできてしまうと水中ポンプで移送できる汚水量が少なくなるばかりか、最も深刻な状況になると配管が閉塞して汚水を移送できなくなります。
 この状態を人間で例えるなら尿管結石と言えるかもしれません。
写真1 白い結晶

「白い付着物」の正体は?
 実は、配管内の付着物は尿管結石が出来る仕組みと同じで、水に溶けていられなくなったマグネシウムやカルシウムなどが不溶性の「結晶」となったものなのです。この結晶の主成分は、リン酸(PO42-)とマグネシウム(Mg2+)とアンモニウム(NH4+)とで、そのままずばり「リン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)」と呼ばれています。

図1 リンの化学反応式
 このMAPが生成される反応式を図1に示しました。畜舎汚水の内、特に豚舎汚水中には、この三成分が水溶性成分(イオン)として多量に含まれていますが、「ある条件」が加わると結晶化が促進されます。
 その「ある条件」とは、pHが7以上のアルカリ性になることです。図2及び3は、県内養豚場13施設から採取した豚舎汚水のpHと水溶性リン濃度及び水溶性マグネシウム濃度を示しています。pHの値が低い酸性の汚水は水溶性成分の濃度が高く、逆にpHが高いアルカリ性の汚水では水溶性成分の濃度が低くなっています。 一般に尿はアルカリ性ですが、尿にふんが混じったり、貯留している時間が長くなると、酸性になる傾向があります。 つまり豚舎汚水中の三成分は、pHが上昇することで、水溶性から結晶性へと変化し、配管や貯留槽内で「勝手に」結晶化するのです。
図2と3

重要な資源であるリン
 この「白い結晶=MAP」は、リンやアンモニアを含んでいますので肥料として利用できます。なおリンは、ほぼ全量を外国からの輸入に頼る貴重な資源の一つであり、主輸出国のアメリカが1995年に自国のリン鉱石を輸出禁止としたことに加え、急速な経済発展を続けている中国でのリン消費が増大したことから、今後ますます入手が困難となる見込みですので、豚舎汚水からMAPとしてリンを回収し、再利用することは非常に重要な課題と考えています。

爆気(バッキ)槽に送風する空気の30倍
 図1に示すとおり、MAPを生成するためには、畜舎汚水内に水溶性のリン酸、アンモニア、マグネシウムが存在し、かつアルカリ性になることが条件となりますが、外部から薬剤などを添加しなくても汚水中に空気を送り込むことで、この「アルカリ性」の条件を簡単に作り出すことが出来ます。実験では、200リットルの反応槽に送り込む空気量は、時間当たり約7m3と活性汚泥浄化槽の曝気槽に送り込む空気量の約30倍(曝気強度30m3/m3・時)とすることで短時間のうちにpHを上昇させることが出来ました。

リンを含んだ「白い結晶」を回収する試験
 そこで当センターでは、豚舎汚水からこの「白い結晶」を効率的に生成させることでリンを含んだ資源を回収し、浄化槽に流入するリンを低減する試験を平成17から18年度に実施しました。
写真2および図4 MAP反応槽の仕組み
 当センター内に直径500mmの塩ビ管で作製したMAP反応槽(反応容積約200リットル)を設置しました(写真2)。反応槽は、汚水を槽上部より投入し、その同量の汚水が槽下部に開口しているオーバーフロー管から溢れ出る構造とし、ブロワーで槽下部から曝気しました。供試した汚水は、タイマー制御により水中ポンプで汲み上げ、15分間に50リットルの割合で流入させました(図4)。槽内には、MAP付着資材としてステンレス製の網カゴの中にステンレス製の試験管立てを配置しました。

回収したリン結晶の純度は99%
 反応槽での反応時間を1時間とすることで、図5のような結果を得ました。汚水中の水溶性リン濃度が平均で60mg/リットルであったのに対し、反応後は30mg/リットル以下に低減できました。また、その際、リンの除去率は50%でした。写真3は反応槽内に約40日間浸漬しておいたステンレス製の網カゴの様子です。ステンレス製の網に結晶が付着しているのがお分かりいただけるかと思います。この付着した結晶の成分を調べてみると、純度99%のMAPであることが分かりました。
 このように塩ビ管で作成した簡単なMAP反応槽でリンを結晶化し、純度の高いMAPとして回収できることが分かりました。
図5 投入汚水と処理汚水のリン濃度写真3 網かごに付着したMAP結晶

リンとマグネシウムのバランス
 豚舎汚水中のリン酸、アンモニア、マグネシウムは、季節によってそのバランスが異なります。冬季は、リン酸とマグネシウムが同量含まれていますが、夏季はリン酸に比べマグネシウム量が少なくなっていました。ですから、夏季に実施した上述の試験のようにリン除去率が50%でしたが、マグネシウムを添加するなどリン酸とマグネシウムのバランスを取ることで、さらなる除去率の向上が見込めるばかりか、より沢山のMAPが回収できることになります。

今後の課題
これまでは、当センター内で基礎試験を行ってきましたが、今後は養豚農家での実証試験を実施していきます。 また、(独)畜産草地研究所、沖縄県畜産研究センター、佐賀県畜産試験場、沖縄県農業研究センター、佐賀県窯業技術センター、神奈川県農業技術センターが共同で、みなさんが使いやすい装置の開発や、回収したMAPの安全性、作物への施用試験など様々な側面からアプローチしていきます。
  最後に、資源回収に適した汚水を求め、みなさんの農場にお邪魔することがあるかと思いますが、その際には是非ご協力願います。なお本研究は、「先端技術を活用した農林水産研究高度化事業」により実施していることを申し添えます。
(企画経営部 川村 英輔)

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