神奈川県畜産技術センター 研究情報 2007.09

掲載日:2016年4月1日

神奈川県畜産技術センター 研究情報 2007年9月

「ナノピコオゾン水による豚舎及び長靴の洗浄効果」 

はじめに
 当センターでは、オゾンの持つ 「強い酸化力」と「時間とともに酸素に戻る」という特徴に注目し、これまでに、豚舎内に浮遊する細菌の減少を目的としたオゾンガスの豚舎内送風試験により、豚舎内の落下細菌数や鼻腔内細菌数の減少、衛生環境の改善効果を確認しました。
 しかし、開放豚舎でオゾンガスを利用するには、風、ほこり、温度、湿度等によってオゾンガス濃度が左右され、濃度を一定に保つ事が難しいことがわかりました。 そこで現在は、濃度管理が容易で、豚舎や豚体、長靴、車両の洗浄など用途が多岐にわたるオゾン水(オゾンガスを水に溶解させたもの)を使用した試験研究を実施しています。
 今回は、このオゾン水(ナノピコオゾン水)を使用した豚舎や長靴の洗浄効果についてご紹介します。
オゾン水を作る装置の写真
オゾン水生成装置

1 オゾンとは?
 最近、「オゾンホールの出現」や「オゾン層破壊」など地球規模の環境問題が取り上げられ、「オゾン」という言葉をよく耳にすることと思います。
 オゾンとは、もともとギリシャ語で「におう(ozein)」という意味で、その名のとおり青臭い特徴的な臭気を持ち、0.02ppmという低濃度でもその臭気が感じられるといわれています。
 私たちは様々なところでこの「オゾン」に出会っています。例えば紫外線を発生する誘蛾灯や殺菌灯、一昔前のコピー機など、これら機械装置の周辺で発生するあの特有の臭いこそが「オゾン」なのです。また、海浜や森林中には0.05ppm程度のオゾンが存在するといわれています。
 オゾン(O3)は酸素分子(O2)に酸素原子(O)が結合した物質ですが、非常に不安定な気体なので常温で速やかに分解され、もとの酸素(O2)に戻るという性質があります。その際に放出された酸素原子(O)が細菌や臭いのもととなる物質と結合し、殺菌や脱臭を行ないます。この反応を酸化といいますが、オゾンは非常に酸化力が強く、地上最強の酸化剤であるフッ素につぐものであり、その殺菌力は、大腸菌では1ppmのオゾン水で処理すると99%以上が瞬時に殺菌されたという報告があります。 このようにオゾンは高い殺菌効果を持ち、残留性が無い環境にやさしい物質として注目されています。
  しかし、高濃度のオゾンガスは人体に影響を及ぼすため、日本産業衛生学会では労働衛生許容濃度を0.1ppmと定めており、利用するには注意が必要です。豚への影響は、当センターで実施した試験結果では、0.1ppmのオゾンガス濃度下では、豚の体には影響が認められませんでした。

2 ナノピコオゾン水とは? オゾン水とは、水の中にオゾンガスの気泡がたくさん分散・浮遊している状態のものです。水中にあるオゾンガスの気泡が大きければ、浮力を受け水面から飛散しやすく、また、散水した時の衝撃により容易にガス化してしまいます。今回試験に使用した、共同研究者であるネイチャーズ株式会社が開発したナノピコオゾン水は、溶解しているオゾンガスの粒径が従来の一般的なオゾン水の1000分の1である5ナノメートルにまで微細化されています。そのため長時間にわたり安定化し、高い殺菌効果が期待できるオゾン水です。今回の試験では、このナノピコオゾン水を10から12ppmと高濃度に調製し試験を実施しました。なお今回、ナノピコオゾン水で豚舎を洗浄した時に豚舎内のオゾンガス濃度は0.1ppm以下であったので、豚への影響は無いものと考えられます。

3 豚房床の洗浄効果
 豚房床の細菌に対してナノピコオゾン水がどの程度殺菌効果があるか調査しました。汚れた豚房床を滅菌した綿棒でぬぐい、そのぬぐい液を10倍・100倍・1000倍に希釈し、それぞれを10から12ppmのナノピコオゾン水と混合し、生理的食塩水と混ぜた場合(コントロール)に比べ、細菌数がどの程度減少するか調査しました。結果を図1に示しました。縦軸には細菌数を対数で表示しています。
 10倍希釈(有機物量多い状態)の時は、コントロール(滅菌した生理的食塩水と混合)の細菌数は107個ありますが、ナノピコオゾン水と混合すると、104.8(約0.38%)まで減少し、高い殺菌効果が認められています。しかし、1000倍希釈(有機物量少ない状態)以上になると細菌数はコントロールの0.01%まで減少しています。

図1 豚房ぬぐい液に対する殺菌効果
図1 豚房ぬぐい液に対するナノピコオゾン水の殺菌効果

 このようにナノピコオゾン水は有機物が少なくなるほど高い殺菌力を発揮するといえます。
 また、同様な方法で10から12ppmのナノピコオゾン水と500倍・1000倍・2000倍希釈の逆性石けん液の殺菌効果を比較しました。図2に示すとおり、10から12ppmのナノピコオゾン水は1000倍・2000倍希釈の逆性石けん液と同程度の殺菌効果を持つことが確認されました。

図2 殺菌効果の比較
             図2 ナノピコオゾン水と逆性石けんの殺菌効果の比較

 そこで、実際の豚房洗浄への利用方法を検討するため、水洗後乾燥させた豚房の床(80cm×80cm)を10から12ppmのナノピコオゾン水(14ℓ/分)で洗浄しました。洗浄前、1分間洗浄後、3分間洗浄後、5分間洗浄後に9cm2の大きさをそれぞれ3カ所ずつ滅菌した綿棒で拭い、細菌数がどの程度減少するか比較しました。その結果、3分間以上洗浄をすると細菌数は洗浄前の8%まで減少し、0.6m2あたり3分間以上の洗浄することによって洗浄効果が認められることがわかりました(図3) 。

床洗浄のようす
豚房床の洗浄のようす
図3 豚房床洗浄効果
図3 ナノピコオゾン水による豚房床洗浄効果

4 長靴洗浄に対する効果
 使用頻度や種類の異なる複数の長靴で、豚房内を1分間歩いた後、長靴の靴底を10から12ppmのナノピコオゾン水(14ℓ/分)及び水道水(14ℓ/分)で洗浄したうえで、靴底の先端とかかとの部分を接触平板培地で採材し、細菌数を計測しました。長靴はナノピコオゾン水で洗浄した後、更にナノピコオゾン水に30秒・60秒間漬け、水道水で洗浄後1500倍に希釈した逆性石けん液に30秒・60秒間漬けた場合と比較しました。その結果、水道水で洗浄するだけでは、十分な除菌効果は得られず、ナノピコオゾン水で洗浄することにより、細菌数が大幅に減少しました(表1・写真1)。更にナノピコオゾン水で洗浄後に60秒間オゾン水に漬けると、水道水洗浄後に1500倍希釈の逆性石けん液に漬けた場合と同程度の殺菌効果があることが確認されました(表2)。

洗浄前の靴底
洗浄前の長靴の底
洗浄中
洗浄のようす
洗浄後の靴底
洗浄後の靴底と採材部位
表1 洗浄後長靴底の細菌数の比較

 表1

表2 ナノピコオゾン水と逆性石けんの
    浸漬による殺菌効果の比較
  表2
写真1 ナノピコオゾン水と水道水洗浄後の長靴底細菌の比較
オゾン水洗浄後の細菌培地水道水洗浄後の細菌培地

5 おわりに
 今回使用したナノピコオゾン水は1000倍希釈の逆性石けん液とほぼ同程度の殺菌効果があることが確認されました。豚房床に対して、高い殺菌効果が認められますが、反復して使用することによって豚舎内の衛生環境改善効果が期待できると考えられます。
 また、ナノピコオゾン水は長靴底の洗浄に用いると高い殺菌効果が認められ、更にナノピコオゾン水で浸漬することにより、現在長靴消毒として使用されている逆性石けん液に変わる消毒方法として十分利用できると思われます。
 ナノピコオゾン水の殺菌力を発揮させるには有機物量を減少させることが重要でありますが、十分な感作時間をとること、生成されたオゾン水は出来るだけ早く使用することも重要です。
 今後は天井からの散布や豚への飲水などと組み合わせた養豚施設へのナノピコオゾン水の応用について更に検討していく予定です。
(畜産工学部 小嶋 信雄)

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