神奈川県畜産技術センター 研究情報 2007.11

掲載日:2016年4月1日

神奈川県畜産技術センター 研究情報 2007年11月

「乳成分値を利用した栄養診断」 

1 乳牛の栄養診断
 乳牛にとって効率的な牛乳生産と健康維持や繁殖のためには、牛乳の生産に見合った栄養を摂取することが最も重要なことです。しかし、給与した飼料を乳牛がどれだけ利用しているかを正確に把握することは困難であり、一般的には、乳量やBCSの変化、乳房の張り、毛づや、糞の性状などから、推測して判断されています。一方、血液中のグルコース値、コレステロール値、尿素窒素値等から数値として栄養の充足を把握することができますが、頻繁に行うのはなかなか大変です。そこで、採取と測定が容易な乳成分値が乳牛の栄養診断に利用されています。

2 県内のバルク乳成分値 乳成分値は牛乳の価格や栄養的な評価に利用されていますが、乳牛が摂取した飼料や乳牛の健康状態により変動することが古くから知られています。とくに、乳蛋白質率はルーメン微生物体蛋白と相関し、摂取したエネルギーの過不足を表し、乳中尿素窒素濃度(以下、MUN)は、飼料中の蛋白質の最終代謝産物であるため(図1)、蛋白質の過不足や蛋白質とエネルギーのバランスを表します。
 そこで、乳成分値を飼養管理の改善に利用できないかと考え、平成18年4月から平成19年3月に県酪連生乳検査室で測定した県内酪農家384戸(延べ13,298検体)のバルク乳の乳蛋白質率及びMUNの実態を調査しました。
 調査した全バルク乳の乳成分値は表1のとおりで、乳蛋白質率の平均は3.25±0.17%、MUNの平均は11.40±2.47mg/dlでした。測定値の平均と標準偏差から、県内酪農家のバルク乳の標準値を、乳蛋白質率3.1から3.4%、MUN9から14mg/dlと設定しました。

図1 乳中尿素窒素(MUN)とは
図1 MUNとは
MUN:摂取したタンパク質の最終分解物。ルーメン内で利用されなかったたん白質を表す。

表1 平成18年度のバルク乳成分値
表1

3 乳成分値を利用した栄養診断
 乳蛋白質率とMUNの測定値を図2のように組み合わせて、乳牛の栄養診断を行うことができます。MUNが標準値より高い場合には飼料中の分解性蛋白質の過剰が、標準値より低い場合には分解性蛋白質の不足が疑われます。また、粗蛋白質量が十分でも非分解性蛋白質の割合が高過ぎる場合にはMUNは低下します。一方、乳蛋白質率が標準値より低い場合には飼料中のエネルギーの不足、標準値より高い場合にはエネルギーの過剰が疑われます。乾草やサイレージのロットが変わったときや牛群にトラブルが発生しているときはこれらの数値の変化を確認してみて下さい。  乳牛の健康を維持するためには、飼料中のエネルギーと蛋白質を適正な割合で摂取させることが必要です。エネルギーを充分に摂取していても蛋白質が不足した場合には乳量の低下や繁殖障害が発生し、反対に、蛋白質の過剰が長期間続くと肝臓への負担が大きく、蹄病や繁殖障害が発生することが知られています。また、蛋白質の過剰は飼料費の高騰につながりますので、飼料給与の改善によって乳蛋白質率やMUNを適正な範囲に保つことは、乳牛の健康を維持することと同時に乳生産や経営の効率化にもつながります。

図2 乳蛋白質とMUNによる栄養診断
図2 乳蛋白とMUNによる栄養診断

4 乳成分値と繁殖成績
 今回設定した標準値を用いて県内の牛群検定農家の繁殖成績と乳成分値の関わりをまとめてみました。過去1年間の牛群の分娩間隔が短い農家(平均分娩間隔399.3日、10戸)の乳蛋白質率及びMUNの分布は、それぞれの乳成分値が標準値の範囲に分布した検体が71.7%を占めていました(図3)。

図3 分娩間隔が短い農家(平均399.3日)の乳蛋白質とMUNの分布割合(%)
図3の1図3の2

 これに対して、分娩間隔が長い農家(平均分娩間隔511.6日、10戸)は、標準値の範囲に分布した検体は42.9%であり、分娩間隔の短い農家に比べて乳成分値のばらつきが大きいことが確認されました(図4)。

図4 分娩間隔が長い農家(平均511.6日)の乳蛋白質とMUNの分布割合(%)
図4の1図4の2

 繁殖成績の低下にはさまざまな要因が絡んでいますので、乳成分値だけを見て問題を解決することはできませんが、分娩間隔が長い農家では、乳成分値のばらつきが大きいことから、給与飼料の量や質の変動が大きいこと、エネルギーや蛋白質のバランスを欠いていることなどが課題となる可能性があります。

5 まとめ
 今回示した乳成分値の標準値は、平成18年度の測定値のみから設定した数値です。乳成分値は、気候、牛群構成、飼料給与方式等、さまざまな要因によって変動しますので、実際に飼養管理改善の指標として利用するためには、農家毎の測定値から適正値を把握して利用するとよいでしょう。トラブルが無く、順調に搾乳しているときの数値がその牛群の適正値とも言われています。また、BCS、毛づや、乳房の張り、乳量など牛から発信されるサインと合わせて検討することも必要です。
 乳成分というと体細胞数や細菌数の数値がよく注目されているようですが、乳牛の健康維持と経営の効率化のために乳蛋白質率やMUNの数値を利用してみてはいかがでしょうか。
(神奈川県畜産技術センター 畜産工学部 秋山 清)

神奈川県

このページの所管所属は 畜産技術センター です。