研究情報 2008年6月

掲載日:2016年4月1日

受卵牛へのホルモン剤投与が受胎に及ぼす効果について

1 はじめに
 平成20年2月29日に、受精卵移植にかかる全国会議が農林水産省主催で行われました。報告によると我が国での平成17年度の受精卵移植による生産頭数は、乳用種が15%、肉用種が85%を占めており、肉用種の受精卵を乳用種へ移植するものが多くを占めているとのことでした。交雑種(F1)子牛価格は平成18から19年度にかけて下がっていることから、酪農家の中には、ホルスタイン種に黒毛和種の精液を授精するよりも黒毛和種の受精卵移植を希望する人が増えてきており、今後も和牛受精卵移植は増加すると考えられます。しかし、全国会議では、「受精卵の移植頭数、出生頭数ともに増加傾向にあるが、受胎率は平成7年から45%程度で横ばい傾向にあり、伸び悩んでいる」という報告もありました。
 また当センターが供給した受精卵の受胎率は40%程度で推移しており、移植状況を細かく分析してみると、受卵牛の平均空胎日数が平成16年から300日以上となっており(図1)、繁殖機能の低い牛が受卵牛に含まれている可能性があります。県内の受胎率がなかなか向上しないのは、このあたりにも原因があるのかもしれません。
図1 受卵牛の空胎日数と受胎率のグラフ

 受精卵移植の基本は、「良い技術で、良い受精卵を良い牛に移植する」と言われています。これは、受胎率を向上させるためのポイントとしてこの3点が重要であることを示しています。「良い技術」とは、無菌的に子宮内を傷つけず受精卵を子宮に置いてくること、「良い受精卵」とは、形態的に発育ステージが適切で、変性細胞の少ないランクの高い受精卵、「良い牛」とは、適切に管理され良好な発情周期を示す黄体の充実した牛、ということです。
 我々は、受卵牛の黄体機能を向上させるホルモン剤を投与することで、受卵牛の状態を改善し「良い牛」をより多くそろえられないかと考え、平成13年度から他府県10県と共同で、2種類のホルモン剤を受精卵移植前後の様々な時期に投与して、黄体機能や共存卵胞及び受胎率に与える効果を検討しましたのでご紹介します。

2 hCG投与による受胎率向上への取り組み
 平成13年から15年までの3カ年間で延べ828頭の受卵牛に、胎盤性性腺刺激ホルモン(hCG:1500単位)を移植の前後に筋肉内投与し、受胎率に対する効果を検討しました。投与時期は、平成13,14年度は移植前日(発情後6~7日目)又は移植後7日目(発情後13~4日目)、平成15年度は、移植前々日(発情後5日目)又は移植日(7日目)に投与しました(図2)。
図2 hCG投与スケジュール

 結果を表1に示しました。平成13から14年度の試験(上段)では、移植前日での受胎率は46.8%、移植後7日目の受胎率は45.3%で無投与の対照区(43.9%)と受胎率に差は認められませんでした。しかし、図3のように移植時の黄体長径が1cm以下の牛では、移植前日(52.6%)、移植後7日目(54.2%)で対照区(35.0%)と比較して受胎率が高くなりました。これは、黄体機能の弱い牛に対するhCGの黄体増強効果によるものと考えられました。

表1 hCG投与日別の受胎率 図3 黄体の小さい牛へのhCG投与効果

 平成15年度の試験(表1下段)では、移植前々日の受胎率は50.9%、移植当日投与の受胎率は55.6%、無投与の対照区は42.6%となり、移植当日では対照区と比較して統計的に有意に高い受胎率が得られました。
 また、移植するときに卵胞が共存する場合には(図4)、移植日に投与した区で有意に受胎率が高まりました。これは、hCGが黄体機能を増強するとともに、副黄体が形成されたためではないかと考えられました。

図4 hCG投与日別の受胎率

 これらのことから、hCGを移植日に投与することで受胎率が向上することが明らかになり、黄体の小さい牛では移植前々日、移植後7日目の投与でも効果が認められることがわかりました。また併せて、hCGを投与した区では、投与後の血中プロジェステロン濃度の上昇も認められました。プロジェステロン濃度は妊娠に重要であり、hCG投与によって黄体機能が高められ、黄体からのプロジェステロンが分泌されたと考えられました。
 しかし、hCGは分子量が大きく、牛では抗ホルモン抗体が産生されて、何回も投与すると効果が減ずることが問題となります。そこで、別の薬剤についても検討を行いました

3 GnRH投与による受胎率向上への取り組み
 性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH:酢酸ブセレリン10μg)を使用して、延べ645頭の受卵牛に、移植前後に筋肉内に投与することで検討を行いました。移植前日(発情後6~7日目)又は移植後7日目(発情後13~4日目)に投与しました(図5)。

図5 GnRH投与スケジュール

表2 GnRH投与日別の受胎率
  結果を表2に示します。
  GnRHを投与した区はいずれも無投与の対照区と比較して受胎率に差は認められませんでした。しかし、両区において、投与翌日の血中エストロジェン濃度の有意な低下が認められました。エストロジェンは妊娠に重要な黄体機能を弱めると言われています。エストロジェンに関しては、GnRH投与は低下効果が認められました。
 そこで、平成18年度には、GnRHの投与時期を移植後4日目にし、血中エストロジェン濃度が妊娠確認に重要な時期に下がるように設定して効果を検討しました。移植は、ホルスタイン種140頭、黒毛和種44頭、褐毛和種16頭、その他10頭の計210頭に行いました。  表2の下段に結果を示しましたが、こちらも無投与の対照区と比較して、受胎率に差は認められませんでした。
 しかし、受卵牛の種別で分析してみると、図6に示すように、ホルスタイン種経産牛においてGnRHを投与した試験区(36.1%)が、無投与の対照区(16.7%)と比較して受胎率が高い傾向が認められました。また、その他では、体外受精卵においても図7のような結果が認められました(試験区45.5%、対照区37.5%)。

図6 経産牛におけるGnRH投与に及ぼす効果 図7 GnRH投与による体外受精卵の受胎率

4 まとめ
○受胎率向上のポイントは、「良い技術で、良い受精卵を良い牛に移植する」こと
○ホルモン剤は、どんな牛にも効果があるとは限らない

 hCGは移植時に投与すると効 果があり(特に7日目は有意に増加)、黄体の小さい牛には移植前日投与、移植後7日目の投与でも効果が認められた。
○hCGは、抗ホルモン抗体ができやすいので、同じ牛に何度も投与しない方がよい
○GnRHはホルスタイン種経産牛への移植後4日目の投与で受胎率が高い傾向だった

☆ホルモン剤の反復投与を防ぐために、導入牛も含めて飼養する牛の投与履歴(カルテ)を整理しておくと良いでしょう。

(畜産工学部 坂上信忠)

神奈川県

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