研究情報 2008年8月

掲載日:2016年4月1日

系統豚「カナガワヨーク」と「ユメカナエル」を活用した豚肉生産

1 はじめに
 養豚の飼養規模が拡大し、豚肉の加工・流通方式が大量化・規格化する中で、これまで以上に生産性が高く、斉一性(バラツキのないこと)に優れた肉豚生産が必要となってきました。肉豚の生産の基礎豚となる純粋品種の中でも産肉能力に優れているものや、繁殖能力に優れているものがいたりとどうしても個体によるバラツキが出てしまいます。そのため、各品種において、より斉一性が高い血縁を持つ「系統豚」が各県で造成され、生産者に利用されています。
 畜産技術センターでは、平成3年度に完成した大ヨークシャー種の系統豚「カナガワヨーク」(写真1)と平成14年度に完成したランドレース種の系統豚「ユメカナエル」(写真2)の二つの系統豚の維持、配布をしています。今回は、この系統豚の特徴や能力についてご紹介します。

写真1 カナガワヨークのオス
写真1 カナガワヨーク(大ヨークシャー種)のオス
写真2 ユメカナエルのメス
写真2 ユメカナエル(ランドレース種)のメス


2 系統豚とは
 お互いに一定以上の血のつながりを持った豚の集団のことを「系統」と言い、その集団を構成するそれぞれの豚を「系統豚」と言います。実際にどの程度血のつながりがあると「系統」と認定されるかというと、本県では集団内の平均血縁係数が20%以上、かつ全ての個体同士の血縁係数が10%以上であることと豚産肉能力検定の合格判定基準を満たすことが条件となります。 血縁係数は同腹のきょうだい同士が50%、異母きょうだい同士が25%、いとこ同士が12.5%となるので、本県の系統豚は、集団内のすべての個体同士が異母きょうだいに近い血のつながりを持っているといえます。
 このように集団内に一定以上の血のつながりを持たせることによって、集団内のどの豚も能力がほぼ揃っている状態になります。 この系統豚を肉豚生産に利用することにより、発育性や産肉性が揃った肉豚を長期間にわたり生産することが可能となります。
 系統造成は昭和44年度から全国的に取り組まれており、現在、全国でランドレース種19、大ヨークシャー種12、デュロック種5 、バークシャー種3、合成系統豚1、計40種類の系統豚が維持されている他、現在計15種類の系統豚が造成中です。

3 系統豚の名称
 系統豚の名称は鹿児島県のバークシャー種「サツマ」や山梨県のランドレース種「フジザクラ」のように各々の地名や地域の花等にちなんだものが多いのが特長です。
 本県の「カナガワヨーク」という名称は、県民に一般募集したところ、235点の応募があり、その中から当時の長洲知事が、県名と大ヨークシャー種の「ヨーク」を組合せた「カナガワヨーク」を選び、決定しました。また、「ユメカナエル」という名称は、「一般の方からも親しみやすい名称とする」ため、その決定には消費者の方に参加してもらう方法をとることになりました。四つの候補名の中から当センターのホームページを利用して系統豚のイメージに一番ピッタリな名称を一般の方から投票してもらいました。その結果、「夢(ユメ)」、神奈川県の「カナ」とランドレース種の頭文字「L(エル)」を使用し「夢を叶える」という期待を表現している「ユメカナエル」が約七割の投票数を獲得し、名称として決定しました。

4 「カナガワヨーク」の特徴
 大ヨークシャー種の系統豚「カナガワヨーク」は、産肉性(発育が速く、ロース肉が多い)の改良を目標に昭和59年度から系統造成を開始し、8年間かけて平成3年度に完成しました。  図1にカナガワヨークの産肉性を表す指標であるロース断面積の推移を示しました。平成19年度の調査結果は雄32.3cm3、雌30.9cm3であり、改良の目標とされた産肉性において高い能力が保持されています。
 表1にカナガワヨークの繁殖成績について示しました。平成19年度は89.9%の育成率を示し、カナガワヨークは子育てが上手な系統豚でもあることが伺えます。また、現在産肉性以外にも特に強健性等、生産者のニーズにも応えられるよう選抜を行っており、体の幅、深みがあり、骨格のしっかりした系統豚を選抜しています。造成当初指摘された肢の細さについても、近年改良されており雄で18cm、雌で17cmを超えています。(図2)
 現在の維持集団の大きさは認定時と同じ雄10頭、雌35頭としています。平成19年度は74頭が分娩し、721頭の子豚が生産され、順調に育っています。
 また、19年度からは生産者の「より大柄で強健性に富む大ヨークシャー種」に対するニーズに対応するために体型、肢蹄の改良を目標に外部の優良種豚との交配試験を実施しています。初年度は3農場6頭の精液を購入、人工授精し5頭が分娩しました。分娩産子はカナガワヨーク同様、繁殖能力、体型。産肉能力について調査し、その成績を優良種豚生産の基礎データとして生産者に還元する予定です。(写真3)
図1 カナガワヨークのロース芯断面積の推移
図1 カナガワヨークのロース芯断面積の推移

表1 カナガワヨークの繁殖成績

図2 カナガワヨークの管囲の推移
図2 カナガワヨークの管囲(前足首の太さ)の推移

写真3 カナガワヨークを利用した優良種豚の生産
写真3 カナガワヨークを利用した優良種豚の生産

5 「ユメカナエル」の特徴
  ランドレース種の系統豚「ユメカナエル」は産肉性の高い能力を持つ「カナガワヨーク」の交配相手として、繁殖性と強健性を改良することを目的とし、平成7年度から8年間かけて系統造成を行いました。
 ユメカナエルの強健性の指標とした管囲(前足首の太さ)について図3に示しました。造成開始時から順調に太く改良され、平成19年度の調査結果では雄18.5cm、雌17.9cmと認定時に比べても約1cm太くなり、連産に耐えられる骨格のしっかりとした強健性を持つ豚になっています。また、体の長さ、深み、幅も増してきており、体型的にも優れています。
 表2にユメカナエルの繁殖成績について示しました。平成19年度は87.9%高い育成率を示しており、また、21日齢の子豚の平均体重も6.8kgと大きく、高い繁殖能力を持っています。  現在の維持集団の大きさは「カナガワヨーク」同様、認定時と同じ雄10頭、雌35頭としています。平成19年度は56頭が分娩し、589頭の子豚が生産され、順調に育成されています。

表2 ユメカナエルの繁殖成績

図3 ユメカナエルの管囲の推移
図3 ユメカナエルの管囲の推移

6 おわりに
  今回、紹介しました二つの系統豚を交配して生まれたF1雌豚(交雑種)は、両方の高い能力を受け継いでいるため、肉豚を生産する母豚に適しています。  さらにこのF1雌豚に県内生産者が飼養している肉質の優れたデュロック種の雄豚を交配して三元交雑種の肉豚を作ることによって、これまで以上に生産性が高く、おいしい豚肉の生産が可能となると思われます。
 現在、本県では生産者がこれらの系統豚を効率的に利用できるように、生産者団体である(社)神奈川県養豚協会を中心とした配布体制が整備されています。畜産技術センターでは、養豚協会を通じてF1雌豚生産の基礎豚として年間約100頭前後の系統豚を生産者に供給し、県内の肉豚生産の約10%に寄与しています。
 このような体制の中、畜産技術センターでは、今後とも長期にわたり系統豚を安定的に供給するため、近交係数上昇を抑制する計画的な交配等の研究を実施していきます

(畜産工学部 山本 禎)

神奈川県

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