研究情報 2008年10月

掲載日:2016年4月1日

アニマルウェルフェアに配慮した採卵鶏の飼養技術の検証

はじめに
 動物福祉の先進国であるEUでは、2012年以降、産卵鶏のバタリーケージによる飼養が禁止されており、国際獣疫事務局(OIE)でも世界動物福祉基準を現在検討しています。このような世界情勢の中で、わが国においても、産卵鶏の福祉に配慮した飼養方法を早急に確立する必要があり、そのための科学的根拠として、各種飼養システムにおける生産性、福祉性等の違いを多面的に調査する研究が求められています。
 そこで、神奈川県畜産技術センターでは、わが国の採卵鶏農家で多く採用されているバタリーケージ、家畜福祉に配慮した福祉ケージ、平飼いや放牧等の6つの採卵鶏の飼養方法について、行動、生産性等を指標として多面的に評価し、これらの飼養方式のメリット、デメリットを明らかにするための飼養試験を麻布大学と共同で実施しましたので、ご紹介させていただきます。

1 試験内容
 飼養期間は平成18年5月から平成19年8月まで行い、16週齢から80週齢までの交雑鶏(WL×RIR)284羽を供試し、(1)小型バタリーケージ(以下、小型バタリー)、(2)EUでの飼養管理基準(一羽あたりのケージ面積550m2以上)を満たした大型バタリーケージ(以下、大型バタリー)、止まり木、巣箱および砂浴び場を備えた(3)小型の福祉ケージ(以下、小型福祉)、(4)大型の福祉ケージ(以下、大型福祉)(図1)、(5)平飼い、(6)平飼いに野外の放牧場を付設した放し飼い(以下、放牧)の6つのシステムで飼養しました。

図1 大型福祉ケージの模式図
図1 大型福祉ケージの模式図
(N:巣箱 D:砂浴び場 P:止まり木 W:ニップル式給水器

2 生産性の比較
 生産性では、生存率が小型福祉で100%と、小型バタリー、放牧と比較して高かった以外、その他の項目については、統計的に有意な差は認められませんでした(表1)。

表1 生産性の成績(20から80週齢)
表1 生産性の比較

 なお、平成17年度に大型福祉で80週齢の老齢鶏を3ヶ月間飼養した試験では、羽毛つつきが多く認められ、産卵率等の生産性が低下しましたが、老齢鶏であった点や照度が高かった点が要因と考えられました。そのため今回の試験では、若齢鶏から供試し、大型福祉は開放窓を黒色の寒冷紗で遮光したブラックアウト鶏舎内で試験したところ羽毛つつきが低減し、生産性も低下しませんでした。
 また、卵質では、放牧と平飼いで、卵殻厚が厚く卵殻色が薄い特徴が認められました。

3 行動の比較
 行動観察の成績は表2のとおりで、慰安行動の羽ばたきや移動行動が放牧、次いで平飼いに多く観察されたことから、非ケージシステム、特に放牧では行動が多様で活動性が高いと考えられました。一群における飼養羽数が大きい大型福祉、平飼いでは、飼養羽数が少ない小・大型バタリー・小型福祉に比べて、羽毛つつきが多い傾向がありました。しかしながら、同様に一群あたりの飼養羽数が大きい放牧では、羽毛つつきは多くありませんでした。これは、放牧では日中、野外放牧場で土や草などをつつく機会が多く、また、個体間距離がより遠かっため、結果として羽毛つつきが減少したものと思われました。

表2 行動観察の成績(22から63週齢)
表2 行動観察の成績

4 生理・免疫反応
  放牧、平飼いの非ケージシステムでは、冠(とさか)の赤色の度合いが大きく(表3)、肉眼でも冠が濃く見え、血色が良いことがわかりました。また、これらの非ケージシステムでは、解剖時に腹腔内脂肪重量割合が少なく、脂肪肝の程度が軽い傾向がありました。これらの二つの面からみると、非ケージシステムはケージシステムより健康状態が良かったと思われました。一方、ケージシステムの小型、大型バタリーでは、ストレスの指標となる血液中の偽好酸球とリンパ球の比率(H/L比)が高く(図2)、免疫反応の指標となる遅延型過敏反応が低めに推移したことから、ストレス反応が強く、免疫反応が弱い傾向があったと推察されました。

表3 冠の色調、ヘマトクリット値
システムa※値ヘマトクリット値
小型バタリー16.7 a30.5
大型バタリー13.9 a29.5
小型福祉16.2 a30.5
大型福祉13.8 a30.4
平飼い23.5 b27.3
放牧29.4 c30.1

※同一項目内において異符号間には有意差あり(P<0.05)

図2 H/L比の推移
図2 H/L比の推移

 以上のように、今回の試験では各飼養システムの特徴が認めらました。行動、生理・免疫反応からみると、放牧は、それ以外の飼養システム、特にバタリーと比較して、福祉レベルが高いと考えられました。
 しかし、バタリーを含むケージシステムはわが国の養鶏場で現在多く採用されており、また、集約的で衛生的であるというメリットがあります。そのため、平成20年度からは、ケージシステムにおいて、経済性と快適性のバランスがとれた採卵鶏の飼養方法を検証する試験を開始しています。今後、成績がまとまり次第、ご報告させていただく予定です。
 なお、現在農林水産省では、国際的にアニマルウェルフェアへの取り組みが進んでいることへの対応として、わが国の家畜飼養の特徴や経済性を踏まえて、日本独自の家畜飼養管理指針などを作成する取り組み(平成19から22年度)を実施しています。
  当センターも、この指針をどのように養鶏現場へ反映していくかを視野に入れながら、本試験を継続していきたいと考えています。

(畜産技術センター 畜産工学部 平原敏史)

神奈川県

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