技術情報 2008年11月

掲載日:2016年4月1日

和牛放牧による有害鳥獣及び荒廃農地対策への支援

はじめに
 県内の農地は、耕作者の高齢化や後継者不足等により、耕作放棄による荒廃や遊休農地が年々拡大しています。それにともない、耕作放棄地が有害鳥獣の潜みやすい場所、ヤマビルの発生しやすい場所となり、山際の農地ではイノシシ等の有害鳥獣による農作物の被害や、ヤマビルが大量発生による吸血被害が拡大しています。
 このような中で、耕作放棄地に繁殖和牛を放牧し、雑草を採食させ低コストで省力的に農地を管理・復元しやすい状態にするとともに、有害鳥獣やヤマビルの侵入を防ぐ取り組みが実施されています。
 そこで普及指導部では、地域での放牧の取り組みが円滑に行われるよう、技術的支援をおこなっています。

1 各地域での放牧の取り組み経過
 当センター関与の事例としては、平成18年9月に伊勢原市の耕作放棄地に当センターの繁殖和牛2頭を貸与する形で放牧が試行されました。その結果、耕作放棄地の解消、有害鳥獣による被害の軽減に一定の効果が確認されたため、伊勢原市では地域畜産活性化支援対策事業(県事業)を利用して、平成19年度以降も引き続き放牧を実施しています。なお、放牧に供する繁殖和牛は農家所有のものに変更し、畜産技術センター内の放牧場で2から3週間の馴致放牧を行い、放し飼いや電気牧柵に馴れさせました。
  また平成20年度は、新たに秦野市でも同事業を利用した耕作放棄地への繁殖和牛放牧を開始しています。

2 畜産技術センターの支援
 当センター普及指導部では、各地域で行われている放牧の取り組みに対し、放牧管理の技術的支援・助言のほか、放牧牛の状態確認、放牧地の草勢の確認等を行っています。
(1)放牧管理に対しての支援
 各地域の放牧地は地形、環境条件などが異なるため、それぞれの放牧地について施設(電気牧柵、飲水施設、日よけ等)の設置、放牧期間の設定などについて助言を行いました。
(2)放牧牛の状態確認
 放牧牛について、定期的な栄養度の判定と健康状態の確認を実施しました。
(3)放牧地の草勢の確認
 放牧地の草種、草勢についての確認、採食状況の確認を行い、放牧期間の設定に対しての助言を行いました。 また、定点観察を行い、採食状況を調査しました。
  なお、当センター畜産工学部では馴致放牧時の牛の受入管理を行い、企画経営部では、平成19年度から伊勢原市の放牧事業地を対象として、ヤマビルの拡散の抑制に関する調査研究を実施しています。

3 放牧の効果と支援の成果

 放牧管理に関しては、適切な放牧施設の設置により、脱柵事故や放牧地の崩壊などの発生を防止することができました。 放牧地の草勢調査は、放牧期間の設定に活用しました。また、放牧牛のコンディションを良好に保つため、採食状態と放牧牛の栄養度とを照らし合わせ、タイミング良く補助的に稲ワラ等を給与したことにより、健康状態は良好に保たれました(写真1、図1)。写真1 繁殖和牛めすの写真
写真1 放牧に用いた繁殖和牛めす牛

図1 放牧牛の栄養度変化
            図1 放牧牛の栄養度の変化

 また、3年にわたり継続して放牧を行った伊勢原市の事例では、放牧地の草勢を定点観察する中で、耕作放棄地にはびこるカヤの株が年々小さくなり、放牧を継続することで、農地に復元しやすい状況となることが確認されました(写真2から4)。

平成18年の写真
写真2 平成18年10月18日
平成19年の写真
写真3 平成19年6月7日
平成20年の写真
写真4 平成20年6月6日

 これまでの各地域の放牧の取り組みで、耕作放棄地の解消、鳥獣被害の軽減など、一定の効果が得られており、年々放牧地面積が拡大しています。今後は、他市町村への波及も期待されます(表1)。
表1 放牧期間と放牧面積

4 今後の取り組み
 鳥獣害について、平成19年度に伊勢原市が行った周辺耕作者への聞き取りによれば、鹿やイノシシのほか、特に猿の被害が減少したとのことでした。平成20年度には、放牧地に隣接してサツマイモを試験的に栽培したところ、放牧期間中の、野生動物の侵入は、ほとんどありませんでしたが、牛の転牧直後に野生動物による被害があり(写真5)、牛の放牧によって、ある程度の忌避効果があることが確認できました。また、このことから被害軽減には作物の収穫期まで放牧するなどの放牧期間設定が必要と考えられました。

転牧前はサツマイモあり 転牧後はサツマイモなし
    写真5 転牧前(左)と転牧後(右) のサツマイモ被害

 このほか、転牧や日常の飼養管理の省力化、安全性の確保のためにも、馴致放牧では電気牧柵への馴致だけでなく、人への馴致調教をしっかりと行う必要があります。さらに今後は、当センターでの馴致放牧後の放牧地への移動という労力を軽減するため、現場での馴致放牧の方法も検討していきます。
 なお、伊勢原市では彼岸花シーズンの放牧地が観光資源としての一面も持っているため、当センターとしても技術指導とあわせて、脱柵防止等、より一層の安全対策に対する支援も行っていきます。

(普及指導部 齋藤直美)

放牧のようす
放牧地での牛のようす
旺盛な食欲
草丈が高い草も旺盛に採食します
きれいな彼岸花
放牧地わきの彼岸花

神奈川県

このページの所管所属は 畜産技術センター です。