研究情報 2009年3月

掲載日:2016年4月1日

畜舎汚水からリンを含んだ肥料を回収する技術

はじめに
 植物の肥料成分であるチッソ(N)チッソ・リン(P)・カリウム(K)のうちPは、国内では産出されず、ほぼ全量を外国からの輸入に頼る貴重な資源の一つです。
 最近では中国やインドなどの新興国での消費が増大しているばかりか、主要輸出国のアメリカがリン鉱石の輸出を禁止したことで、ますます入手困難になりました。
 このことを受け、H20年7月にJA全農が主要な肥料の販売価格を引き上げたことは記憶に新しいところです。
 そこで、当センターでは、畜舎汚水の肥料成分、特に豚舎汚水にリン酸が多く含まれている点に注目しました。

豚舎汚水から結晶として回収できる肥料成分
 畜舎汚水から「結晶化法」を利用して回収できる肥料は、リン酸:アンモニア:マグネシウムがモル比で1:1:1からなるリン酸マグネシウムアンモニウム(以下MAP)です。このMAPを生成する反応式は図1のようになります。特に豚舎汚水中には、上記三成分が多量に含まれており、汚水のphが低い時には水溶性成分(イオン)として存在しますが、phが7以上のアルカリ性になると不溶性となり結晶化するのです。
 このとき、外部から薬剤などを添加しなくても「汚水中に大量の空気を送り込む」ことで、簡単にアルカリ状態を作り出せることは、以前ご報告(平成19年8月)したとおりです。

図1 リンの結晶化反応

リンとマグネシウムのバランス
 豚舎汚水中のリン酸、アンモニア、マグネシウムは、図2に示すように季節によってそのバランスが異なります。冬季は、リン酸とマグネシウムが同じ比率ですが、すでに結晶化がすすんでおり、濃度も薄く多くは回収できません。反対に夏季は、リン酸の濃度は高いのですが、マグネシウムの比率が約半分であるため、せっかくのリンが十分結晶化できませんでした。
 そこで、夏季はマグネシウムを外部から投入し、リン酸とマグネシウムとのバランスを整えれば結晶化反応が効率よく進むと想定されました。
図2 水溶性リン、マグネシウム濃度とMg/P比の季節変動
マグネシウム添加試験
 図3のような直径500mmの塩ビ管で作製したMAP反応槽(反応容積約200リットル)を用いて豚舎汚水からMAPを回収する試験を行いました。反応槽は、汚水を槽上部より投入し、その同量の汚水が槽下部に開口しているオーバーフロー管から溢れ出る構造とし、ブロワーで槽下部から曝気しました。供試した汚水は、タイマー制御により水中ポンプで汲み上げ、15分間に50リットルの割合で流入させました。また、マグネシウム源として用いた約30%濃度の塩化マグネシウム液(フレーク状の融雪剤を溶解して使用)は、汚水量の0.1%を反応槽内に投入しました。槽内には、MAP付着資材としてステンレス製の網カゴを3重に重ねて配置しました。
図3 MAP反応槽及び消泡槽の概略図

汚水中の水溶性リン1kgから回収できるMAP は?
 汚水中の水溶性リン濃度が平均で60mg/リットルであったのに対し、反応後は15mg/リットル以下に低減できました(図4)。前回ご報告した試験では、汚水中の水溶性リン濃度が平均で60mg/リットル、反応後は30mg/リットルとなり、リンの除去率は50%でしたが、マグネシウムを添加することでリンの除去率が80%前後に向上しました(図5・表1)。(反応後の汚水中の水溶性マグネシウム濃度は40mg/リットル程度になるよう調整)写真1は反応槽内に約44日間浸漬しておいたステンレス製の網カゴの様子です。ステンレス製の網カゴに付着した結晶物の重量は約5.3kgとなり、成分を調べてみると、純度98%のMAPであることが分かりました。
 44日間の投入汚水量と汚水の水溶性リン濃度から算出した投入水溶性リン量及び排出水溶性リン量は、それぞれ8.73kg及び2.14kgと算出されました(図6)。この投入リン量8.73kgから回収できたMAPは5.3kgであり、投入水溶性リン量1kgから回収できるMAP量は、約0.61kgであることが分かりました。   

図4 反応前後の水溶性リン濃度(Mg添加)図5 反応槽内でのリン除去率
表1 Mg添加がリン除去率に与える影響写真1 網カゴに付着したMAP
写真1 網カゴに付着したMAP

図6 付着部材に網カゴを組み合わせたMAP回収試験


ランニングコストの計算
 本装置は、汚水及びマグネシウム投入用に0.4kwのポンプと反応槽下部からの送風用に0.75kwのブロワー(インバーター制御により出力を調整)を用いています。表2に示すように送風用のブロワーが常時稼働していますので、全コストの53%が電気代となります。この表から算出した回収MAP1kgあたりのコストは2,367円となりました。

表2 MAP回収に要するコスト試算  写真2 現地実証農家のMAP反応装置

回収した結晶に付着した大腸菌
 反応槽内から引き上げた直後の網カゴに付着した回収物には、1gあたり104個の大腸菌が確認されました。この網カゴを60℃の温風で乾燥させると、24時間後には大腸菌が検出されなくなりました。このように豚舎汚水から回収したリンを含むMAPは、乾燥工程を経ることによって衛生的な肥料となることが分かりました。

最後に
 本技術は、簡易な装置でリンを回収できますが、普及にあたってはランニングコストの低減化が必要であると考えています。そこで回収効率の向上やコスト削減に向けて、当センター内での基礎試験から養豚農家での実証試験に移行しました(写真2)。
 最後に本研究は「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業」(農林水産省)の研究課題である「結晶化法によるリン除去回収技術の簡易化・低コスト化手段の開発」(課題番号180066)の研究で得られたことを申し添えます。

(企画経営部 川村英輔)

神奈川県

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