研究情報 2009年6月

掲載日:2016年4月1日

シンバイオティクスを用いた乳用子牛の哺育管理技術の開発

はじめに
 代用乳や人工乳などの子牛用飼料には、発育促進を目的とした抗菌性飼料添加物が添加されています。しかし、抗菌性飼料添加物の使用により薬剤耐性菌や腸内細菌のバランスを乱すことなどが心配されることから、欧州では成長促進を目的とした使用が禁止されています。また、社会全体として安全性の高い食品の提供が求められていることから、抗菌性飼料添加物の使用を減らした家畜の飼養管理技術の確立が期待されています。
 今回は、子牛の免疫の向上や整腸作用による発育促進が期待されるシンバイオティクスを利用した乳用子牛哺育管理技術について、当センターが(独)畜産草地研究所、民間企業、千葉、愛知、石川、茨城、富山と連携して取り組んでいる内容を紹介します。

哺育期の下痢と発育
 哺育期の子牛は、免疫機能や給与飼料等が大きく変化するために、下痢等の疾病の発生が依然として多く、これがその後の発育や損耗に大きな影響を及ぼしています。哺乳期の下痢の影響を確認するために、共同試験を実施した各研究機関の過去の下痢の発生と発育の関係について調査してみました。その結果、表1に示すとおり、13週齢までの子牛(96頭)のうち約19%(17頭)に下痢の発生があり、13週齢までの日増体量は下痢発生群が647g、無発生群が698gとなり、下痢の発生により子牛の発育が有意に低下していることがわかりました。また、これらの牛の初産分娩時の体重は537kgと548kgであり、有意な差ではありませんが哺育期の下痢が初産分娩時の体重にまで影響を及ぼす可能性のあることが推察されました

表1 哺乳期の下痢がその後の発育に及ぼす影響

シンバイオティクスとは
 免疫機能の向上と整腸作用による発育促進を期待して、腸内細菌叢を改善し有益な作用をもたらす微生物(プロバイオティクス)や有用微生物の増殖を促進する成分(プレバイオティクス)を家畜に給与することが試みられています。代表的なプロバイオティクスが乳酸菌であり、プレバイオティクスがオリゴ糖です。これらの物質が効果を発揮するためには、胃液などで消化されずに腸内に届き、投与した乳酸菌が利用できるオリゴ糖が同時に腸内に存在することが必要です。この条件を満たすプレバイオティクスとプロバイオティクスの組み合わせが『シンバイオティクス』と呼ばれています。今回の共同研究では、デキストランオリゴ糖と、これを選択的に利用する乳酸菌(L.casei subsp.casei) を組み合わせたシンバイオティクスを哺育期の子牛に給与し(図1)、その効果を調査しました。

図1 試験方法

腸内細菌叢への効果
 出生直後から13週齢までシンバイオティクスを給与した子牛と無添加の子牛のふん中の乳酸菌数と大腸菌数を図2と図3に示しました。シンバイオティクスは、哺乳期間は生乳に混合し、離乳後は少量の水に混合して摂取させました。
 妊娠中の胎児は子宮内で無菌状態で発育しますが、産道を通過する際に細菌に感染し、これが腸内細菌の棲み着く契機になります。そのため、今回の試験牛も生後まもなく腸内に多数の細菌が棲息していました。その後、シンバイオティクスを給与した子牛は、ふん中の乳酸菌数が無添加に比べて高く推移しています。また、ふん中の大腸菌数はシンバイオティクスを給与した子牛で減少する傾向が確認されました。このことから、シンバイオティクスの給与により子牛の腸内では有益菌である乳酸菌が増殖し、有害菌である大腸菌の増殖が抑えられたと考えられます。

図2 子牛のふん中の乳酸菌数

図3 子牛のふん中の大腸菌数

発育への効果
 これらの子牛の発育を表2に示しました。哺乳量は日増体量400gに必要な量とし、人工乳と水は生後4日目から給与しました。離乳時期は人工乳の摂取量が日量800gを超えた日とし、離乳後から切断したチモシー乾草を給与しました。シンバイオティクスを給与した子牛は無添加の子牛に比べて13週齢の体重が5kg程度大きく、とくに離乳後の日増体量が高まることが確認されました。シンバイオティクスを給与した子牛では、腸内環境の改善により免疫機能や飼料の消化性が高まったことにより発育に良い影響が見られたものと考えられます。

表2 シンバイオティクスを投与した子牛の発育

おわりに
 今回の共同研究によりシンバイオティクスが子牛の腸内細菌叢の改善と発育の促進に効果があることが確認できました。しかし、生きた乳酸菌を腸内に届けるためには、シンバイオティクスの保存温度や、混合する生乳・代用乳の温度にも注意を払う必要があります。また、シンバイオティクスを給与しても下痢の発生が完全になくなることはなく、下痢の予防のためには飼養環境を衛生的に保つことや適正な飼料給与を行うことが最も重要なことに変わりはありません。今回使用したシンバイオティクスは、乳酸菌とオリゴ糖を別々に梱包したものを給与時に混合するタイプのものでしたが、実際の飼養管理を想定して乳酸菌とオリゴ糖をあらかじめ混合したプレミックスタイプの製品についても試験を行っています。また、市販代用乳に添加した場合の効果や和牛子牛に利用した場合の効果についての調査も行っていますので、次の機会に紹介させていただきたいと思います。

(畜産工学部 秋山 清)

神奈川県

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