研究情報 2009年8月

掲載日:2016年4月1日

豚胚の非外科的移植技術について

1 はじめに
 畜産技術センターでは、系統豚「カナガワヨーク」と「ユメカナエル」の維持と、県養豚協会を通じての配布を行っています。 維持を開始してから現在まで、系統豚の優秀な遺伝子の保存は凍結精液で行っています。さらに平成15年度からは(受精卵の凍結保存技術と外科的移植技術を確立したことから)、系統豚の母豚更新の際に受精卵を採取し、凍結保存も行っています。これは、今後系統豚を維持していく中で血縁係数が高くなった場合でも、受精卵凍結時の血縁状態に戻せるように実施しているものです。
 しかし、受精卵を移植する度に外科的な移植を行うのでは、受精卵を受ける側の母豚(受胚豚)の負担も大きくコストもかかります。今後、生産現場に対して受精卵配布等の技術展開を考えた場合にも、外科的移植では実現が難しいと考えられます。
  そこで当センターでは、受胚豚の負担の少ない非外科的移植技術の開発に取り組んできました。

2 研究のの概要
 平成19年から20年度の研究では、新たに開発された子宮深部注入用カテーテル(写真)を用いて、初期胚盤胞から拡張胚盤胞までのそれぞれのステージの体内生産胚を受胚豚に非外科的に移植し、移植に適した受胚豚の発情日齢を検討し、より受胎率が高く、産子数の多い移植方法の確立を目指しました。
移植用カテーテルの写真
写真 移植に使用したカテーテル 外筒(上)と内筒(下)

3 試験方法
(1)移植器  開発された豚胚移植専用の移植用カテーテルを使用(富士平工業製)。
(2)供試胚の作成  供胚豚(ランドレース種、大ヨークシャー種、中ヨークシャー種及びその交雑種)にPMSG1,500単位を筋肉内注射(筋注)した72時間後にhCG500単位を筋注し過排卵処置を行い、翌日から人工授精を行い、hCG投与後6日目または7日目に開腹手術して子宮内を灌流して回収。
(3)胚の処理  回収した胚をPZM-5(-)+10%FCS液で洗浄した後、0.25mlストロー1本につき11から20個の胚を封入。
(4)受胚豚  PMSG1,000単位を筋注した72時間後にhCG500単位を筋注し、4日目、5日目、6日目、7日目に(1)の移植器を用いて非外科的に移植を実施。
 なお、移植時の豚は移植用ストールに入れ、鼻保定等をせずに行いました。

4 結果
(1)移植胚日齢6日目または7日目の胚(平均17.8個)を、発情開始から4日目、5日目、6日目、7日目の受胚豚18頭に移植したところ、5頭が受胎に至り受胎率は27.8%でした(表1)。子宮内への内筒挿入長は平均40.6cmで、移植器挿入から胚を移植して移植器を抜去し終えるまでの移植に要した時間は平均5.1分でした(表1)。
表1 豚体内生産胚の移植成績

(2)移植胚日齢6日目の胚を受胚豚日齢5日目に移植した場合に最も高い受胎率(67%)が得られました(表2)。
表2 移植胚日齢と受胚豚発情周期が受胎に及ぼす影響

(3)移植胚日齢と受胚豚発情日齢の日齢差で成績をまとめてみたところ(表3)、日齢差マイナス1日の時に最も高い受胎率(57%)が得られました。
表3 移植胚日齢と受胚豚発情周期の日齢差が受胎率に及ぼす影響

(4)子宮内への内筒挿入長別に受胎率を調査したところ、平均挿入長40cm以下の場合と比較して、40cm以上奥へ移植した場合の受胎率の方が高くなりました。(表4)。 一方、産子数は最多で9頭、最少で3頭、平均で5.7頭であり、一般の人工授精に比べると少なくなりました。
表4 子宮内への内筒挿入長が受胎に及ぼす影響

5 まとめ
  開発された移植用カテーテルを用いて初期胚盤胞から拡張胚盤胞を非外科的に移植したところ、移植胚日齢6日目の胚を発情開始から5日目受胚豚に移植した場合に高い受胎率(67%)が得られました(表2)。

6 今後の課題
 これまでの成果は、新鮮胚を移植したものです。新鮮胚での受胎率、産子数の向上は当然解決しなければならない課題ですが、効率的な非外科的移植を生産者の庭先で行うには、凍結保存技術が必要です。このため、豚胚の非外科的移植に適する凍結保存技術を開発する必要があると考えています。

(畜産工学部 山本 禎)

神奈川県

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