研究情報 2009年9月

掲載日:2016年4月1日

豚舎汚水から肥料となるリンを回収する技術(現地実証試験)

1 豚舎汚水からリンを含む肥料を回収
 2007年8月及び2009年3月にご紹介した「豚舎汚水からリンを含んだ肥料を回収する技術」は、主に当センター内での試験結果をご報告して参りました。ではここでおさらいをしてみましょう!
  豚舎汚水には、肥料成分であるリン酸、アンモニア、マグネシウムが含まれており、曝気による汚水のアルカリ化により図1のような反応が進み、成分比(モル比)1:1:1からなるリン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)が結晶として回収できます(写真1)。
 また三成分のうち、リン酸とマグネシウムは、図2に示すように季節によってそのバランスが異なります。特に夏季はリン酸濃度が高いのにもかかわらず、リン酸:マグネシウムが2:1であるため、マグネシウム不足となり結晶化が進みません。そこで夏季は、マグネシウムを外部から汚水に加えて投入し、リン酸とマグネシウムとのバランスを整えるとリン除去率が50%から80%へと向上し結晶化反応が促進されます。
図1 リンの結晶化反応

写真1 網カゴに付着した白い結晶状のMAP
写真1 
網カゴに付着した白い結晶状のMAP
図2 水溶性リン、マグネシウム濃度及びpHの季節変動

2 農家実証試験における豚舎汚水中のリン回収
 
神奈川県内の母豚65頭一貫経営の養豚場で実証試験を行いました(写真2)。
 この養豚場には、ふん尿分離汚水を活性汚泥により浄化処理する回分式活性汚泥浄化槽(曝気槽容積85m2)があり、写真3のような振動篩脇の空きスペース(2m×0.8m)に図3のような直径500mmの塩ビ管で作製したMAP反応槽(反応容積約200リットル)を設置しました。反応槽は、汚水を槽上部より投入し、その同量の汚水が槽下部に開口しているオーバーフロー管から溢れ出る構造とし、ブロワーで槽下部から曝気しました。供試した汚水は、振動篩で固形物を除去した汚水貯留槽からタイマー制御により水中ポンプで汲み上げ、15分間に50リットルの割合で流入させました。また、マグネシウム源として自家製塩化マグネシウム溶液をタイマー制御により汚水量の0.1%量となるよう反応槽内に投入しました(図4)。
写真2 現地実証農家の簡易型MAP反応装置    写真3 振動篩脇の空きスペースに設置した簡易型MAP反応槽
図3 MAP反応槽及び消泡槽の概略図

図4 回分式活性汚泥設備内に設置した簡易型MAP反応槽と汚水経路図

3 反応槽内からのMAP回収方法
 
反応槽内の水溶性リンは、汚水の曝気によるアルカリ化を受けて結晶性リンとなり、付着部材の表面にMAPとして付着し結晶が成長します。今回はこのMAP付着部材として、市販されている写真4のような直径の異なるステンレス製の網カゴを4重に重ねて反応槽に沈め、この網カゴを引き上げることで純度の高いMAPを回収しました。
写真4 付着材として用いる直径の異なる網カゴ
写真4 付着材として用いる直径の異なる網カゴ

4 汚水中の水溶性リン1kgからできるMAPは

 MAP反応槽下部からの曝気は、曝気強度45m3/m3・時、反応槽内における汚水滞留時間は1時間の条件で装置を運転し、5m3/日の豚舎汚水を処理しました。汚水中のpHが反応槽投入前後で平均7.76から8.07に上昇することで、水溶性リンは結晶化し、リン濃度は平均68mg/リットルから21mg/リットル以下に低減しました。  図5は反応槽に浸漬するステンレス製の網カゴの浸漬前と42日間浸漬後の様子です。網カゴに付着した結晶物の重量は約8.6kgとなり、成分を調べてみると、純度98%のMAPであることが分かりました。投入汚水量と汚水の水溶性リン濃度から算出した投入水溶性リン量及び排出水溶性リン量は、それぞれ14.3kg及び4.4kgと算出されました。この投入リン量14.3kgから回収できたMAPは8.6kgですから、投入水溶性リン量1kgから回収できるMAP量(MAP回収効率)は、0.6kgMAP/kgPであることが分かりました(図6)。
図5 浸漬前後の付着部材の様子

図6 現地実証試験(夏)のMAP回収効率

5 活性汚泥への影響
 本装置導入前の浄化槽の年間平均処理水性状と本装置稼働後0日目から35日目までの処理水性状を表1に示しました。MAP反応後のpHの上昇した汚水を曝気槽内に投入し浄化処理をしても処理水性状の悪化は確認されず、活性汚泥への悪影響は見られませんでした。
表1 MAP反応後汚水が活性汚泥の浄化機能に与える影響について(夏) 

6 肥育豚1,000頭規模における導入及び運転コストの計算
 肥育豚1,000頭規模(汚水量10m3/日)での設置コストは、
1)塩ビ管反応槽で48万円
2)電気設備関係で45万円
3)その他7万円の合計100万円  と試算されました(表2)。
 汚水量10m2/日、水溶性リン濃度60mg/リットルと設定し、本装置の運転条件を曝気強度45m2/m2・時、滞留時間(HTR)1時間、塩化マグネシウムの添加量0.1%(対汚水量)として運転した場合、上記0.6kgMAP/kgPの回収効率から131kg/年のMAPが回収できると推計されました(表3)。
 その際運転コストは、電気代88,250円、薬剤代(塩化マグネシウム)87,600円を含め総額約18万円となり、MAP1kgを生産するには1,380円の運転コストが必要と試算されました。

表2 イニシアルコスト表3 年間MAP回収総量及び運転コスト(推定)

7 簡易型MAP反応槽の普及に向けて
 今回の試験では、簡易な方法により豚舎汚水中の水溶性リンを結晶化することが可能でしたが、結晶化したMAPをすべて回収することは出来ませんでした。このためMAP回収量に対し運転コストが割高となるため、これが今後の課題です。
 本装置は、塩ビ管で作成した簡易な反応槽であり、省スペース型の反応槽であるため、写真3のような既存施設の空きスペースに低コストで設置が可能です。また回分式に限らず連続式の浄化槽であっても設置が可能です。さらに本装置のMAP回収効率が明らかとなったことから、養豚場の汚水性状や汚水量が把握できれば、大まかな回収MAP量が試算できます。 豚舎汚水からのリン回収技術に興味がある方は本技術の導入を検討していただければ幸いです。
 最後に成果は「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業」(農林水産省)の研究課題である「結晶化法によるリン除去回収技術の簡易化・低コスト化手段の開発」(課題番号18066)の研究で得られたことを申し添えます。

(企画経営部 川村英輔)

神奈川県

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