研究情報 2009年11月

掲載日:2016年4月1日

家畜ふん堆肥の塩類濃度と塩類濃度の低い堆肥の製造

1 はじめに
 最近、家畜ふん堆肥の塩類濃度が高くなった、という話を聞いたことがありませんか。実際、全国的に堆肥の分析結果からこのような傾向が報告されています。この原因として、「家畜排せつ物の管理の適正化および利用の促進に関する法律」(家畜排せつ物法)の制定により堆肥の野積みが禁止されたことや、おが屑など水分調整資材の入手が困難なため戻し堆肥の利用が増えたことが考えられます。

2 堆肥の塩類とは

 堆肥の品質の指標として「塩類濃度」という言葉を良く使いますが、皆さんは塩類のことを単に塩(食塩)と誤解していませんか。
 塩類とは水溶性の陽イオンや陰イオンのことで、堆肥中の主な塩類には、カリウム、ナトリウム、塩素、硝酸などのイオンがあります。
 塩類濃度を正確に測定するにはそれぞれのイオンの量を測らなければなりませんが、手間と時間がかかります。そこで、イオンが電気を流す性質があることを利用して電気伝導率(Electric Conductivity、EC)を測定し、堆肥の塩類濃度の指標としています。
 測定は、堆肥を十倍量の水で溶かし、導電率計で溶液のECを測定します(写真1)。堆肥の塩類濃度が高くなるほど溶液は電気を通しやすくなりECは高い値を示します。測定には計測器が必要ですが、現場でも簡単に測定することができます。
写真1 現場でも測定できる携帯型の導電率計
写真1 現場でも測定できる携帯型の導電率計

3 野積み堆肥の塩類濃度  では、本当に野積みして雨ざらしにした堆肥では塩類濃度が低下するのでしょうか。当センターで、おが屑で水分調整した牛ふんを屋内と屋外で14週間堆肥化してみました。図1にEC値の変化と雨量を示しました。堆肥化した14週間に計529.5mmの雨量を観測しました。
 堆肥化では有機物が分解されるため、通常EC値は上昇します。
 堆肥化開始時に2.1dS/mであったEC値は、屋内で堆肥化した場合では堆肥化終了時3.9dS/mに上昇しました。
 一方、屋外で雨ざらしにした場合、EC値は0.6dS/mとかなり低くなりました。塩類は水に溶けることから雨によって塩類が堆肥から流出したと考えられます。
図1 牛ふんを屋内と屋外で堆肥化した時の電気伝導率の推移と雨量

図1 牛ふんを屋内と屋外で堆肥化した時の電気伝導率(EC)の推移と雨量 


4 塩類濃度の高い堆肥が嫌われるわけ

 家畜排せつ物法の制定以前は、一部の耕種農家はこのような雨ざらしの塩類濃度の低い家畜ふん堆肥を、土壌改良資材として土づくりの目的で施用していました。堆肥のEC値は肥料取締法による堆肥の品質表示基準には含まれていないため、耕種農家は堆肥のEC値が従来より上昇していることを知らずに利用してしまうことが考えられます。塩類濃度の高い堆肥を土壌改良資材として今までと同様に施用してしまうと土壌中のEC値が高くなり、植物の生育阻害が起きてしまいます。
 また、農地ではカリウムやリンなどの無機養分が蓄積している土壌が多くみられ、このような土壌に塩類濃度の高い堆肥を施用すると無機養分が過剰施肥となってしまいます。こうした理由から塩類の高い堆肥は敬遠されてしまうのです。

5 県内堆肥のEC値
 一般に、家畜ふん堆肥のECの推奨基準値は5.0dS/m以下とされています。県畜産会で実施した畜産環境保全特別指導事業において、平成19年度と20年度に分析した堆肥のEC値を図2に示しました。乳牛ふん堆肥は23検体でEC値の平均は3.1dS/m、豚ふん堆肥は5検体で6.3dS/m、鶏ふん堆肥は8検体で8.3dS/m、全体の平均は4.7dS/mでした。EC値が5.0dS/mを超えたものは、乳牛ふん堆肥では2検体(9%)でしたが、豚ふん堆肥と鶏ふん堆肥はそれぞれ4検体(80%)、7検体(88%)と高い割合でした。
  (財)畜産環境整備機構が平成12から16年度に実施した全国の堆肥の品質実態調査結果(1,502検体)ではEC値の平均は乳牛ふん堆肥が2.4dS/m、豚ふん堆肥が3.6dS/m、鶏ふん堆肥が4.9dS/mでした。本県で検査した堆肥は全体で36検体と少ないですが、いずれの畜種の堆肥も全国の調査結果に比べて高い値でした。
 堆肥のEC値は、堆肥化処理方法によっても変わり、密閉型発酵方式では堆積方式や機械攪拌方式に比べて高くなります。本県でのEC値が高いのは、密閉型発酵方式による処理や戻し堆肥の利用が多いためではないかと思われます。

図2 県内堆肥の電気伝導度
図2 県内堆肥の電気伝導度(EC)の分布(平成19、20年度畜産環境保全特別指導事業より)

6 堆肥の塩類濃度を下げるには
 では、どうしたら家畜ふん堆肥の塩類濃度を下げることができるでしょうか。
 残念ならが、今のところ、雨で洗い流す(法律で禁止です!)以外、安価で簡単に堆肥のEC値を下げる方法はありません。しかし、皆さんでもできる方法を二つお示しします。
  ひとつは、畜舎でのふん尿分離を徹底して、ふんに尿の混入を少なくすることです。尿は塩類を多く含みECは30から50dS/mとかなり高い値ですが、実は排せつ直後のふんのEC値は1dS/m程度です。
 例えば当センターのふん尿分離の良い牛舎のふんはEC値1.4dS/m程度ですが、ふん尿分離の悪い牛舎のふんのEC値は2.9dS/mと2倍以上になります。 
 つまり、ふん尿分離を徹底することで堆肥化開始時のふんのEC値を下げ、結果としてEC値が低い堆肥を作ることができるのです。
 もうひとつは、副資材に戻し堆肥の利用を控えることです。
 おが屑のEC値は0.5dS/m程度ですが、戻し堆肥は塩類が蓄積していて10dS/mを超えるものも少なくありません。
 実際には、おが屑の入手難により戻し堆肥を利用せざるを得ない場合が多いと思いますが、堆肥のEC値を下げるためにはなるべく戻し堆肥以外の副資材を利用した方が堆肥のEC値は小さくなります。

7 固液分離装置を利用した塩類濃度の低い堆肥の製造
 堆肥の塩類濃度を下げる二つの方法を示しましたが、いずれの方法も限界があります。そこで、当センターでは、固液分離装置を利用して塩類濃度の低い堆肥の製造を検討しています。
 固液分離装置は、家畜ふんの含水率を低下させて副資材の使用量を減らす目的で、一部の畜産農家で利用されています。今回使用した固液分離装置は、平成17年度に(独)農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術支援センターで開発されたスクリュープレス型高精度固液分離装置を改造した試作機です(写真2)。固形分排出口にアダプターを装着できるようにして、アダプターの長さを変えることで固液分離した固形分の水分を調節できるようにしました(写真3)。

写真2 市販の高精度固液分離装置を改造した試作機
写真2 
市販の高精度固液分離装置を改造した試作機
写真3 固形分排出口に装着したアダプター
写真3 固形分排出口に装着したアダプター(50mm)

 この試作機で水分約85%、EC値が約11dS/mのふんを固液分離したところ、固形分の水分は、アダプターの長さが10mmでは78.1%、30mmでは75.0%、50mmでは67.2%となり、EC値は、10mmでは7.6dS/m、30mmでは6.9dS/m、50mmでは4.6dS/mとなりました(表1)。アダプターを長くすると固形分の水分とEC値が低下し、アダプター50mmでは固形分の水分は70%以下に、EC値は半分以下にできることがわかりました。この結果から、固液分離したふんを堆肥化することで、塩類濃度の低い堆肥を作ることができると思われます。
 一方、塩類濃度が通常より高い液分が発生しますので、今後、この液分の利用について、例えば未利用資源との混合堆肥化による成分調整堆肥の製造など、検討を行う予定です。
 また、県内ではローラープレス型の固液分離装置が普及していますので、この型の装置での塩類除去効果の調査も実施していきたいと考えています。

表1 試作機で固液分岐したときのふんと固形分の水分と電気伝導率 

8 おわりに
 家畜ふん堆肥の利用を促進するにあたっては、昨年の肥料価格の高騰や環境保全型農業の推進は追い風となっています。この追い風に畜産農家の皆さんも乗り遅れないよう、自分の作っている堆肥の成分や特徴を把握して、耕種農家にしっかり伝えていきましょう。
 皆さんも一度自分で作られている堆肥のEC値を測ってみてはいかがでしょうか。測定してみたい方は企画経営部または普及指導部までご連絡ください。

(企画経営部 田邊 眞)

神奈川県

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