技術情報 2010年4月

掲載日:2016年4月1日

肥育生産者が和牛子牛に求めるもの

はじめに
 受精卵移植技術を利用した和牛子牛生産が、盛んになって来ました。この背景には、受精卵移植技術の定着と、全国的な和牛繁殖農家の減少があると思われます。さらに人工哺育技術も、代用乳などのアイテムが充実してきた事が追い風になっていると言えるでしょう。
 本県では、「かながわ産牛肉地産地消推進事業」として、平成21年度より和牛受精卵移植に対して補助事業を実施しております。その内容は、県下の酪農家のホルスタインに、和牛受精卵を移植し、産まれた子牛は県内の肥育生産者が肥育して、最終的には多くの県民に牛肉を供給していくといった事業で、県酪連、県畜産会、肉用牛協会と連携して、取り組みを進めています。
 さて、本稿では肥育生産者が和牛子牛に求めるものについて、簡単に述べさせていただきたいと思います。
 まずは、本題に入る前に近年の肉用牛の状況について触れさせていただきます。 最初に、枝肉の状況についてですが、全国的な傾向として枝肉重量の大型化が進んでいます。平成15年の枝肉重量平均は443kgでしたが、平成19年には468kgまでに増加しています。本県より出荷される和牛枝肉の重量も大型化が著しく、去勢牛では500kgを超えるものが一般的になり、中には600kgに届くほどの大きさのものも、よく見かける様になりました。この要因の一つに、血統条件の変化が挙げられると思います。
 和牛の血統は、一般的には資質系と体積系に区分されています。資質系は、いわゆる但馬系と通称される系統で、その呼び方も様々なのですが、田尻系、田尻系から独立した分系として扱われる菊美系、同じく田尻を始祖とする茂金系などが、肉質に優れる資質系として位置づけられています。
 一方、体積系としては、岡山の第六藤良の子孫からなる系統の藤良系と鳥取の気高の子孫からなる気高系が挙げられます。藤良系は糸桜系とも呼ばれ、これは第七糸桜(島根)に由来します。第七糸桜、気高、共に母方には但馬系を持ちますが、増体に富み肉量にも優れる事から体積系として位置づけられています。
 これまでの種雄牛の血統は、資質系あるいは体積系の、どちらかの系統で構成されているものが主流でしたが、現在主に用いられている種雄牛は、表現として適切では無いかも知れませんが、系統間雑種と言えるかも知れません。三代祖を見ると、父に気高系、母方の父に田尻系などを持ち、母方の曾祖父が、田尻系であったり藤良系であったりします。あるいは、父、母の父に田尻系、母方曾祖父に藤良系や気高系であるなど、非常にバリエーションに富んでいます。
 繁殖雌牛も同様に、次第に代替わりして系統間の血統を持つようになり、種雄牛との交配計画もますます複雑になってきていると感じます。肥育素牛として市場に出てくる子牛の血統も様々です。次に、枝肉価格についてです。平成20年以降の落ち込みが激しく、回復も見込めず、非常に厳しい状況にあります。
 細かくなってしまいますが、東京食肉市場での、和牛A5等級とA3等級の牛肉取引価格の推移をグラフでお示ししました。共に比較的安定して推移していましたが、共に価格が下落しています。特にA3等級の落ち込みが激しくなっています。5等級と言えども、平成20年以降の下落が見られ、平成21年に入ってさらに落ち込みは激しくなっています。この原因として、やはり景気の後退から食費を抑制する傾向が見られ、食肉消費も単価の低い豚肉、鶏肉へとシフトしていると考えられます。素牛価格や、高止まりの傾向にある飼料費をはじめとする経費を考えると、3等級クラスでは、完全に採算割れとなってしまう状況にあり、4等級と言えども利益を出すのが困難な状況にあると言っても過言ではありません。

図1 年・月別卸売り価格(和牛 A5 東京)図2 年・月別卸売価格(和牛 A3 東京)

図1 年・月別卸売価格(和牛 A5 東京)                    図2 年・月別卸売価格(和牛 A3 東京)

1 血統条件について
 和牛肥育では、まず血統条件が重視されます。自身の経験や、各地の共励会などでの成績の情報から、実績のある血統のものが、子牛市場でも高値で取引される傾向にあります。人気の高い血統の子牛は、多少、価格が割高となっても、枝肉販売価格で充分にカバー出来ると見込まれるからです。また、資質系と体積系に分けられる系統の中で、その両者のバランスの取れた血統のものが求められます。個々の経営において肥育牛群の血統構成は様々ですが、資質系の牛と体積系の牛との混在は避けるべきですので、その点についても配慮して購買されています。

2 発育状態について
 当然のことですが、発育良好な子牛が好まれます。ひとつの目安として、体重/日齢が1を超えて発育している事が、挙げられます。 グラフは子牛取引市場を調査した際の取引価格傾向を示したものです。横軸に体重/日齢、縦軸に販売単価(販売価格を体重で割り戻したもの)で示しました。血統などの要因差もありますが、体重/日齢の数値の大きいものの方が、販売単価の高くなる傾向にありました。一般的な肥育生産者は哺育施設等を備えていないので、離乳していることも大切な条件となります。離乳していて、固形飼料を充分に摂取出来る状態にあることも求められます。子牛の骨格の伸びや、腹容の充実などの発育状態も、販売価格を大きく左右する要因になります

図3 和牛子牛の体重/日齢比と販売価格

図3 和牛子牛の体重/日齢比と販売単価


3 栄養状態について
 3ヶ月齢程度ではあまり見かけませんが、10ヶ月齢前後で市場販売される和牛子牛の中に、過肥のものを時折見かけます。体格は、それほど立派でないのに、肋骨が判らないくらいに皮下脂肪が厚くなり、尾枕まで付いて、体重はそこそこあるという牛は肥育生産者からは嫌われる傾向にあります。発育の部分で、「体重/日齢が1を超えるもの」と述べましたが、体重だけで判断することは避けるべきです。少しややこしくなりましたが、肥育生産者は、体型や骨格の伸び、腹容の充実を伴った子牛を求めています。脂肪が付着して、骨格は伸びていないのに体重だけある様な子牛は、肥育牛としての素質に乏しいと判断されます。伸びやかな骨格づくりは、哺育・育成を行う農家の仕事・・・その骨格に肉を付け、脂肪をのせるのが肥育生産者の役割なのです。

4 おわりに
 肥育生産者が和牛子牛に求めるものについて、簡単に述べさせていただきましたが、それ以外にも、肥育生産者は子牛の身体を見て、たくさんの事をチェックしています。たとえば、皮膚病や臍帯ヘルニアの有無、下痢、肺炎の兆候などが挙げられます。特に、下痢、肺炎は人工哺育の際に発生しやすいので、注意が必要です。
 肥育牛の出荷月齢は、概ね30ヶ月齢前後です。20ヶ月から長い生産者ですと26ヶ月間管理していく上で、あらゆるリスクを排除するために、たとえ安くても、肥育していく上で障害になると想定される要素を持った子牛は、避けられてしまいます。一方で、想定した増体曲線を描けると判断された牛は、積極的に購買されていきます。
 肥育生産者が求める要素を備えた子牛づくりに向けて、少しでも参考になればと思い、幾つかの一般的な事柄について述べさせていただきました。中でも、血統条件などについては変化も激しいため、「これ!」と決まった事を述べられないのが実情です。もし、皆様のお近くに、肥育生産者がいらっしゃれば、血統や体型など、求めていることを聞いてみるのも参考になると思います。そうした中で、子牛を生産する酪農家と、子牛を購買する肥育生産者の結びつきを築いていければと考えています。


(普及指導担当 先崎史人)

神奈川県

このページの所管所属は 畜産技術センター です。