研究情報 2010年8月

掲載日:2016年4月1日

経膣採卵による後継牛確保  泌乳初期や妊娠期への応用

1 はじめに
 畜産技術所では、高齢や繁殖障害などの理由で過剰排卵処理による受精卵の採取や後継牛確保が困難な雌牛から受精卵を生産する経膣採卵の研究に取り組んでいます。経膣採卵とは、図1に示すように、超音波画像診断装置を用いて牛の卵巣を観察しながら、膣内に挿入した器具を操作して、卵巣内に存在する排卵前の卵子を採取し、体外受精により移植可能卵(胚盤胞)を発育させる技術です。この技術を泌乳初期や妊娠期の雌牛に応用することができれば、雌牛の分娩間隔を延長することなく、より多くの後継牛を得る可能性があります。

図1 経膣採卵による生体卵巣からの卵子採取

2 今までの採卵との違い
 
過剰排卵処理による受精卵の生産は、分娩後の卵巣や子宮の機能が回復した後に行われるのが一般的です。その際、発情周期の調節やホルモン剤投与による過剰排卵処理、人工授精後の子宮からの受精卵の採取が必要です。また、乳牛では乳量の増加などにより繁殖機能の回復が遅れた場合には、受精卵採取の実施が遅れ、供卵牛の分娩間隔の延長につながることが心配されます。
 一方、経膣採卵は卵巣内にある発育前の未熟な卵胞から卵子を採取するため、発情周期の調節や過剰排卵処理が不要であること、体外受精により受精卵を生産するため子宮の回復状況に左右されないことなどが大きな特徴です。
 これまでに当所では、長期空胎牛や高齢牛など過剰排卵処理による受精卵採取が困難な雌牛からの受精卵確保について当所や農家の雌牛を用いて検討してきましたが、平成19年度からは泌乳初期牛や妊娠牛への応用についても検討しています。

3 泌乳別の経膣採卵
 
分娩後の日数によりホルスタイン種雌牛を二群に分けて経膣採卵を実施しました。泌乳初期群は分娩後2から10週の雌牛10頭で、全て初回人工授精前のものです。泌乳後期群は分娩後10から24月の雌牛11頭で、人工授精等により繁殖を試みてきましたが不受胎のまま経過してきたものです。
 表1に示すとおり、卵巣内に観察された卵胞数は泌乳初期群が泌乳後期群に比べて少なく、採取卵数も泌乳初期群が少ない傾向でした。統計的な差はありませんでしたが、体外受精後の胚盤胞数も泌乳初期牛が少ないようでした。胚盤胞が1個以上得られた雌牛は、泌乳初期群が10頭中5頭、泌乳後期群が11頭中9頭で泌乳後期群の方が優れていましたが、泌乳初期群の最も早い例では分娩後17日目の経膣採卵で受精卵が生産できました。

表1 泌乳期別の経膣採卵成績

4 泌乳初期の連続経膣採卵
 
分娩後3から4週の4頭の供卵牛に2週間間隔で4回の経膣採卵を行いました。
 表2に示すとおり、卵巣内に観察された卵胞数は11.3から15.8個、採取卵数は3.から6.5個であり分娩後の週次間に統計的な差は認められませんでした。体外受精後に発育した胚盤胞数は1.3から1.8個で、こちらも差は認められませんでした。この成績を雌牛別に整理してみると、4回の経膣採卵によりA牛は8個、B牛は14個、C牛とD牛はそれぞれ1個の胚盤胞が得られ、雌牛によっては経膣採卵を反復することにより多数の受精卵を確保できる可能性があることが判りました

表2 分娩後週次別の経膣採卵成績

5 妊娠初期の経膣採卵
 
妊娠中の雌牛から受精卵を生産することは今まで考えられませんでしたが、妊娠牛の卵巣内にも排卵に至らない卵胞が多数存在し、経膣採卵を利用することにより卵子を採取することが可能です。通常の人工授精で妊娠の確認された6頭の雌牛に3週間間隔で2回の経膣採卵を行いました。
 表3に示すとおり、1回目(授精後日数は平均68日)と2回目(授精後日数は平均90日)に卵巣から採取された卵子は、それぞれ10.5個と8個で、体外受精後に3個と2.3個の胚盤胞が得られ、妊娠していない雌牛と同程度の成績でした。また、経膣採卵を実施した雌牛は採卵後に流産等の異常は認められず、すべてが妊娠を継続しました。妊娠牛からの受精卵の生産が可能になると、これまでとは違って人工授精で雌牛を妊娠させた後で受精卵の生産を行うため、雌牛の分娩間隔を延長することなく受精卵の生産を行うことができると考えられます。

表3 妊娠牛の経膣採卵成績


6 まとめ
 
今回、平成19年度から実施した泌乳初期や妊娠期の雌牛からの経膣採卵による受精卵の生産について紹介しました。その結果、通常では受精卵生産の対象とならない分娩後2週以降の泌乳初期の雌牛や人工授精後50日から120日程度の妊娠期の雌牛から胚盤胞の生産が可能なことが判りました。しかし、現状では1回の経膣採卵で生産される胚盤胞は2から3個程度であり、確実に後継牛を生産するためには、卵子採取技術の向上を図るとともにホルモン剤を利用した卵胞刺激処理や雌牛の健康状態や栄養充足との関連について検討が必要と考えています。

経膣採卵で生産した後継牛

(畜産工学担当 秋山 清)

神奈川県

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