研究情報 2011年7月

掲載日:2016年4月1日

快適性の高い離乳子豚の飼育システムの検討

1 はじめに
 動物福祉の先進国であるEUでは、2013年以降、繁殖雌豚の分娩から分娩後4週までの期間をのぞきストールでの飼養が禁止されており、国際獣疫事務局(OIE)でもアニマルウェルフェアの世界基準を検討しています。このような世界情勢の中、日本では平成21年3月、社団法人畜産技術協会を中心に『アニマルウェルフェアの考え方に対応した豚の飼養管理指針』が作られました。その中では「家畜を快適な環境で飼うことは、家畜が健康であることによる安全・安心な畜産物の生産」につながり、また、「家畜の持っている能力を最大限に発揮させることにより、生産性の向上」にも結びつくとしています。今後、アニマルウェルフェアに対応した飼養管理が社会的に求められることが考えられるため、当所では、平成20年より「快適性」と「生産性」に着目した試験に取り組み始めました。

2 試験の目的

 この試験は「快適性」の差が、発育や事故率等の「生産性」にどのように影響するか明らかにすることを目的に行いました。 「快適性」については、アニマルウェルフェア概念となっている5つの自由(図1)を基本に試験環境を整え、「正常な行動」として豚特有の行動を行える環境を加えた飼育システムにおいて生産性、福祉レベル等の違いを調査しました。本試験で注目した豚特有の行動は、鼻先で土等を掘り返す行動(ルーティング、写真1)です。ルーティングは豚の中に強い行動欲求があることが知られています。それらが阻害されることが、尾かじり等の発生の要因となると考えられていることから、本試験では、自由にルーティングができるような飼育環境を整備し、ルーティングがどれだけ見られるか、また、不快な時に見られる尾かじりや耳かじり(写真2)といった異常行動がどれだけ見られるかを調査し、これらの行動の差が、発育や事故率等の「生産性」にどのように影響するか明らかにするための飼養試験を麻布大学と共同で実施しましたので、ご紹介させていただきます。

図1 5つの自由 
     図1 5つの自由
 
写真1 ルーティング 写真2 耳かじり 
 
 写真1 ルーティング        写真2 耳かじり

3 材料及び方法

〇供試豚
  当所で飼養している大ヨークシャー種系統豚「カナガワヨーク」とランドレース種系統豚「ユメカナエル」を使用しました。
〇試験期間
  試験期間は5週齢から10週齢までの約5週間とし、平成20年8月から9月まで(以下、夏期)、平成20年10月から11月まで(以下、秋期)飼育しました。
〇試験豚房について
  試験区は木材パネルで作成した2.5平方メートルの小屋と5平方メートルの土間の運動場を設置しました(写真3)。対照区は当所の離乳豚舎(コンクリート床2.5平方メートル、すのこ床1.2平方メートル)としました(図2)。各豚房には品種、性別及び体重がほぼ同じになるように豚を収容し、夏期は4反復、秋期は3反復調査しました。
〇行動調査
  1日8時間、期間中10回子豚の行動を観察しました。行動は図2の調査項目に分けて、群別、観察日別に行動回数を集計し、全体の行動割合を算出しました。
〇生産性調査
  生産性の比較として、1週毎の体重、試験期間中の飼料摂取量、事故率、治療頭数を調査しました。 また、個体への外傷の割合として傷スコアを夏期と秋期の各2回調査しました。傷スコアは、体を9つの部位(頭、首、耳、肩、前足、横腹、後脚、尾、背中)に分けて、長さ0.5cm以上の傷を出血の有無に分けて数え、群ごとに集計しました。
〇生理・免疫反応調査
  腎臓、肝臓の状態などの影響を調査するため、各群2頭採血し、血清中のGLU、ALB、TP、BUN、GLOB濃度を測定しました。また、精神的ストレスを調査するため、唾液中コルチゾール濃度を測定しました。

写真3 試験区の概要 図2 試験区及び対照区の概要
写真3 試験区の概要                    図2 試験区及び対照区の概要

4 結果
〇快適性の比較
(行動)
 夏期、秋期とも、試験区では環境探査および遊戯行動の割合が高く、対照区は休息、維持、敵対および失宜行動の割合が高くみられました。それぞれに統計的な差が認められました(P<0.05)(表1)。環境探査行動と失宜行動は試験期間を通じて明確な差が認められ、全観察日において試験区は対照区に比べ環境探査行動が高く、失宜行動が低く発現していました。また、全体では差の認められた遊戯行動及び敵対行動は、観察日毎の比較では有意な差が認められなかった日もあり、必ずしも明確な差は認められませんでした。
〇生産性の比較
(増体)
 10週齢時体重は、夏期は試験区が重い結果を示しましたが、統計的な差は認められませんでした。秋期も試験区の体重が重い傾向を示しましたが、統計的な差は認められませんでした(P<0.1)(図3)。6から10週のDGは夏期、秋期とも試験区が高くみられましたが統計的な差は認められませんでした(表2)。
(1頭当たり飼料摂取量)
 夏期、秋期とも試験区が多く飼料を食べていましたが統計的な差は認められませんでした(表2)。
(飼料要求率)
 夏期は対照区の効率が良く、秋期は試験区の効率が良い結果でしたが、統計的な差は認められませんでした(表2)。
(事故・治療頭数の割合)
 子豚の事故は夏期、秋期とも対照区で発育が不良となり死亡した個体が一頭ずつ見られました(表2)。 疾病等の発生は、秋期に咳が多くみられたため抗生剤投与を行いました。治療頭数の割合は試験区が高くみられましたが統計的な差は認められませんでした。
(傷スコア)
 夏期、秋期とも試験区が対照区よりも傷の出現が少なく、また、試験区、対照区とも出血のある傷よりも出血のない傷が多くみられました。特に夏期の傷スコアは試験区で少なく見られ、2回とも統計的な差が認められました(P<0.05)(図4)。
〇生理・免疫反応
 夏期、秋期とも全項目が正常の範囲内にあり、統計的な差は認められませんでした。また、秋期は試験開始日にも採血を行いましたが、試験開始前後とも全項目が正常の範囲内にあり、統計的な差は認められず、また、開始前後で増加/減少するといった特徴的な挙動もみられませんでした。唾液中コルチゾール濃度もストレスがないとされる1ng/ml以下であり、また、両区に有意な差は認められませんでした。

表1 行動の発現割合の比較(夏期)
表1 行動の発現割合の比較(夏期)

表2 生産性の比較


図3 試験期間中の増体の推移図4 傷スコア(夏期)
 
図3 試験期間中の増体の推移                             図4 傷スコア(夏期)

5 さいごに

 豚特有の行動であるルーティングを自由に行えるような飼育システムを用い、「快適性」の指標として行動や傷スコアを、「生産性」の指標として、発育・増体や事故率等を調査しました。行動の調査結果からは、土間の運動場を持つ試験区では環境探査行動の割合が高く、失宜行動の発現割合が低く、外傷が少ないことから福祉レベルが高いと考えられました。一方、試験期間中の発育・増体は、10週齢体重、6から10週DGとも試験区が大きい値を示していましたが統計的な差は認められませんでした。今回の調査からは「快適性」の向上が「生産性」の向上につながることを示すことはできませんでした。なお、本試験と同時に、おが屑および剪定枝を床材に用いた発酵床区2区とコンクリート床区の比較も行いました。この試験は1反復しか行っていませんが、今回の屋外区と同様、豊富な床資材を持つおが屑区および剪定枝区はコンクリート床区に比べ、環境探査行動の割合が高く、失宜行動の割合が低く見られたため、ルーティングを行えるような床面構造を持った施設は福祉レベルが高いと考えられました。今後も、アニマルウェルフェアの考え方をどのように養豚現場へ反映していくかを視野に入れながら試験を継続していきたいと考えています。

(企画研究課 西田 浩司)

神奈川県

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