技術情報 2011年10月

掲載日:2016年4月1日

県内産豚肉の脂肪性状の傾向について

はじめに
 神奈川県内では、生産者の販売方法や販売先の違いによって、個々の経営ごとに、飼料の内容や利用する品種等に特徴を持たせた生産の取り組みが行われています。また、各々の生産者が美味しさにこだわり、中にはブランド化して有利販売を行っている事例も多く見受けられます。
 農業技術センター畜産技術所普及指導課では、毎年県内各地域で開催されている畜産共進会等において、肉豚の審査や枝肉の測定等の支援を行っておりますが、今回、その機会に豚肉の美味しさに関連すると思われる脂肪の脂肪酸組成と融点に関して、現地調査を実施しましたので、その概要をご紹介させていただきます。

脂肪酸について

 脂肪酸は脂質を構成する重要な成分で、食品中の脂肪の9割が脂肪酸でできています。脂肪酸は炭素、水素、酸素が鎖状につながった物質で、体内で分解・代謝されエネルギーになり、最後は炭酸ガスと水になります。脂肪酸は大きく飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分けられ、不飽和脂肪酸はさらに一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸に分類されます。すべての脂肪酸は、鎖の端にメチル末端(CH3―)、もう一方の端にはカルボキシル末端(―COOH)を持ちます。飽和脂肪酸は炭素の結合の手が全部水素とつながり、まさに飽和状態にある安定した脂肪酸です。不飽和脂肪酸は、炭素が水素とではなく炭素同士でつながった部分(炭素の二重結合)を持っています。このため、化学的に不安定となります。一価不飽和脂肪酸はこの炭素の二重結合が1個ある脂肪酸で、炭素の二重結合が2個以上ある脂肪酸は多価不飽和脂肪酸と呼ばれます。
 表1に豚肉に含まれる主な脂肪酸を示しました。脂肪酸は、持っている二重結合の数で例えば「C18:1オレイン酸」等と標記され、それぞれ性質が異なり、飽和脂肪酸から多価不飽和脂肪酸になるにつれ、脂肪の融点が低く、酸化しやすくなります。脂肪酸の中で豚肉に最も多く含まれるのは、一価不飽和脂肪酸のオレイン酸です。近年の研究では、和牛肉の香りに影響を及ぼす要因としてこのオレイン酸が注目されています。

表1 豚の脂肪における主な脂肪酸

脂肪の融点について

 脂肪の融点は食肉の脂肪が溶け始める温度です。表2に示したとおり、一般的な食肉では融点は鶏肉、豚肉、牛肉、羊肉の順で高くなります。
 特に豚肉は脂肪の質が問われ、食肉市場で軟脂として評価が下げられる枝肉は、通常の枝肉に比べて、脂肪の融点が低いものとなります。また、豚肉では採材のしやすさから調査研究が腎臓周囲脂肪で行われることが多く、一般に腎臓周囲脂肪の融点は、可食部である背脂肪より高くなります。また、同じ背脂肪でも皮下内層脂肪が皮下外層脂肪より高くなります。

表2 各食肉の脂肪の融点

調査内容及び結果の概要

 今回の調査は、腎臓周囲脂肪と可食部である背脂肪内層脂肪とを比較して関連をみるため、42頭の枝肉からサンプリングし、ガスクロマトグラフィで分析し、その組成割合を調べるとともに、脂肪の融点についても調べました。
(1)脂肪酸組成の傾向  腎臓周囲脂肪と背脂肪内層脂肪の脂肪酸組成割合は図1と表3に示したとおりになりました。 背脂肪内層脂肪は腎臓周囲脂肪に比べ、パルミチン酸、ステアリン酸といった飽和脂肪酸が有意にに少なく、オレイン酸とリノレン酸といった不飽和脂肪酸が有意に多くなる傾向がありました。また、腎臓周囲脂肪と背脂肪内層脂肪の相関を分析したところ、オレイン酸に高い相関があり、腎脂肪の調査結果から、背脂肪内層脂肪のオレイン酸の傾向を推定できる可能性が示唆されました(図2)。
(2)脂肪融点の傾向 腎臓周囲脂肪と背脂肪内層脂肪の融点を比較しますと(表3)、42.2℃(32.5から48.6)と35.6℃(27.9から43.9)であり、背脂肪内層脂肪が有意に低くなりました。また、表2の一般的な豚肉の傾向と今回の可食部である背脂肪内層脂肪とを比較しますと、上限は同様の傾向でしたが、下限と平均は低い傾向となりました。また、背脂肪内層脂肪の各温度の分布を調べてみたところ、比較的広範囲に分布していますが(表4)、30から35℃(45.2%)に多く分布する傾向がありました(図3)。
図1 腎臓周囲脂肪と背脂肪内層脂肪の脂肪酸組成図2 腎臓周囲脂肪と背脂肪内層脂肪の相関図(オレイン酸)
  図1 腎臓周囲脂肪と背脂肪内層脂肪の脂肪酸組成(42頭平均)     図2 腎臓周囲脂肪と背脂肪内層脂肪の相関図(オレイン酸)


表3 県内で生産された豚肉の脂肪酸組成及び脂肪融点

表4 背脂肪内層脂肪の融点分布      図3 背脂肪内層脂肪の主な融点分布       
                                           図3 背脂肪内層脂肪の主な融点分布

調査結果からの考察と今後の展望

  豚肉の脂肪酸組成については、ブランド化に取り組んでいる生産者が分析結果を公表している事例が見受けられます。しかし、豚肉では研究が進んでおらず、実際にその数値がどのような美味しさに結びつくかという指標がありません。今回は県下の一部の現状を報告させていただきましたが、今後とも例数を増やして、美味しさと分析値について解析していきたいと考えています。
 背脂肪内層脂肪の融点の結果から、30℃未満のものが見受けられましたが、これは軟脂の可能性があり、注意が必要となります。豚の体脂肪の脂肪酸組成は給与飼料の脂質の影響を強く受け、豚に多価不飽和脂肪酸に富む飼料を多量に給与すると、体脂肪の脂肪酸組成でリノール酸など多価不飽和脂肪酸含量が高くなるといわれています。また、飼育方法の影響としては、ストレス、疾病、寒冷等により体内の蓄積脂肪がエネルギーとして消耗されることから、その際、エネルギー源として不飽和脂肪酸に比べ飽和脂肪酸の方が多く消耗され、相対的に不飽和脂肪酸の比率が高まり体脂肪が軟らかくなるという知見もあります。軟脂自体は脂肪の口溶けを良くする可能性もありますが、多価不飽和脂肪酸は酸化しやすく異臭の原因と考えられており、一般的にデンプン質飼料を多給した豚の脂肪の香りは良好で、油脂の多い飼料を多給した豚の香りは好ましくないとされています。ただ、最近では食味の観点から硬すぎる脂肪も問題視されているので、表4の結果が30から35℃の温度に分布が多いこともその傾向を受けたものと考えられます。
 それぞれの農場では、「美味しい豚肉」の生産を目標としていることと思います。今回はその豚肉の美味しさの重要な要因となっている脂肪を取上げ、その現状を紹介いたしました。この機会に豚肉の脂肪の現状を把握、飼料給与・飼養管理等でねらった効果がでているか確認し、今後の生産目標に役立てていただきたいと思います。
  しかし、美味しさを決定する要因は脂肪だけとは限りません。そこで、当所では実際に食べてみて評価する「官能評価」や直接購買者に調査する「マーケティング手法」を取り入れた取り組みを開始しており、脂肪の現地調査とあわせて、今後ともより詳しく豚肉の「美味しさ」を探っていきたいと考えています。

(普及指導課 前田 高弘)

神奈川県

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