研究情報 2012年7月

掲載日:2016年4月1日

受精卵移植を活用した種豚導入システムについてから胚の輸送方法の検討から

はじめに

 豚の繁殖技術は、近年めざましく発展してきています。(社)日本養豚協会のホームページに掲載されている平成21年度基礎調査結果によると、人工授精は全国で43.7%の農場で実施されており、さらに未実施農場でも「今後導入したい」および「導入を検討したい」の割合は併せて約40%と記載されています。精液の凍結技術に関しては今年4月から、生産農場から精液を宅配便で受け入れて凍結精液を作製する会社も設立されており、受精卵移植技術については生存性の高い凍結法(ガラス化保存法)によって保存が可能になってきています。受精卵移植は、豚ではまだ実験室レベルでしか取り組まれていませんが、遺伝資源の確保の観点から、これから期待される技術だと考えられます。

 受精卵移植には様々なメリットがありますが、その1つとして生体や精液による移動に比べ、疾病を伝播する可能性が低くなることが挙げられます。現在、養豚農場において、他農場からの種豚の導入は、主に生体(豚個体)の移動により行われていますが、外部からの生体の導入は病原体を農場内へ持ち込む危険性があることから、導入できる地域は制限され、結果として優良な種豚の導入が思う様にいかない場合もあります。しかし受精卵移植を種豚の導入に利用できれば、種豚の広域利用が可能になると考えられます。


 そこで畜産技術所では、(独)農業・食品産業技術総合研究機構動物衛生研究所、(独)家畜改良センター、佐賀県、(地独)北海道立総合研究機構農業研究本部畜産試験場、愛知県、(株)機能性ペプチド研究所と共同で、豚受精卵移植技術を活用した種豚導入システムが構築できないか検討を行うことにしました。この事業は生研センターのイノベーション創出事業により平成22年度から3カ年の計画で取り組んでおり、今回は当所が取り組んでいる試験の中間成績について簡単にご説明したいと思います。


全体の試験概要

  今回の共同研究の全体の概要を図1に示します。

図1 全体の試験概要と神奈川県の役割
図1 全体の試験概要と神奈川県の役割

 種豚から受精卵を取り出し、凍結(ガラス化)したものを加温して、あるいは凍結せずに生産農場に輸送し、生産農場で非外科的に移植して産子を作出するというのが、今回開発しようとする「受精卵移植を活用した種豚導入システム」です。具体的な内容としては、生存性の高い凍結方法の検討、輸送システムの開発、非外科的移植における高受胎技術の検討、種豚導入システムの経済性の検証、凍結受精卵の非外科的移植による種豚導入システムの実証、血清を用いない凍結液・輸送液の開発という多岐にわたる研究であるため、国、県、民間企業が連携して共同研究を行っています。

 神奈川県は受精卵を長距離輸送するための輸送システムの開発を担当しています。具体的には

(1)豚受精卵専用輸送器の試作

(2)輸送後の受精卵の発育能を調査

(3)輸送後の受精卵の受胎性の調査  です。

★生存性の高い豚受精卵の輸送システムの開発

 人では、温度を一定にした容器を用いて受精卵や卵子を輸送した後に移植を行い、出産した例が報告されています。また、牛受精卵では、通常の培養液に抗酸化剤を使用することにより輸送後の生存率が向上することから、輸送液の組成は受精卵の生存性に影響すると考えられます。現在までに豚受精卵を輸送後に非外科的に移植し受胎した報告は少なく、受胎率も29%と輸送しない場合と比較して低いことが知られています。これは豚の受精卵が、温度変化等のストレスに感受性が高いことが原因と考えられます。そこで、温度やガス濃度を一定に保つ輸送器と生存性を損なわない輸送液による輸送システムを開発することが必要です。


(1)豚受精卵専用輸送器の試作

 温度変化等のストレスを低減するため、図2のような温度と炭酸ガス濃度を一定に保つ輸送器を試作しました。この輸送器は縦33cm、横36cm、高さ31cmのジェラルミン製の箱の中に、リチウムイオン電池、アルミニウム製の輸送コンテナ、温度調整装置を設置し、輸送コンテナ内を温度38℃、炭酸ガス濃度5%で約7日間維持することが可能です。 この輸送器を使用して、人工授精後6日目に採取した受精卵を輸送液(PBM)とともにストローに封入し、24時間培養して通常の培養器で培養した受精卵と生存性を比較しました。その結果、培養後の生存率、透明帯脱出率に有意な差はなく、試作した輸送器で豚受精卵の培養が可能だということが明らかとなりました(表1)。

図2 試作した豚受精卵専用輸送器
図2 試作した豚受精卵専用輸送器

リチウムイオン電池およびガス濃度調整剤を使用することで、輸送コンテナ内を温度38℃、炭酸ガス濃度5%で約7日間維持できる。コンテナを変えることでストローやサンプリングチューブ、35mmディッシュを輸送することが可能。計画停電時には小型インキュベーターとしても活躍。

表1 豚受精卵専用輸送器と通常の培養器との胚生存性の比較
表1 豚受精卵専用輸送器と通常の培養器との胚生存性の比較

(2)輸送後の受精卵の発育能を調査

 人工授精後6日目の受精卵を神奈川県海老名市から山形県山形市へ宅配便で輸送し、輸送後の発育能を調査しました。輸送時間は、平均22時間16分でした。輸送中の温度はそれほど大きな変動はなく、38.2から39.0℃の範囲でした。生存率、透明帯脱出率は輸送しない場合と有意差のない数値が得られ (図3)、受精卵の生存に適した環境が確保されていました。

図3 輸送後の生存率、透明帯脱出率
図3 輸送後の生存率、透明帯脱出率
        

(3)輸送後の受精卵の受胎性の調査

 今年度は移植試験を行っています。今のところガラス化保存した受精卵を加温後に輸送して非外科的に移植し1頭受胎を確認しています(図4)。今後、結果を順次お知らせしたいと思います。

図4 輸送受精卵を非外科的に移植した胎仔のエコー画像
図4 輸送受精卵を非外科的に移植した胎仔のエコー画像

まとめ

 以上のことから、試作した輸送器を使用して豚受精卵を輸送できることが確認できました。

 今後は実際に輸送後に移植する試験を継続し、子豚がどのくらい生産できるかを検証したいと思います。


(企画研究課 坂上 信忠)

神奈川県

このページの所管所属は 畜産技術センター です。