研究情報 2012年9月

掲載日:2016年4月1日

牛の性選別精液の使い方

はじめに

 子牛の性別はY染色体を持つY精子とX染色体を持つX精子のどちらが卵子と受精するかで決定されます。あらかじめX精子とY精子を分別して人工授精することができれば、乳用後継牛の生産や肥育素牛の生産は極めて計画的に行うことが可能になります。現在、乳牛では雌子牛(後継牛)を生産するためのX精子を90%以上含む雌選別精液、肉牛では雄子牛(肥育素牛)を生産するためのY精子を90%以上含む雄選別精液、さらに性選別精液を利用して生産した性判別受精卵が市販されており、県内においても表1に示すとおり年々利用が広がっています。しかし、性選別精液は正しい使い方をしないと受胎率が低下することも懸念されており、家畜改良事業団の調査でも経産牛の受胎率が特に低下していました(表2)。今回は性選別精液の使い方と当所における研究の取り組みを紹介します。

表1 性選別精液や受精卵の流通状況 表2 性選別精液(Sort90)の人工授精成績

性選別精液の使い方

 雄を生産するY精子と雌を生産するX精子は自然の状態では50%ずつ含まれており、簡単にこの2種類を分別することはできませんでした。2種類の精子の唯一の違いは精子頭部に含まれるDNA量がX精子の方が3.8%多いということです。そこで、フローサイトメーター・セルソーターという機械を使用して精子のDNA量を1匹ずつ測定し、X精子とY精子を高速で分別することにより性選別精液として供給することが可能になりました。現在供給されている精液は、国産精液(家畜改良事業からSort90、ジェネティクス北海道からGH-X)が販売されており、いずれも0.5mlストローに充填されストロー内は精液と希釈液の2層構成になっていますが、融解後は通常精液と同様に人工授精することができます。輸入精液は0.25mlのストローに充填されていますので人工授精の際には、受精卵移植用注入器を使用する必要があります。また、国産性選別精液のストロー1本に含まれる精子数(300から600万個/本)は通常精液(およそ2,000万個/本)と比べると少なく調整されています。

 これらのことから、家畜改良事業団では性選別精液(Sort90)の人工授精のためのマニュアルを作成し、図1のように受胎率を低下させないために注意すべきポイントを示しています。また、「未経産牛に利用すること」、「経産牛に利用する場合は受精卵移植用の深部注入カテーテルを利用すること」などを推奨しています。精子数の少ない性選別精液で受胎率を低下させないためには、受精や受胎のためにより有利な条件を整えることが重要と考えられます。


図1 性選別精液の受胎率を低下させないポイント

畜産技術所の取り組み

 畜産技術所では、性選別精液を利用した性判別受精卵の生産について体内受精卵を採取する方法と体外受精卵を生産する方法について研究しています。

1 性選別精液を利用した採卵(体内受精卵)

 ホルスタイン種経産牛に過剰排卵処理を行い性選別精液または通常精液を人工授精して受精卵の採取を行いました。どちらの精液においても人工授精は発情日の午後(PG投与後58時間)に1本の精液を注入する方法で行いました。その結果、表3に示すとおり性選別精液では正常卵が少なく、未受精卵が多く採取されました。性選別精液を体内受精卵の採卵に利用する際には通常精液と同様の方法では採卵成績が低下しますので、人工授精のタイミングや授精回数に注意する必要があります。家畜改良事業団からは発情開始時間を正確に把握して発情開始から20から24時間後に受精卵移植用深部注入カテーテルを用いて左右子宮角の深部に1本ずつ精液を注入する方法が推奨されています。当所では排卵時間を集中化させる処理を併用して、より多くの性選別受精卵数を得る方法の開発に取り組んでいます。

表3 性選別精液を利用した採卵成績

2 性選別精液を利用した体外受精

 ストローに充填された精子数の少ない性選別精液であっても、体外受精であれば精子数(濃度)を調整して利用することができます。そこで、受精能力の高い卵子を採取して性選別精液と体外受精することでより多くの性判別受精卵を生産することを目的に試験を行いました。ホルスタイン種経産牛に過剰排卵処理と同様のホルモン投与を行い、超音波画像診断装置を利用して排卵直前まで体内で成熟させた卵子を採取し、性選別精液で体外受精しました。ホルモン投与を行わずに未成熟卵子を採取する従来法と比べてみると、表4に示すとおり卵胞数、採取卵子数、体外受精後9日目までに発生した胚盤胞(移植可能卵)数ともに成熟卵子採取法が優れており、より多くの性判別受精卵を生産することが可能でした。現在、採卵成績や体外受精成績のデータを増やすとともに、生産した性判別受精卵の移植成績の調査を行っています。

表4 性選別精液を利用した体外受精成績

 昨年12月に開催された酪農技術研究会において、性選別精液を生産販売している家畜改良事業団の方を招いて研修会を行いました。その際の参加者からも、「性選別精液は受胎率が低いので種付けする牛を厳選している」、「性の選別率は100%にはならないのか」、「精液の価格をもう少し安くして欲しい」など、質問や要望などが多数あり、関心の高さがうかがわれました。性選別精液は、後継牛を計画的に確保すると同時に、それ以外の牛からはF1生産やETによる和牛生産で子牛販売による収入を確保する点でも魅力的ではありますが、コストや受胎率の点を考慮するとより効果的な使い方を確立する必要があると思いますので、当所において引き続き研究を進めてゆきます。

(企画研究課 秋山清)

神奈川県

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