研究情報 2012年11月

掲載日:2016年4月1日

福祉的要素を取り入れたほ乳・離乳子豚の飼養管理方法の検討

はじめに

 今までの豚の飼育は主に生産性の向上を目指してきましたが、アニマルウェルフェアの考え方が浸透し始め、一部の生産者の間で取り組みが始まっています。

 国内では、平成21年3月、社団法人畜産技術協会を中心に『アニマルウェルフェアの考え方に対応した豚の飼養管理指針(AW管理指針)』が作られました。その中では「家畜を快適な環境で飼うことは、家畜が健康であることによる安全・安心な畜産物の生産」につながり、また、「家畜の持っている能力を最大限に発揮させることにより、生産性の向上」にも結びつくとしています。

 そこで、当所では、平成20年より「快適性」と「生産性」に着目した試験に取り組み始めました。


調査の目的

 離乳は(1)母との離別、(2)分娩豚房から離乳豚房への環境の変化、(3)群の再編成を行う場合には他個体との遭遇等、子豚の置かれる環境が大きく変化します。そのため、AW管理指針において、「離乳は子豚にとって大きなストレスとなるため、 離乳子豚への影響が最小となるよう配慮する必要がある。」と位置づけています。

 そこで、ほ乳期に複数の腹を混合して飼育することが離乳時の群編成のストレスの減少につながるか(「快適性」)、また、発育や事故率等にどのように影響を与えるか(「生産性」)明らかにするため調査を行いました。

 「快適性」については、アニマルウェルフェア概念となっている五つの自由(図1)を基本に、「正常な行動」として、摂食、休息などの個体を維持する行動への影響や、不快なときに見られる尾かじりや耳かじりといった異常行動の発現状況、「生産性」については発育や事故率等への影響について、麻布大学と共同で調査を行いましたので、ご紹介させていただきます。


図1 5つの自由

図1 5つの自由


調査1 ほ乳期の混合飼育がほ乳子豚に与える影響

試験の目的

 隣接した分娩豚房の隔柵を取り除いた飼育システムにおいて、ほ乳子豚の行動、発育等を比較し、混合飼育がほ乳子豚へ与える影響を調査しました。

試験区の概要

【供試豚】

 供試豚には当所で飼養しているランドレース種系統豚「ユメカナエル」と大ヨークシャー種「カナガワヨーク」を使用しました。

【試験区の概要及び調査期間】

 試験区は1週齢で隣接する2つの分娩豚房の隔壁を除去し2腹を混合した区とし、対照区は単房で飼育した区を2腹用いました(図2)。 調査期間は、分娩豚房で飼育する1週齢から5週齢とし(4週齢で離乳)、5反復行いました。

図2 ほ乳期の試験区の概要

図2 ほ乳期の試験区の概要(試験1)


調査内容

【快適性に関する調査】

 行動の調査は1、2、3週齢時に午後1時から4時までの3時間行いました。個体維持行動(休息、吸乳、採食、その他)は、群別、観察日別に行動回数を集計し、行動の発現割合を算出しました。敵対行動(闘争、攻撃)、失宜行動(尾かじり、耳かじり)は同腹間・異腹間の発現割合について調査しました。

【生産性に関する調査】

 1から5週齢まで、毎週体重を測定しました。また、期間中の事故率、治療頭数、離乳後の飼料摂取量を調査しました。

結果

【快適性の比較】

(個体維持行動)休息、吸乳、摂食等の行動は、試験区と対照区の間に有意な差は認められませんでした(図3)。

(敵対行動及び失宜行動)敵対行動や失宜行動の発現割合は試験区と対照区間、試験区内の同腹、異腹間において有意な差は認められませんでした。

(吸乳行動)試験区の吸乳行動において、今回試験した86頭中1頭のみ、吸乳先を異母豚に変えましたが、多くは自分の母豚から吸入し、自由に吸乳することはありませんでした(図4)。

【生産性の比較】

(増体)1週齢から5週齢時までの増体重は試験区が重く推移しましたが、対照区と有意な差は認められず、1から5週の平均増体重も試験区が高くみられましたが有意な差は認められませんでした(表1)。

(飼料摂取量及び飼料要求率)代用乳は対照区が多く食べ、試験区の効率が良い結果でしたが、統計的な差は認められませんでした(表1)。

(事故・治療頭数の割合)子豚の事故は、ほ乳期には圧死が見られましたが、有意な差は認められませんでした(表1)。


図3 ほ乳期の個体維持行動の発現割合の推移 図3 ほ乳期の個体維持行動の発現割合の推移 図3 ほ乳期の個体維持行動の発現割合の推移

図3 ほ乳期の個体維持行動の発現割合の推移(左:休息、中:吸乳、右:摂食、麻布大学)


図4 試験区におけるほ乳子豚の吸乳頭数割合の推移

図4 試験区におけるほ乳子豚の吸乳頭数割合の推移(平均値、麻布大学)


表1 ほ乳期の生産性の比較(平均値±標準偏差)

表1 ほ乳期の生産性の比較(平均値±標準偏差)

調査2 ほ乳期の混合飼育が離乳子豚に与える影響

試験の目的

 ほ乳期の混合飼育が、離乳後の豚房移動・群の再編制を行った後の子豚の行動、発育等に与える影響を調査しました。

試験区の概要

【離乳豚房への移動】

 5週齢時に1腹あたり6頭を体重・性別がほぼ同じになるように選抜し、分娩豚房から離乳豚房に移動しました。

【群の再編成】

 移動の時に、試験区では混合飼育のなかから6頭ずつ選抜して2区に分け、対照区は単房飼育の2腹から6頭ずつ選抜・混合し2区に再編成しました(図5)。

【調査期間】

 調査期間は、離乳豚房で飼育する5週齢から8週齢とし、4反復行いました。

図5 離乳期の試験区の概要(調査2)

図5 離乳期の試験区の概要(調査2)


調査内容

【快適性に関する調査】

 行動調査は5から8週までの毎週1時から4時までの3時間行いました。調査項目は、調査1と同様としました。

【生産性に関する調査】

 調査項目は、調査1と同様としました。

【血液生化学調査】

 調査終了時の健康状態を調査するため、両区から二頭ずつ抽出し、血液成分(赤血球数、白血球数、ヘマトクリット値、ヘモグロビン量、血小板数)、及び血清成分(ALB、GLU、BUN等)について調査しました。

結果

【快適性の比較】

(個体維持行動)休息、摂食等行動には試験区と対照区の間に有意な差は認められませんでした(図6)。(敵対行動及び失宜行動)五週齢の敵対行動において、初めて異腹の子豚と混合した対照区が試験区に比べ有意に多く見られました。また、その攻撃対象も異腹間の平均敵対行動数が同腹間と比べ有意に多い結果でした。また、五週齢以降は両区間に有意な差は認められませんでした(図7)。失宜行動に有意な差は認められませんでした。

【生産性の比較】

(増体)5週齢から8週齢時までの増体重の推移、平均増体重も試験区が高くみられましたが有意な差は認められませんでした(表2)。

(飼料摂取量及び飼料要求率)対照区が多く飼料を食べ、試験区の効率が良い結果でしたが、有意な差は認められませんでした(表2)。

(事故・治療頭数の割合)両区ともに大腸菌症による事故・治療がありましたが、有意な差は認められませんでした(表2)。

【血液生化学調査】

 両区に有意な差は認められず、また、両区とも正常な範囲内にありました。


図6 離乳期の個体維持行動の発現割合の推移 図6 離乳期の個体維持行動の発現割合の推移

図6 離乳期の個体維持行動の発現割合の推移(左:休息、右:摂食、麻布大学)


図7 離乳期の敵対行動の発現割合 図7 離乳期の敵対行動の発現割合

図7 離乳期の敵対行動の発現割合(平均値±標準偏差、*:P<0.05)


表2 離乳期の生産性の比較(平均値±標準偏差)

表2 離乳期の生産性の比較(平均値±標準偏差)

まとめ

 離乳期のストレスを軽減する目的でほ乳期に混合飼育を行いました。

 1週齢で混合飼育を行った場合と通常の単房で飼育を行った場合のほ乳子豚の行動に差は認められませんでした。ほ乳期の子豚は外界の刺激に対する順応性が高いため、異母豚や異腹子豚との接触が大きなストレスにならなかったと考えられました。

 一方、離乳豚房に移動し再編成した直後においては、離乳豚房で初めて異腹の子豚と遭遇した区において、異腹間での敵対行動の発現割合が高く見られました。このことから、ほ乳期の混合飼育は離乳後の子豚のストレスの減少につながり、快適性が高くなると考えられました。

 また、ほ乳期、離乳期の発育や事故率等が混合飼育と単房飼育で差が認められなかったことから、ほ乳期の混合飼育は生産性に影響を及ぼさないと考えられました。

 以上のことから、今回行ったほ乳期の混合飼育は、隔壁を除去という豚房の構造を変えることなく子豚の「快適性」を向上させる方法の一つとなることが考えられました。今後も、アニマルウェルフェアの考え方をどのように養豚現場へ反映していくかを視野に入れながら試験を継続していきたいと考えています。


(企画研究課 西田 浩司)

神奈川県

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