【当日の記録】平成29年度 第4回インクルーシブ教育推進フォーラム

掲載日:2018年3月9日

地域と共につくるインクルーシブな学校
       -みんなで描く「私たちの学校」-

趣旨

 神奈川県教育委員会では、誰もが個性と能力を発揮し、地域で生き生きと暮らしていける共生社会の実現に向け、すべての子どもができるだけ同じ場で共に学び共に育つ、インクルーシブ教育の推進に取り組んでいます。
 インクルーシブ教育の推進に向けては、教職員だけでなく、保護者の方や地域の方と共に取り組んでいく必要があり、県民のみなさまのご理解とご協力が何より重要と考えています。
 そこで、すべての子どもを地域で支え育てていくためのネットワークづくりについて、県民のみなさまと共に考える「インクルーシブ教育推進フォーラム」を開催しました。

日時

平成29年10月28日 土曜日 13時40分から16時40分まで

会場

大和市保健福祉センター ホール (大和市鶴間1-31-7)

内容

1)趣旨説明会場
  「神奈川のインクルーシブ教育の推進」
   インクルーシブ教育推進課
   田中 みか(グループリーダー兼指導主事)

 神奈川の考えるインクルーシブ教育の推進とは、「支援教育の理念のもと、共生社会の実現に向け、すべての子どもができるだけ同じ場で共に学び共に育つことをめざす」ことです。
 神奈川県では、すべての子どもが共に学び共に育ちながら、能力や可能性を最大限に伸ばし、自立し社会参加できる力を育むために、「できるだけ地域の学校で学ぶしくみづくり」「通常の学級で学ぶしくみづくり」「高校で学ぶしくみづくり」に取り組みます。
 また、これまで行われている特別支援学級や通級による指導などと併せて、連続性のある多様な学びの場を整えることにより、一人ひとりの教育的ニーズに応えることができる教育の充実も進めてまいります。
 こうした取組を通して、地域で共に生きるしくみづくりにつなげていきたいと考えています。

 学校は、さまざまな子どもたちが共に学び、共に育つ場を提供していくことが大切だと考えています。子どもたちが、学び合い、支え合う機会を多く持つことが、思いやりの心や、お互いを理解し、大切にする心を育むことにつながります。

 具体的には、小・中学校での「みんなの教室」、高校での「インクルーシブ教育実践推進校」の取組を進めています。
 「みんなの教室」モデル校では、すべての子どもにとって、今までよりもさらにわかりやすい授業づくりをしています。また、さまざまな子どもたちがかかわり合う機会を増やし、みんなが共に過ごし、育ちあう学級づくりをしています。さらに、困ったことや苦手なことがあるときには、みんなの教室を活用するなどして、一人ひとりの子どもに合わせた支援をするしくみづくりをしています。
 「インクルーシブ教育実践推進校」では、現在、校内環境の整備はもちろん、すべての生徒の教育的ニーズに対応できるように、教育課程の工夫、個別支援を含めたさまざまな指導体制づくりに取り組んでいます。また、生徒たちが将来社会で活躍できるよう、高校卒業後の進路を見据えたキャリア教育の充実も図っています。そして、最も大切なのは生徒同士や先生と生徒の相互理解と考え、3つの高校で、それぞれ講演会や体験授業が実施されています。
 現在進められている具体的な取組について、写真等も使いながら紹介させていただきました。


2)パネルディスカッション

  「地域と共につくるインクルーシブな学校
                  ―みんなで描く『わたしたちの学校』ー」

パネリスト    西村たま江 氏(でんえん幼稚園主任教諭)
         伊藤 逞子 氏(リソース・ルーム枝代表)
         伊藤 正貴 氏(株式会社栄和産業代表取締役)
コーディネーター 鈴木 文治 氏(田園調布学園大学人間福祉学部教授)


主な内容

鈴木 文治氏:スケッチ鈴木氏

 第4回フォーラムのパネルディスカッションを始めます。
 まず、小学校6年生の女の子がまとめてくれたスケッチブックを紹介させていただきます。「インクルーシブな学校をつくりあげてみませんか」と書いてあります。そして、ご自分の考えと、この取組の大事さ、私たちに対する問いかけがたくさん書かれています。
 特に紹介したい部分を読ませていただきます。
 「私には養護学校に通っている弟がいます。彼は自分で自分の体を支えることができません。だから座れない、立てない、歩けない。物をうまくつかめないから、自分で食べることも飲むこともできない。発音はできるが、できる音に限りがあるので言葉にならない。だから、私と同じ学校に通えない。
 でも、できることもあります。車いすに乗って移動できる。口に運んでもらえれば食べる、飲むことができる。音楽がダイスキで体を使ってリズムをとることができる。知っている人と会うとニッコリ笑うことができる、声をかけると返事をすることができる。できることもたくさんあるのに、同じ学校に入学できないことに不思議に思いました。」
 昨年7月に起こった「津久井やまゆり園」の事件に強い衝撃を受けた彼女は、家族会の会長さんから話を聞き、障がい者と健常者との間には見えない壁があると思ったそうです。そして、インクルーシブという言葉に興味を持ち、7、8月のインクルーシブ教育推進フォーラムに参加してくれました。
 そこで、大人たちがディスカッションしている雰囲気を味わい、小学校6年生の彼女なりの考えをまとめてくれたのです。小学生である彼女が、共生社会が大事だと訴えている。これを私たちは受けとめ、私たち一人ひとりに何ができるかを一緒に考えていきたいと思います。よろしくお願いします。

 

伊藤 正貴氏:伊藤氏

 株式会社栄和産業は、昭和49年創業で現在44期目、133名の社員とともに働いています。リニアモーターカーの開通を支えているトンネル掘削車の部品、バスの前面の行き先を表示している部分など、特殊で技術的に難易度の高いものや大きな製品を作っています。
 作業はチームワークが必要であり、危険も伴うので、障がい者には難しいという認識を持っていました。障がい者の法定雇用率を達成しなくてはならないので、養護学校の先生に相談したところ、最初に知的障がいのある女の子が職業実習に来てくれました。彼女は私たちに、知的障がいがあっても何でもできると教えてくれました。実習生によって、垣根を取り払うことができ、現在は、養護学校6校から実習を受け入れています。実習ではポケットティッシュの裏に広告を入れる作業や、昼食の配膳、工場の軽作業などを担当していただきます。
 製品を表示する荷札を針金でまいてシールを貼る作業、会社の名刺を作る作業など、障がいが重くても、できる仕事に挑戦しながらフルタイムの正社員をめざし、がんばっている重度知的障がいの社員もいます。
 平成29年度4月に、養護学校から新卒採用で就職した知的障がい者の方は、現在、レーザー光線で鉄を切断する機械の操作もできるようになりました。工科高校を卒業した同期と2人で仕事を助け合ってやっていて、できることが少しずつ増えてきました。先輩から次の課題をもらい、自信も持っています。一人前に育てられれば、障がい者雇用でなくなると思います。
 「この仕事は無理だろう」ということはありません。得手不得手は誰にでもあります。仕事を任せてみて、うまくできなくても、他の仕事があります。可能性を見つけることは、障がい者に限らないのです。障がいのある人もない人も、同じように、得意な分野を伸ばすこと。障がいのある人でも一人前の技術者に育てる自信があります。
 法定雇用率をこえましたが、就職したい人がいれば、受け入れていきたいと思っています。ただ、仕事をどこまで用意できるかということ課題です。「これだったらできる」という発想で、仕事を増やす意識も大事だと思っています。また、さまざまな作業が海外生産に移行していますが、国内生産に戻して、障がいのある方が製造業に携わることができるようにしたいです。
 今、障がい者雇用に取り組む企業を増やしたいと思っています。ポケットティッシュの裏には、企業への受け入れの協力を呼びかける広告を入れています。年始の挨拶回りのとき、会社の蛍光ペンといっしょに、養護学校で作っているメモ帳を配りながら伝えています。また、会社のホームページ、新聞等のメディア、このフォーラムのような機会などで取組を発信しています。民間企業もお手伝いができるしくみをつくる必要があります。それが栄和産業全体でチャレンジしていることです。
 いつか、「障がい者雇用」という概念をなくしたいと思っています。就職に心配をしなくても大丈夫な社会をめざしたいです。

 

西村 たま江氏:西村氏

 幼児教育は、社会で生きる力の土台づくりをしています。土台作りの核となるのは遊びであり、その中でさまざまな経験をします。遊びは社会です。楽しくし、よりよくするにはルールがあります。一人ではできず、仲間と共に培います。これが一人ひとりの生きる力につながっていると私は信じています。
 すべての子どもが、一人ひとり違っています。互いの違いを尊重しあい、その違いを面白がってくれること、それが大事だと思います。ぶつかり合うこともありますが、それを通して深い学びが実現します。子どもは、生まれもって人や物に自分からかかわろうとする力を持っています。
 子どもが成長するときは、その子自身が困ったときです。困ったときに本質的な力が発揮されると思います。そして、そこに成長があります。一人でできることも大事ですが、困っているとき、悲しいとき、うれしいとき、そばに寄りそう大人、同じ仲間の子どもがいることが大切です。そこに育ち合い、支え合いがあります。
 運動会のエピソードを話します。年長組は、遊びの経験を生かして、お話をつくって表現をします。今年は夏休みの経験から、身体や道具を使って花火を表現するグループがありました。子どもは17人、その中に配慮が必要なAくんがいました。入園時は歩くこともままならなかったAくんが、ナイアガラの滝の花火をイメージした、丸から横一列になる隊形移動をすることになりました。目標の位置に私がいれば、それを目安に自分で動けるかなと思いました。繰り返し練習し、移動できるようになりました。
 あるとき、私が練習に参加できないことがありました。そのときAくんや周りの子どもがどうするのか、子どもへの信頼の気持ちもあり、あえてそのまま私がいない状況でやりました。すると、近くの男の子が、Aくんと手をつないですごい勢いで連れて行ってくれました。
 この時期から、私たちはAくんから少しずつ距離をおくようにしました。Aくんが困ったとき、その様子を見て、まわりの子どもたちがどういうふうに感じるのか。私たちができるだけ見守るようにすると、子どもたちは誰も手をつながず、Aくんが自分でできるタイミングをはかりながら、表現するようになりました。そして、運動会の1週間前に、音楽と合わせて花火を飛ばす操作を覚えることができました。当日は、彼は大喜びで、17人の1人として取り組みました。
 子どもが困った時、私たちは助けすぎないこと。子どもの力を信じる。子ども同士はちゃんと見ている、聞いている、助け合う、その力を信じることが大事です。日々共に暮らし、さまざまなことを経験しているからこそ、子ども同士のつながりができたのだと思います。みんな違う中で、互いに認め合う。
 保育者の役割は、それを見届け、理解することです。教育に携わる人は、子どもたちから学ばなければ希望や未来をつくれません。それを再び自分の中にかみしめ、明日から保育に携わりたいと思います。

 

伊藤 逞子氏:伊藤(逞)氏

 私は、小・中学校や高等学校へ巡回相談に行っています。特別支援学級、通常の学級どちらもまわっています。学校現場はさまざまで、帰り道、心地よく温かい気持ちで帰る日もあれば、ひどく落ち込んだり、腹立たしく過ごしたりする日もなくはありません。
 小学校の事例です。字を書くのが苦手で、九九や大きな数も苦手な4年生のお子さんがいました。でも、面積の勉強や工作は得意です。好きなことは集中でき、内容も理解できますが、気分によっては取り組めないことがあり、授業中、寝てしまうこともあります。
 彼は、宿題をすることができませんでした。そんな彼のために、お母さんは先生のところへ行き、宿題を全部やるのではなく、先生にやる場所を決めてもらい、量を減らしてほしいと伝えました。すぐに先生も対応してくれました。ほんの少しの支援ですが、これによって彼は初めて宿題をやりました。その後、彼の学級での動きが変わりました。それまでは諦めていたけれど、こういうやり方でも大丈夫、先生が受けとめてくれると彼が思ったからだと思います。
 実は彼は小学校3年生までつらい思いをしてきたそうです。できないとき、友だちがどんな目で自分を見ているのかが気になる。通級指導教室にも行っていました。別室での個別指導や通級による指導が終わって教室に入るとき、つらい思いをする子どもがいます。「何をしていたのか」と他の子どもたちに思われるのが嫌だから、個別指導を受けない子どももいます。個別支援のために教室を出たり入ったりしても、それがあたりまえの雰囲気のクラスになってほしい。担任の先生がしっかりと子どもを見て、教室で自然に受け入れていれば、クラスの子どもたちもあたりまえのこととして受け入れます。彼は今、以前より気持ちよく学校生活を過ごしています。
 高校では、少し乱暴な生徒がいました。中には、不安視し、偏見を持つ先生もいましたが、担任が優しく受け入れたことで、クラス全体がその子を怖がらず、仲間になりました。苦しみを抱えていた生徒も、特別に何かしてくれているとか、配慮があるとかではなくて、「このクラスは普通にいいクラス」だと言いました。
 学校を巡回していて感じるのは、担任の先生の力がとても大切だということです。「インクルーシブ教育」という言葉にとらわれるのではなく、そのお子さんをしっかり見て、必要なことをその場で手助けする。また、不要なことはやらないであげる。先生は自分を磨くこと、自分の人間力を磨くことも大事です。
 私は人が嫌がることはせず、喜ぶことをしたい。嫌がることをしないということは、わがままをきくことではありません。わがままなのではなく嫌がることなのだと見極める力をつけ、その人が生きやすいように、困らなくていいように工夫をしてあげたいと思います。
 一人で生きていると、私たちは知らぬ間に差別、偏見、排除してしまうことがあります。そうなってしまうのは人間の性でもあります。だから、一人でがんばらないでください。子どもも、保護者も、先生も、一人の人間です。「一人でがんばらない」、私も忘れないようにしていきたいと思います。

 

 神奈川県教育委員会では、すべての子どもができるだけ共に学び共に育つ中で、お互いを理解していくことが大切だと考えています。一人ひとりの人間性や多様な個性をお互いに認め合い、助け合うことができる「インクルーシブな学校」をめざした取組が進み、共生社会の実現につながっていってほしいと思います。
 今回のフォーラムは、パネリスト、コーディネーター、そして会場全体で「インクルーシブな学校」について、考える機会とさせていただきました。

主催

神奈川県教育委員会教育局 インクルーシブ教育推進課

神奈川県

このページの所管所属は インクルーシブ教育推進課 です。