【当日の記録】平成29年度 第3回インクルーシブ教育推進フォーラム

掲載日:2018年1月16日

地域と共につくるインクルーシブな学校
       -みんなで描く「私たちの学校」-

趣旨

 神奈川県教育委員会では、誰もが個性と能力を発揮し、地域で生き生きと暮らしていける共生社会の実現に向け、すべての子どもができるだけ同じ場で共に学び共に育つ、インクルーシブ教育の推進に取り組んでいます。
 インクルーシブ教育の推進に向けては、教職員だけでなく、保護者の方や地域の方と共に取り組んでいく必要があり、県民のみなさまのご理解とご協力が何より重要と考えています。
 そこで、すべての子どもを地域で支え育てていくためのネットワークづくりについて、県民のみなさまと共に考える「インクルーシブ教育推進フォーラム」を開催しました。

日時

平成29年10月7日 土曜日 9時40分から12時40分まで

会場

伊勢原市民文化会館 小ホール(伊勢原市田中348)

内容

1)趣旨説明全体
  「神奈川のインクルーシブ教育の推進」
   インクルーシブ教育推進課
   田中 みか(グループリーダー兼指導主事)

 神奈川の考えるインクルーシブ教育の推進とは、「支援教育の理念のもと、共生社会の実現に向け、すべての子どもができるだけ同じ場で共に学び共に育つことをめざす」ことです。
 神奈川県では、すべての子どもが共に学び共に育ちながら、能力や可能性を最大限に伸ばし、自立し社会参加できる力を育むために、「できるだけ地域の学校で学ぶしくみづくり」「通常の学級で学ぶしくみづくり」「高校で学ぶしくみづくり」に取り組みます。
 また、これまで行われている特別支援学級や通級による指導などと併せて、連続性のある多様な学びの場を整えることにより、一人ひとりの教育的ニーズに応えることができる教育の充実も進めてまいります。
 こうした取組を通して、地域で共に生きるしくみづくりにつなげていきたいと考えています。

 学校は、さまざまな子どもたちが共に学び、共に育つ場を提供していくことが大切だと考えています。子どもたちが、学び合い、支え合う機会を多く持つことが、思いやりの心や、お互いを理解し、大切にする心を育むことにつながります。

 具体的には、小・中学校での「みんなの教室」、高校での「インクルーシブ教育実践推進校」の取組を進めています。
 「みんなの教室」モデル校では、すべての子どもにとって、今までよりもさらにわかりやすい授業づくりをしています。また、さまざまな子どもたちがかかわり合う機会を増やし、みんなが共に過ごし、育ちあう学級づくりをしています。さらに、困ったことや苦手なことがあるときには、みんなの教室を活用するなどして、一人ひとりの子どもに合わせた支援をするしくみづくりをしています。
 「インクルーシブ教育実践推進校」では、現在、校内環境の整備はもちろん、すべての生徒の教育的ニーズに対応できるように、教育課程の工夫、個別支援を含めたさまざまな指導体制づくりに取り組んでいます。また、生徒たちが将来社会で活躍できるよう、高校卒業後の進路を見据えたキャリア教育の充実も図っています。そして、最も大切なのは生徒同士や先生と生徒の相互理解と考え、3つの高校で、それぞれ講演会や体験授業が実施されています。
 現在進められている具体的な取組について、写真等も使いながら紹介させていただきました。


2)パネルディスカッション

  「地域と共につくるインクルーシブな学校
                  ―みんなで描く『わたしたちの学校』ー」

パネリスト    庄司 暢道 氏(認定こども園 東海大学付属本田記念幼稚園園長)
         菅原 順子 氏(特別支援教育士)
         佐藤 武   氏(ポピーたけ鍼灸院代表)
コーディネーター 滝坂 信一 氏(元帝京科学大学生命環境学部教授)

滝坂氏
  ◀滝坂 信一 氏

 

 

 

 

 

 

庄司氏 菅原氏佐藤氏

 

 

 

 

                  ▲庄司 暢道 氏                 ▲菅原 順子 氏                ▲佐藤 武 氏


主な内容

滝坂 信一氏:

 共生社会、インクルーシブな学校は、誰かがつくってくれるのではなく、ここにいる全員がそれぞれの地域でつくっていくものです。誰かではなく私たちがやる。私たちの中には、小学生・中学生・高校生も含まれています。
 社会をつくっているのは私たちです。今日のフォーラムで感じていることを率直に話して、みんなで考えることは、とても大切なことです。意見が違うこともあるかもしれません。でも、それが今の状況であることを、みんなで共有できればと思います。
 今日のゴールは、2つあります。1つ目は、共生社会やインクルーシブな学校をつくるための考えを持ったり、今まで自分が考えてきたことがいいと思えたり、今までになかった考えに気づいたりすること。2つ目は、共生社会やインクルーシブな学校をつくるときに自分にできることを、具体的に一つでも感じられることです。よろしくお願いします。
 

 

庄司 暢道氏:

 認定こども園東海大学付属本田記念幼稚園園長の庄司です。子どもたちが遊びや自然とのかかわりをたっぷりと経験する中から、学びへの意欲に気づき、人間関係や社会性をつくっていくという、いたって普通の幼稚園です。
 現在、2歳児から年長児までの子どもが在籍しています。支援の必要があるお子さんや、医療的ケアが必要なお子さんもいます。先生たちは日々いろいろ考え、ときには思い悩みながら、子どもたちと生活をしています。
 幼稚園の大きな指導内容の一つに、生活習慣の自立があります。障がいがあるなしにかかわらず、自分のことは自分ですること。例えばトイレトレーニングや着替えです。幼児期は自己中心的、大人に依存的なので、頑張ればできるのに「やって」と言うし、やってもらったほうが楽というのをわかっている。それを、できることは自分でするように言葉かけしたり、時にはおだてたりして促しています。園では肢体不自由のお子さんが車いすで生活していて、トイレのときは後ろから教員が抱えて行きます。でも、すべてのサポートはしない。水道の蛇口をひねることはできないけど、手を伸ばすことはできます。近づけてあげれば動かさなくても水に触れられますが、「そこにあるよ」と言えば少し手を動かすことはできます。療育や医療の専門施設ではないので、先生たちもやってみてうまくいった、失敗だったなどと、よい方法を探しながらですが、自分でできることは自分でするよう促しています。
 就学時健診が小学校で始まるころになると、子どもたちにどんな配慮が必要か、小学校から聞かれることになります。幼稚園には自由な面がたくさんありますが、小学校に行くと、学ぶべき学習内容があります。学校の先生から、よく、「給食は時間内に食べ終われますか?」と聞かれますが、時間的な制約もあります。もう少し、教科的な部分ではない学びを大切にしてほしい。特に小学校低学年あたりでは、時間的な拘束や制約も含めて、ゆとりのある、自由度の広い受け入れ方をしてくださると、小学校に進む子たちも気持ちの部分で楽になると思います。インクルーシブな学校づくりには、学校教育の「自由度」と「ふところの深さ」が必要と感じます。
 幼稚園では、障がいのある子どもも含め、さまざまな子どもたちが共に過ごしています。子どもたちとの生活の中で、私は、「なんで、どうして」ではなく「どうやったら」を考えるようにしていこうと思っています。どのようにしたら、いろいろな可能性が広がるのか。一人ひとりの子どもたちの成長のために、「どうやったら」を追及したいと思います。

 

菅原 順子氏:

 私は、支援教育が始まった当初から約10年間、巡回相談員として、県央、県西地区の小・中学校、高校を訪問してきました。
 私が考える共生社会とは、当たり前の自然な社会です。日本は山の国で、どの山もかけがえのない自然として風土を形づくっています。それぞれの山が、それぞれの高さ、登りやすさや登りにくさを持ち味にしているように、多様な人間が形づくっているのが共生社会だと思います。また、一人ひとりの内なる多様性も忘れてはいけないと思います。できるだけ多様な立場の多方向から見ることにより、子どもをでこぼこの多面体として捉え、どういう面がへこんでいて支援が必要か、どこに見せ場があり何が得意か、何ができるのかを考えることが必要です。
 これからのインクルーシブ教育は、ダイバーシティ&インクルージョン。ダイバーシティは多様性、インクルージョンは包み込むということです。多様であり、かつ包みこまれている状態。固いスーツケースではなく、丸いものは丸いままで包まれ、結び目は簡単にほどける、ニーズに応じて出たり入ったりが自由にできる風呂敷のような緩やかな学校です。
 一次支援として、学校生活や授業において、ユニバーサルデザインの観点からすべての子どもにとってわかりやすい工夫・支援をします。例えば、片づけが苦手で机がぐちゃぐちゃの子がいたら、一日の終わりに整理整頓の時間を作ったり、金曜日には全部持って帰ったりします。さらに大切なのは、隣の子どもが「この子は整理整頓が苦手だな」と助けてくれて、本人も整理整頓が苦手だと笑って言えるクラスを作ることです。これがまさにインクルーシブだと思います。
 二次支援として、クラスで個別支援をします。個別の声かけ、黒板の写す字を色のある字だけにするなどの部分参加、スピーチが出来ない子に司会をさせるなどの側面参加を促します。次のステップの三次支援として、みんなの教室、ことばの教室などの別の場で、個別指導や少人数指導が行われます。
 最初から三次支援ありきではなく、まずはクラスありきです。みんなの教室は給水所であり、チャージした後は、元気に戻ることが目標でありますし、クラスは大きな風呂敷を広げてあたたかく待ってくれる存在であってほしいと思います。
 学校教育のめざす自立は、自助、つまり誰の力も借りずに一人で生きていくことではなく、クラス互助と公助、お互いに助け合う、力も借りるということ。周りに多くのサポーターがいて、失敗しても笑われず無視されずに、分からないこと、できないことを手伝ってと安心して言えるヘルプを求める先がたくさんあることが、自立だと思います。それが将来的な共生社会につながると思っています。
 例えば障がいのあるお子さんをお母さんが1人で抱え込むと、ヘルプの求め先がたった一つになってしまいます。子どもを真ん中にして、学校や家庭、近所、お医者さんや習い事の先生などが取り囲み、その子の成長を見守っていく。小さいころから、その子どもを地域で育てていこうという気持ちで、よく知る機会、ふれ合う機会をたくさん持つことが大切です。
 北極星のようにめざしていく姿の実態があるものではないかもしれませんが、理念を持って進みたいという気持ちを、私も持っていたいし、みなさんにも持ってほしいです。

 

佐藤 武氏:

 ポピーたけ鍼灸院の代表をしている、佐藤武です。あんま・マッサージ・指圧師、鍼師、灸師の国家試験を取得して、この鍼灸院を開院しました。
 私は中途失明者です。サラリーマンとして働いていた41歳のとき、朝起きたら真っ暗でした。緑内障という病気です。眼圧が上がらなければなんでもない病気なのですが、私の場合は一晩で見えなくなってしまいました。2回手術して多少視野が戻り、光のまぶしさや全体のシルエットが何となく分かる程度の視力です。
 私は神奈川県立高校を2回卒業しています。1校目は普通の高校。2校目の神奈川県立平塚盲学校は47歳で入学し、50歳で卒業しました。その3年間は、寄宿舎に入り、小学校3年生から60歳過ぎの年配の方までが共に暮らしていました。「特別」という言葉は嫌いですが、特別支援学校は天国みたいなところです。特別支援学校は、居心地が良いです。生徒もみんな同じような障がいを抱えている。先生方も本当に優しい方ばかりです。
 しかし、特別支援学校で、居心地の良い環境の中ですくすく育つのはいいのですが、問題はその後です。その後社会に出るのです。社会とは、そんなものではありません。「優しい社会」という言葉は、ものすごくよい響きです。でも、甘くはない。「共生社会」、みんなで助け合う社会というのはとても素晴らしく、それは理想の社会です。でも、理想を追い求める、ユートピアを求めるのは難しい。共生社会には、いい意味での妥協が必要です。「妥協」がキーポイントだと思います。
 障がい当事者も、一緒に生活する方も、「障がいのある人は特別だ」という思いをなくさなければいけません。この人は特別だという目で見ないようにする。普通の人間だと思う。それでよいと思います。ただし、障がいがあるとどうしてもできないことが出てきます。人間は努力し、勉強し、自分を鍛えていきますが、どうにもならない部分もあります。その部分だけ手助けいただき、それ以外の部分は普通に接していただければいい。
 私が障がい者になったとき、友だちがどう私と接したらよいのか悩んでいました。私は、友だちに「できるのか」ととにかく聞いてくれ、と言いました。それから、余計なことは考えないでくれとも言いました。
 学校の中でも特別視しない。子どもたちは、私たちの希望です。共生社会の実現にむけて必要なことは、その人を特別視せず、「みんな一緒なのだ」という意識を育てていくこと。それに尽きると思います。

 

 神奈川県教育委員会では、すべての子どもができるだけ共に学び共に育つ中で、お互いを理解していくことが大切だと考えています。一人ひとりの人間性や多様な個性をお互いに認め合い、助け合うことができるインクルーシブな学校づくりが進み、共生社会の実現につながっていってほしいと思います。
 今回のフォーラムは、パネリスト、コーディネーター、そして会場全体で「インクルーシブな学校」について、考える機会とさせていただきました。

主催

神奈川県教育委員会教育局 インクルーシブ教育推進課

神奈川県

このページの所管所属は インクルーシブ教育推進課 です。