【当日の記録】平成28年度 第4回インクルーシブ教育推進フォーラム

掲載日:2016年12月21日

地域と共につくるインクルーシブな学校
ー子どもを支える地域のネットワークづくりー

趣旨

 神奈川県教育委員会では、誰もが個性と能力を発揮し、地域で生き生きと暮らしていける共生社会の実現に向け、すべての子どもができるだけ同じ場で共に学び共に育つ、インクルーシブ教育の推進に取り組んでいます。
 インクルーシブ教育の推進に向けては、教職員だけでなく、保護者の方や地域の方と共に取り組んでいく必要があり、県民のみなさまのご理解とご協力が何より重要と考えています。
 そこで、すべての子どもを地域で支え育てていくためのネットワークづくりについて、県民のみなさまと共に考える「インクルーシブ教育推進フォーラム」を開催しました。

日時

平成28年12月18日 日曜日 14時00分から16時30分まで

会場

厚木市総合福祉センター ホール (厚木市仲町1-4-1)

内容

1)趣旨説明
 「神奈川のインクルーシブ教育の推進」
  インクルーシブ教育推進課 田中みか(グループリーダー兼指導主事)

 第4回フォーラム(厚木)趣旨説明神奈川の考えるインクルーシブ教育の推進とは、 「支援教育の理念のもと、共生社会の実現に向け、すべての子どもができるだけ同じ場で共に学び共に育つこ とをめざす」ことです。
 神奈川県では、すべての子どもが共に学び共に育ちながら、能力や可能性を最
大限に伸ばし、自立し社会参加できる力を育むために、障がいのあるなしにかか
わらず、「できるだけ地域の学校で学ぶしくみづくり」「通常の学級で学ぶしく
みづくり」「高校で学ぶしくみづくり」に取り組みます。具体的には、小中学校
での「みんなの教室」、高校での「インクルーシブ教育実践推進校」の取組を
進めています。
 また、これまで行われている特別支援学級や通級による指導などと併せて、連 続性のある多様な学びの場を整えることにより、一人ひとりの教育的ニーズに応えることができる教育の充実も進めてまいります。
 こうした取組を通して、地域で共に生きるしくみづくりにつなげていきたいと考えています。

  学校は、さまざまな子どもたちが共に学び、共に育つ場を提供していくことが大切だと考えています。子どもたちが、学び合い、支え合う機会を多く持つことが、思いやりの心や、お互いを理解し、大切にする心を育むことにつながります。

  平成27年度に作成したリーフレットを使って、授業づくり・学級づくり・学校づくりの視点から、めざしていくインクルーシブな学校について、ご参加いただいた会場のみなさまも一緒に考えながら、聞いていただきました。

 フォーラムを開催した厚木市では、平成28年度から厚木市立玉川中学校、毛利台小学校で、「みんなの教室」モデル事業の取組が始まっています。また、厚木西高校は、インクルーシブ教育実践推進校に指定され、平成29年度からの生徒の入学に向けて、準備が進んでいます。それぞれの学校で進んでいる、授業づくり・学級づくり・学校づくりの取組について、紹介させていただきました。

 

2)パネルディスカッション
  「地域と共につくるインクルーシブな学校 ―子どもを支える地域のネットワークづくり―」

 第4回フォーラム(厚木)パネルディスカッション
パネリスト  
    竹内 ゆみ 氏(厚木市たんぽぽ教室職員)
      菅原 順子 氏(特別支援教育士)
    佐藤 武  氏(ポピーたけ鍼灸院代表)
コーディネーター 
    鈴木 文治 氏
    (田園調布学園大学人間福祉学部心理福祉学科長・教授)

第4回パネリスト・コーディネーター
主な内容

鈴木 文治氏:
 県の教育委員会から、共生社会の実現に向けたインクルージョンの考え方、今までの支援教育を踏まえた神奈川のインクルーシブ教育の取組の説明がありました。
 最初に、7月に起きた相模原の津久井やまゆり園の事件についてひとことお話しします。
あの事件の後、研修会や講演会で、先生方に事件のことを子どもたちにどう授業で教えたのか聞きました。しかし、そのような授業をした方はいませんでした。
事件を子どもに伝えていくということの難しさは、いろいろ考えられます。重度重複の障がいのある人と実際に会ったことがないので、語りようがないのかもしれません。障がい児教育にかかわりのない先生であれば、そうなってしまうのかもしれません。
 でも、本当にそれでいいのかと私は思います。あれだけの大変な事件が風化されることを絶対になくすために、このインクルーシブ教育があるのだということを、私たちは十分に共通理解してフォーラムを進めたいと思います。
 パネルディスカッションでは、3名の方に2つのテーマについてそれぞれの立場から発言をいただきます。1つ目は「共生社会」。自己紹介をしていただきながら、すべての人が支え合う共生社会について、ご自分のお考え、取組について話してください。2つ目は、「インクルーシブな学校づくり」です。今日のテーマは「地域と共につくるインクルーシブな学校」ですが、これに向けてポイントになりそうなことは何でしょうか。
会場のみなさまも一緒に考えていただきたいと思います。

竹内 ゆみ氏:
 厚木市役所福祉総務課たんぽぽ教室は、お子さんの発達に不安がある保護者の相談にのり、育ちを共に支える場所です。療育相談、経過観察、地域支援、親子サロンの4つの柱でサービスを提供しています。
 厚木市では平成28年度から、障がいのある方やお子さんを含めたすべての市民を対象として、地域包括ケア社会の構築を推進しています。神奈川のインクルーシブ教育の理念は、地域包括ケアの考え方と根本は同じです。ぜひとも進めていくべきと考えていますが、同時に、障がい特性や本人の発達に合わせたきめ細やかな配慮が必須であると考えます。私たち大人が、どれほど真剣に子どもの育ちを考えているか、試されていると強く感じています。
 たんぽぽ教室では、地域支援のひとつとして、幼稚園や保育所を訪問して巡回相談を行っています。幼稚園や保育所は、障がいがある子もない子も同じ場で共に学び共に育つ、形としてはインクルーシブです。上手に子どもたちの育ち合いの力を育んでいる取組を分析することで、インクルーシブ教育実現のヒントが見えてくるのではないかと考えます。
そのヒントの一つとして、先生方の意識改革と、潤滑油としての技術習得、これが大きなカギになるのではないかと感じています。
上手に育ち合っていると思われるクラスの先生は、子どもたちに自分の価値観を一方的に押し付けません。例えば、よくないことをしている友だちに忠告するのは、普通の友だち同士の感覚です。でも、「障がいのある子には優しくするべき」とか「許してあげなければいけない」という大人の一方的な思いが、逆に子どもたちの間に垣根をつくってしまうことがあると感じます。つまり、対等な感覚を否定してしまうことになるのです。
 いやなことをされたとき、その気持ちを否定されたうえに、強制的に「許しなさい」と言われたら、「何で自分だけが?」と思うのは当然です。その気持ちはやがて、「あの子は自分たちとは違う」という心の垣根につながってしまうと思います。先生は、育ち合おうとしている子どもたちのそばに寄り添って、または間に入って、「潤滑油」になるとよいと思います。
 今、「みんなの教室」やパイロット校などの新しい取組が始まっています。そこには、共生社会の理念を広げていくための核となる「発信基地」としての役割が求められているのではないかと思います。この取組によって、厚木西高校の生徒たちが、自分の、あるいは友だちの障がい特性を理解し、配慮を求める声をあげること、そして配慮することを自然に受け入れられるようになれば、共生社会の担い手として必ず即戦力になると思います。
パイロット校や、それにつながる「みんなの教室」での取組に大いに期待して、お手伝いしていきたいと思っています。

菅原 順子氏:
 私は、今から10年ほど前に「特別支援教育」が導入されたときから、巡回相談員として厚木市や伊勢原市、県央・県西地区の小・中学校、高校を訪問してきました。
 これからのインクルーシブ教育は、特別支援教育によって「均一性」から「多様性」へと進んできたX軸に、「排他性・排除性(エクスクルーシブ)」から「包摂性・包括性(インクルーシブ)」へというY軸を直交させ、「多様で、かつ、包みこむ」方向へとのばしていく取組です。
 私の考える共生社会は、当たり前の自然な社会です。
 自然というと、日本には様々な山や丘があります。この地元には大山、丹沢もあります。高い山、岩山、緑豊かな丘など、どれもかけがえのない自然として日本の風土を形づくっています。一番高いのは富士山ですが、日本中に富士山にそっくりな山が何百も並んでいたら、とても不自然です。同じように、一人ひとりがそれぞれの高さ、森、草花、登りやすさ・登りにくさなどを持ち味として、多様な人間が形づくっているのが共生社会だと思います。
 また、一人ひとりの人間の内部の多様性を認めるという意味も忘れてはならないと思います。大山というひとつの山も、見る場所によって姿は大きく違います。ひとりの子どもも、ご家族だけでなく、先生方、地域の人、友だちなど、できるだけ多くの人々が多方向から見ること。障がいや弱さの側面だけの一面的な見方ではなく、得意なこと、好きなこと、できることも含めて多面的に見る、子どもをデコボコの多面体としてとらえることが大切です。
 誰の力も借りずにひとりで生きていくことをめざすのではなく、周りにできるだけ多くのサポーターがいて、失敗しても間違っても笑われない、無視されない、わからないことやできないことを「手伝ってください」と安心して言えること、ヘルプを求める先がたくさんあること。これが共生社会につながっていくのではないかと思っています。
 もう1点、支援の必要な子どもに教室以外で個別に指導・支援するシステムが、すでに多くの学校で整えられています。ニーズに合わせた個別指導を受けて「できた」という達成感を持ち、エネルギーチャージして通常の学級に戻ってくるということもよくあります。このような取組はたいへん有効ですが、二の足を踏んでいる子どもや保護者もいます。それは、通常の学級から一人だけ別の場所に行くということに、引け目や不安、疎外感を持ってしまうからだと思います。これはシステムではなく、ものの見方や考え方の問題であり、意識改革が必要だと思います。
 ある新聞記事で、小学校の頃から病気で車椅子生活をしている方の、「ハードは変えられなくても、ハートはすぐに変えられる」という言葉が紹介されていました。その通りと思う反面、ハードはいくら整っても、ハートを変えることの方が難しいのではないかと思うこともあります。
 「違って当たり前、いろいろあって当たり前」という考え方が、インクルーシブ教育を通して多くの子どもたちに根付けば良いと思います。

佐藤 武 氏:
 ポピーたけ鍼灸院の代表、佐藤武です。同時に、厚木市や社会福祉協議会から助成をいただいている、厚木市視覚障害者協会の会長もしています。教育の専門家ばかりのところに、私のような一介の鍼灸師が、と自分でも考えてしまいましたが、お話をいただき、すぐに引き受けようと思いました。何事も経験ですから。
 人間は訓練です。訓練すれば何とかなります。ただし、何とかならない部分もあります。その部分だけ助けてもらう。障がい当事者として、私はいつもそのように考えています。いろいろな意見があると思いますが、私はそう自分に厳しく言い聞かせています。
 共生社会についてですが、これは大変難しいことです。実現しようと思っても、なかなか実現できない。ただ、障がい者個人として考えることは、一般の人も、障がい者を「特別な人」として意識しない。「あの人はかわいそう」とか、「特別だ」とか思わないでください。障がい者本人も自分が「特別」だといって甘えない。でも、できないことは助けてもらえばよいのです。このことが大事です。そして、障がい者自らが社会に参画していく。引っこみ思案にならない。
 共生社会とは、その人を特別視せず、「みんな一緒なのだ」という意識。それに尽きると思います。
 47歳から今年の3月まで、平塚盲学校という特別支援学校に通っていました。
 その経験から言いますと、インクルーシブ教育は推進すべきです。なぜか。特別支援学校は、居心地が良いです。生徒も、幼稚園児から、私のようなおじさん、おばさんまでいて、みんな同じような障がいを抱えている。先生方も本当に優しい方ばかりです。保護者のみなさんが「特別支援学校にうちの子どもを入れたい」という気持ちはすごくわかります。
 しかし、社会との共生を考えると、あまりにも社会とかけ離れているのです。社会と切り離されているといっていいくらい。私はそれをこの3年間で感じました。特別支援学校で、居心地の良い環境の中ですくすく育つのはいいのですが、問題はその後です。その後社会に出るのです。私もサラリーマンをやっていましたが、社会は厳しいです。
 ですから、それを乗り越えるためにも、インクルーシブの中で、包みこまれたような環境の中で、ちょっといやな思いをしながらも、がんばって自分で切り抜けていく力をつけることは、障がい者にとっても大事だと思います。

 神奈川県教育委員会では、障がいのあるなしにかかわらず、すべての子どもができるだけ共に学び共に育つ中で、お互いを理解していくことが大切だと考えています。一緒にいることで、障がいへの理解を深めていくことや、一人ひとりの人間性や多様な個性をお互いに認め合い、助け合うことができるインクルーシブな学校づくりが進み、共生社会の実現につながっていってほしいと思います。今回のフォーラムは、3名のパネリスト、コーディネーター、そして会場全体で「インクルーシブな学校」について、考える機会とさせていただきました。

神奈川県

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