丹沢大山の現状と課題(第1期丹沢大山自然再生計画)

掲載日:2012年3月27日
 丹沢大山自然再生基本構想において、丹沢大山が抱える主な課題を、丹沢大山全体を主要な景観要素と標高により「奥山(ブナ林)域」、「山地(人工林・二次林)域」、「里山(里地・里山)域」に分け、それらを上流から下流までつなぐ「渓流域」を加えた4つの「景観域」を基本単位として整理しています。各景観域の現状と課題についてご紹介します。

奥山(ブナ林)域
(標高が概ね800メートル以上のエリア)

鍋割山、檜洞丸、丹沢山、蛭ヶ岳、塔ノ岳などでブナの累積的な衰弱・枯死が進んでいます。このブナの衰退には、光化学オキシダントなどの大気汚染物質や水分ストレス、ブナハバチによる摂食などの要因と立地環境などが複合的に影響していると考えられます。

写真:葉をブナハバチの幼虫に食べつくされて丸坊主になったブナ
葉をブナハバチの幼虫に
食べつくされてしまったブナ

また、衰退が進む東丹沢のブナ林域の多くは、シカの強い採食圧によりブナやその他の高木の天然更新が妨げられているとともに林床植生が貧弱化して、草地化・裸地化が進行してきています。さらにこのような場所では土壌の流出も生じています。

写真:林床植生がなくなってしまったブナ林
林床植生がなくなってしまったブナ林
(丸太筋工や金網筋工などで土壌流出の防止を行っています)


山地(人工林・二次林)域
(標高が概ね300から800メートルのエリア)

戦後の復興造林や、その後の拡大造林により、この地域の人工林は急激に増大しましたが、植林地は餌場ともなり、シカも急激に増加しました。

その後、木材価格の低迷等により林業の不振が続き、手入れ不足の人工林が増えたことに加え、増加したシカの過剰な採食圧により、林床植生の衰退が進行し、土壌流出や生物多様性の低下を招いており、森林の水源かん養機能も低下しています。

さらに、林床植生の衰退によりシカがブナ林域や里山域に移動し、ブナ林域での採食圧の増加や里山での農業被害等を引き起こしています。

写真:土壌の流出により根が露出してしまった人工林
土壌の流出により根が露出してしまった人工林


里山(里地・里山)域
(標高が概ね300メートル以下のエリア)

この景観域の自然環境は、自然と折り合いをなして生きてきた地域の人々によって作られ、守られてきました。しかし近年では、林業をはじめとする生業の喪失、公共交通機関の撤退などによる集落における社会機能の低下、過疎化と高齢化に伴う担い手不足の進行が、里地里山の荒廃を招いています。

さらに、野生動物による農作物への被害が恒常化しているとともに、近年ではヤマビルの分布が拡大しています。

写真:ヤマビル
ヤマビル

写真:畑の周囲に設置された獣害防護柵
獣害防護柵


渓流域

関東大震災とその後の台風や豪雨などによる崩壊地の対策のため、丹沢山地の渓流に多くの砂防えん堤や治山施設が設置されてきました。これらの施設は、土砂災害の減少や森林の回復に寄与していますが、一方で人工構造物が設置された箇所では上下流が分断されることにより、主に水生生物の移動に影響がでており、生物多様性の低下を招く恐れがあります。

写真:ヒダサンショウウオ
ヒダサンショウウオ

また、林床植生の衰退に伴う土壌流出及び崩壊地由来の多量の土砂の持続的流出により、丹沢湖では計画以上の速さで堆砂が進行し、ダムの寿命の短縮による水利用の不安定化を招く恐れがあります。


景観域に共通

平野部や丹沢山地の人為的な改変により、シカは分布域を変化させた後、高標高域の鳥獣保護区を中心に高密度化し、自然植生に強い影響を与えています。神奈川県では、生物多様性の保全、シカ個体群の維持、農林業被害の軽減を目的として、2003年に「ニホンジカ保護管理計画」を策定し保護管理事業を進めていますが、シカの高密度生息地においては、林床植生の消失や土壌の流出がみられるなど、生態系に与える影響は以前にも増して深刻化しています。

外来哺乳類のアライグマや外来鳥類のソウシチョウやガビチョウ、外来魚のオオクチバスなどが丹沢山地においても確認されています。外来生物の侵入は、生態系や生物多様性を脅かすだけでなく、農林水産業や人の暮らしへも影響を及ぼすことがあり、丹沢山地においても外来生物による影響が懸念されています。

丹沢山地では東丹沢・南丹沢の登山道に登山者が集中する傾向があり、これらの登山道では植生の退行や、し尿問題などのオーバーユースが顕在化しています。神奈川県では丹沢大山ボランティアネットワークを立ち上げるなどをして、県民とも協働して施設の維持管理や自然公園の適正利用を図っています。

写真:県自然公園指導員有志との協力による軽易な登山道の補修
県自然公園指導員有志との協力による
登山道の軽易な補修

神奈川県

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