更新日:2020年4月1日

ここから本文です。

神奈川県自然環境保全センター報告 第5号

神奈川県自然環境保全センター報告 第5号

特別寄稿

丹沢大山総合調査を終えて(PDF:78KB)

  • NPO法人神奈川県自然保護協会 新堀豊彦

【要旨】

 今回の「丹沢大山総合調査」は、今までにないスケールで取り組んだ実行委員会であり、調査団であった。参加した約500名の調査員は、極めて高い研究意欲に支えられ、2年余の短期間としては可能な限りの成果をあげられたのではないか。今回できあがった「学術調査報告書」の内容は立派なものであり、すべての分野において、充分評価されるに足るものであったと思う。今後、この「学術調査報告書」は、関係者によって詳細に総合解析がなされなければならないところである。県は、今回の貴重な調査の成果の上にたって、より精緻で科学的な再生計画をつくり上げ、政策を実現していかなければならない。勿論、それは県民と共に協働して推進していくべきものであり、さらに我々に課せられた責任の重さを真摯に受けとめなくてはならないだろう。

調査・研究報告

丹沢山地における2007年に大発生したブナハバチ被害とこれまでのブナの衰弱枯死経過(PDF:223KB)

  • 神奈川県自然環境保全センター 越地正・谷脇徹・田村淳・山根正伸

【要旨】

 神奈川県丹沢山地一帯において2007年に大発生したブナハバチによるブナの被害調査を行った。ブナハバチ被害の中心は西丹沢の檜洞丸から加入道山にかけての標高1400メートル以上の地域であった。これらの地域一帯ではブナの葉が丸坊主になり残った葉脈が褐色に変わる異常な景観がみられた。葉の大部分を食害する「激害型」被害は80%を超える地点もあり、今までにない激しい規模の被害を受けたことがわかった。今回発生したブナハバチ被害により激害を受けたブナは、さらに衰弱枯死が加速する恐れがある。また、繰り返しブナハバチの大発生がみられる檜洞丸においてブナの衰弱枯死過程を調査したところ、ブナ枯れ跡地のギャップを中心に衰弱枯死が拡大していることがわかった。これらのブナの衰弱枯死原因を観察した結果、1997年以降はほとんどがブナハバチの繰り返しの食害によるものであった。

西丹沢に発生したブナアオシャチホコの被害(PDF:141KB) 

  • 神奈川県自然環境保全センター 越地正・田村淳・藤澤示弘・山根正伸
  • 財団法人かながわトラストみどり財団 高橋長三郎

【要旨】

 神奈川県西丹沢において2005年にブナアオシャチホコが発生した。これは1917年の大発生以来88年ぶりのことである。ブナアオシャチホコの被害は標高900mから標高1,300mまでの地域で数ha規模のものであった。ブナおよびイヌブナの食害状況を調査したところ、高木は陰葉が食害される中害被害が多くみられ、中低木は激害または大害となる被害が多かった。翌年2006年の大発生が予想されたが低密度の発生に終わった。また2007年もほとんど発生しなかったことから、2005年のブナアオシャチホコの発生は一過性のものといえた。

森林における水環境モニタリングの調査設計 ―大洞沢における検討事例―(PDF:145KB)

  • 神奈川県自然環境保全センター 内山佳美・山根正伸

【要旨】

 かながわ水源環境保全・再生施策を順応的に推進するための水環境モニタリングの計画・実施に向けて、既往の関連モニタリング調査の内容と成果を整理し、今後の望ましいモニタリングのデザインを検討した。その結果、今後は、事業実施箇所で単に経過を調査するだけでなく、あらかじめ設定した仮説に基づいて、実験-モニタリングを行ない検証するというシナリオによって、空間スケールに応じた調査デザインにより対照区や参照区を設定し地域の自然環境の実質的変化を時系列に把握することが望ましいと考えられた。さらにこのようなモニタリングデザインの考え方から、今後の試験地を清川村大洞沢に選定し、森林整備等による現地の自然環境の直接的変化が、流域からの水流出に順次反映していくことをモニタリングによって検証する調査設計とした。

2006年度神奈川県ニホンジカ保護管理事業におけるニホンジカ(Cervus nippon)個体群調査報告(PDF:564KB)

  • 神奈川県自然環境保全センター 小林俊元・末次加代子・山根正伸
  • 神奈川県環境農政部緑政課 永田幸志
  • 株式会社野生動物保護管理事務所 溝口暁子

【要旨】

 今回の報告は、第1次神奈川県ニホンジカ保護管理計画を遂行するにあたり、2006年度に保全センター野生生物課が担った調査業務の結果について報告するものである。2006年度の調査は、ニホンジカ保護管理計画策定のために行った調査実施時点(2000、2001年度)からの経過観測と、第2次神奈川県ニホンジカ保護管理計画の改定に向けた全域調査の一部を目的として、シカ個体群の1)区画法による生息密度調査、2)糞塊法による糞塊密度調査、3)スポットライトセンサス、4)猟区における捕獲効率調査、5)捕獲個体分析調査を行った。本稿では、各調査項目について調査目的、調査方法、調査結果及び考察について個別に報告する。

事業報告

神奈川県自然公園指導員の活動20年間の歩み -ボランティア・コーディネートの視点から-(PDF:91KB)

  • 神奈川県自然環境保全センター 吉田直哉

【要旨】

 神奈川県自然公園指導員の公募制の発足20年にあたって、これまでの活動の歴史、現状、課題を整理した。指導員は都市近郊居住の中高年層を中心に、美化指導、コース解説、動植物解説を中心に県内の自然公園で偏りなく活動していた。近年10年間、指導員の活動は段階的に活性化しており、その時期は、研修会の充実や登山道補修隊の実施等の時期と一致していた。これらの機会を通じて指導員と担当職員の交流が進んだことが要因と推測されることから、今後のボランティア・コーディネートのあり方を考察した。

箱根地域におけるオオハンゴンソウの生育状況調査と駆除活動II(PDF:831KB)

  • 神奈川県自然環境保全センター 辻本明

【要旨】

 箱根地域におけるオオハンゴンソウについては、「神奈川県自然環境保全センター報告第4号」において2005年、2006年に取り組んだ生育状況調査及び駆除活動について報告したところであるが、2007年についても継続して調査と駆除活動を行ってきた。本稿では、2007年に行った生育状況調査と駆除活動等について引き続き報告するとともに、今後の取組みについて提言する。

速報

平成19年度丹沢大山の水場の水質調査結果(PDF:50KB)

  • 神奈川県自然環境保全センター 倉野修
  • 丹沢大山ボランティアネットワーク

【要旨】

 平成19年4月24日から6月28日にかけて丹沢大山の水場29箇所で実施した水質調査について報告する。この調査は、丹沢大山総合調査広報県民参加部会公募型事業「丹沢大山流域の水質調査」として丹沢大山ボランティアネットワークが実施した54箇所の水質調査を引き継ぎ、丹沢の緑を育む集い実行委員会の支援により丹沢大山ボランティアネットワークが県民協働調査として実施した。

丹沢主要登山道利用実態調査結果速報(PDF:55KB)

  • 神奈川県自然環境保全センター 倉野修
  • 丹沢大山ボランティアネットワーク

【要旨】

 平成19年4月29日に大山、塔ノ岳、蛭ヶ岳の3山頂で実施した登山道利用実態調査について報告する。この調査は、丹沢大山総合調査地域再生調査による県民参加調査として実施した9山頂における登山道利用実態調査を引き継ぐものとして、平成18年から丹沢の緑を育む集い実行委員会の支援により丹沢大山ボランティアネットワークが県民協働調査として実施した。

資料

神奈川県自然環境保全センター所蔵の樹木円盤コレクションの年輪解析(PDF:477KB)

  • 神奈川県自然環境保全センター 越地正・池上栄治
  • 元神奈川県自然環境保全センター 鈴木清

【要旨】

 樹木に刻まれた年輪から読み取れる情報は樹木の育った環境や過去の気候、出来事を知る手がかりとして利用されている(深澤,1997)。当センター研究部では、前進の林業試験場の時代から樹木の円盤を収集展示してきた。平成15年度の科学技術週間には「年輪コレクションの公開」として代表的な円盤標本を一般公開した。今回、これらの標本に加え、現在までに当センターが所蔵してきた主要な円盤標本について年輪解析を行い、年輪から読み取れる情報について若干の解説を加えた。

設置後10から15年経過したツリーシェルター試験地と植生保護柵試験地における樹木の生育状況(PDF:197KB)

  • 神奈川県自然環境保全センター 田村淳
  • 京都学園大学バイオ環境学部 中川重年

【要旨】

 丹沢山地において10年以上経過したツリーシェルター試験地5箇所と植生保護柵試験地2箇所で、樹木の生育状況を調べた。ツリーシェルター試験地では、10年以上経過して風による飛散や紫外線による破損などによりツリーシェルターが消失している試験地が多かった。植栽した樹木の生存率はブナで高かったが他の樹木では低かった。維持管理が行われてきた試験地ではシカの採食可能な高さである2メートルを超えた樹種もあった。植生保護柵試験地では、2箇所ともに柵内では天然更新により多様な樹木が生育していたのに対し、柵外では種数、個体数ともに少なかった。樹高も柵内で高く、ブナ林下の柵内では最大130センチメートル、渓流沿いの裸地に設置された柵内では最大440センチメートルに達していた。以上のことから、両施設の試験地では森林化しつつある箇所とそうでない箇所があることを確認できた。

丹沢山地において2006年に落下したブナ種子の品質(PDF:55KB)

  • 神奈川県自然環境保全センター 谷脇徹・田村淳・藤澤示弘・越地正
  • 神奈川県環境農政部森林課 齋藤央嗣

【要旨】

 2006年は丹沢山地においてブナの種子が豊作であった。今後のブナ林保全再生対策の基礎資料とするため,檜洞丸山頂付近および丹沢山の山頂付近と堂平で採取した種子について品質調査を実施した。その結果,健全種子の割合(平均値±標準偏差)は堂平で45.4±20.6%と高く,丹沢山山頂付近で4.6±4.1%,檜洞丸山頂付近で1.1±1.4%と低かった。また,シイナ種子および虫害種子の割合は堂平で16.1±12.7%および11.0±6.7%と低かったが,丹沢山山頂付近で36.6±8.1%および47.1±8.1%,檜洞丸山頂付近で40.4±14.7%および52.1±16.5%と,檜洞丸および丹沢山山頂付近は大部分がシイナと虫害種子で占められていた。加害昆虫については,いずれの地域でもブナヒメシンクイが優占種であった。

神奈川県自然環境保全センターに救護された傷病鳥獣の記録(2006年度)(PDF:145KB)

  • 神奈川県自然環境保全センター 加藤千晴・森重京子・福富潤

【要旨】

 神奈川県自然環境保全センター(以下、センター)では、神奈川県立自然保護センターとして昭和53年に開設して以来、一貫して傷病鳥獣の救護業務を行っている。その間、傷病鳥獣の救護点数は年々増加傾向にあったが、1997年度の929点をピークに最近では、概ね横ばいないし漸減傾向にある。神奈川県では県下で統一した様式(神奈川県傷病鳥獣保護記録票)により救護状況等を記録している。これにより、救護原因や様々な救護状況等を把握、分析し保護のための施策に役立てることが可能となるばかりでなく、県下の野生鳥獣の分布や繁殖、鳥類では渡りの情報として活用すること等が可能である。本報告ではこれらの情報に資することを目的として、2006年度(2006(平成18)年4月から2007(平成19)年3月)の記録を取りまとめた。

(敬称省略)

このページに関するお問い合わせ先

自然環境保全センター

電話:046-248-0323

このページの所管所属は 自然環境保全センターです。