公文書館だより 32号

掲載日:2015年4月20日

吉田松陰(寅二郎)が実兄 杉梅太郎へ宛てた書簡

 書簡      資料ID:2199400899 

現在、NHKで放送されている大河ドラマ「花燃ゆ」では、吉田松陰の妹を主人公に、その家族にも焦点をあてて描かれていますが、当館で収蔵している「山口コレクション」の中には、寅二郎(吉田松陰)から実兄の杉梅太郎にあてた書簡が残っています。この書簡は、嘉永6年(1853)年正月、四度目の国外遊学に出かけた松陰が大坂(大阪)に到着したことを報告したもので、旅の途中で讃岐の金比羅参りや、播磨灘に赴いた際の漢詩二詩も書かれ、兄に対し誤りを遠慮なく直して欲しいとも書いています。

松陰はこの遊学中、浦賀で黒船を見ています。また、松陰の妹(千代)の息子である吉田庫三(くらぞう)は、神奈川県立第二中学校(現在の県立小田原高校)と第四中学校(現在の県立横須賀高校)の初代校長を務めるなど、神奈川県とゆかりがあります。松下村塾における叔父、神奈川県立中学校における甥、教育者としての共通点についても興味深いものがあります。

4月から開催する常設展示「古文書・公文書は面白い」では、山口コレクションをはじめ、様々なジャンルの古文書・公文書を展示する予定です。ぜひ、お誘い合わせの上、ご来場ください。

山口コレクションとは、帝国臓器製薬株式会社社長を務めた山口八十八(やそはち)が個人的に収集した古文書のコレクションで、総点数は1,000点を超えます。本コレクションには、坂本竜馬、伊藤博文、徳川慶喜など、主に幕末維新を駆け抜けた英傑などの手による書簡が数多く含まれています。

 

神奈川県における学童疎開  アーカイブズ講座で取り上げた資料から

昨年は、学童疎開が行われた昭和19年から70年の節目の年でした。そこで、11月に開催したアーカイブズ講座では、当館所蔵資料で本県の学童疎開の状況をどのように跡付けられるのか、主な資料を紹介しました。

資料群の特徴

当館で所蔵する資料は、歴史的公文書、古文書・私文書、図書・行政刊行物に大別されます。

学童疎開は、都市部在住の学童を空襲から守るための国策として実施されたので、国と市町村の連絡調整の窓口である県では、当然大量の関連文書が作成されたはずです。しかし、終戦による米軍上陸を前にした文書の焼却処分などにより、その大半が灰燼(かいじん)に帰し、公文書はほとんど残っていません。

一方、私文書や図書類は豊富です。これは、当時の事務担当者が保管していた資料群を、ご遺族が一括して当館に寄贈して下さったこと、自治体(教育)史などで取り上げられていることによるものです。

本県における学童疎開

対象となったのは、横浜・川崎・横須賀市の都市部の国民学校3年生から6年生の10万人余りのうち、縁故疎開ができない5万5千人余で、昭和19年8月の夏休み期間中に行われました。疎開先は、当初の予定では静岡県でしたが、当時の知事の判断で県内に変更され、親元に近い所で暮らせたことは幸いでした。

とはいえ、8歳から12歳の学童たちが親元を離れて集団生活を余儀なくされるのは大変なことで、食糧不足、慣れない農作業の手伝い、ホームシックなどに悩まされました。

 疎開先の食事  疎開先での食事の様子(出典「横浜市の学童疎開」)

 

資料に現れた疎開生活の諸相

集団疎開事業に要する県負担金を審議した県予算案からは、疎開中の学童にキャラメル1箱、教職員にはタオル1本、石鹸1個を慰問品として送ったことが分かります。

さらに、県公報によると、学童の勤労作業として、団栗(どんぐり)の収集作業をすることが通知されています。その目的は、軍靴などの鞣(なめし)剤の原料、粗澱粉(あらでんぷん)としての食用、代用燃料の精製などでした。

また、私文書からは、疎開先で赤痢患者が発生し隔離・消毒を行ったことや、宿舎近くの集荷場が敵機の機銃掃射を受け、命からがら避難した切迫した状況などを読み取ることができます。

各自治体で編纂された図書類には、学童疎開を撮影した写真や当事者の体験談が掲載されているものも多く、当時の生活を追体験する手掛かりとなります。

赤痢羅病経過報告   機関銃掃射に関する件

写真左) 集団疎開学童赤痢罹病経過報告書(葛野重雄氏旧蔵資料2200432592)

写真右) 学童宿舎敵機機銃掃射ニ関スル件(葛野重雄氏旧蔵資料2200432605)

 

アーカイブズの可能性を求めて

当館は、様々な種類の資料を保管しています。資料によって分かる内容も異なりますので、多様な資料を併せて読むことによって、対象となる事象に違った角度から光を当てることができ、その真の姿に近づくことができるかもしれません。

今回ご紹介した例のように、当館には、神奈川の歴史を調べる上で役に立つ資料が揃っています。

 

歴史資料所在調査から  清川村の資料紹介

当館では、県民の方が所有する地域の歩みを伝える歴史資料を保全すると同時に、これらを収集し・公開するため、開館以来関係市町村と連携しながら、歴史資料所在調査事業を実施してきました。 

今年度は『村史』を編纂中の清川村において調査を行いましたのでその資料の一部をご紹介します。 

清川村と水産資源

  おどる若鮎河鹿の声に 夏は涼しや中津の流れ-♪

これは「清川音頭」の一節です。ここで歌われているように、清川村は江戸時代から渓流にすむ魚が豊富な地域として知られていました。村を流れる小鮎川(旧煤ヶ谷村)と、中津川(旧宮ケ瀬村)には鮎・やまめ・鱒などが生息しており、江戸幕府にも献上されていました。

このように水産資源が豊富な清川村ですが、鮎などが川から姿を消してしまった時期がありました。下の資料は、煤ヶ谷村の名主をつとめた山田家に伝来するものです。この資料から、地震により中津川が「砂川」(土砂崩れにより川の流れがせき止められる状態)となり、鮎が獲れなくなったことがわかります。

 山田明氏所蔵資料   「県史写真製本」山田明氏所蔵資料2200600006

 

宮ケ瀬村漁業組合の設立

江戸時代「砂川」となっていた中津川は、その後流れを取り戻し、鮎は村の名産品として東京に出荷され、好評を博していました。ところが大正12(1923)年の関東大震災により状況は一変します。震災にともなう山崩れにより、中津川はふたたび「砂川」となってしまったのです。

こうした状況に危機感をいだいた宮ケ瀬村の人々は、村長の山本泰一郎氏を中心に、県に砂防工事の実現を請願します。

この請願をうけて県は、砂防工事の実施と、水産資源回復のための鮎・鱒の放流を約束し、あわせて漁業組合を設置するよう要請しました。県の要請に応じる形で、宮ケ瀬村は昭和6(1931)年に宮ケ瀬村漁業組合を設立することになるのです。

宮ケ瀬村に漁業組合が存在したことは、これまでほとんど知られていませんでした。今回の歴史資料所在調査事業において収集した山本泰一郎氏の資料(清川村役場所蔵)には、漁業組合の設立にいたる経緯が細かく記されており、組合活動の一端がうかがえます。

            「自昭和五年十月至仝十年 漁業組合ニ関スル手記」

漁業組合に関する手記 山本泰一郎家文書    漁業組合に関する手記

         山本泰一郎家文書                   昭和8年6月15日 

 

漁業組合の活動

宮ケ瀬村漁業組合は設立直後から、県と協力して鮎・鱒の稚魚の放流事業を行います。昭和6年度は1,000匹が中津川に放流されました。

鮎・鱒の放流事業は、水産資源の回復だけでなく、昭和恐慌からの脱却という目的もありました。

政府は昭和8年から「農山漁村経済更生運動」を開始します。上(昭和8年6月15日)の資料によれば、山本泰一郎氏は、鮎・鱒を「大々的」に放流することにより、農村の復興を図ると述べています。つまり鮎・鱒の放流は政府の不況対策の一環でもあったのです。

今回ご紹介した資料は、今後当館で閲覧できる予定です(時期は未定)。

 

利用案内  魅力ある講座・展示を目指して

当館では、所蔵資料を紹介するとともに、その利用を促進するため各種講座や展示を行っています。

このたび受講者や利用者からのご意見などを参考に、より利用しやすいように時期・内容などを見直しましたので、その内容をご紹介します。

講座のご案内

古文書関係の講座については、「はじめて」「基礎」「応用」の三種類の解読講座を、「古文書講座」の「入門編」と「応用編」の二種類に再編成します。受講の目安として、「入門編」は、全く初めて古文書を読もうとする方から、多少の経験はあるものの一人では解読する自信を持てない方、「応用編」は、ある程度の読解力をお持ちの方を想定しています。

「入門編」は、多くの方が受講できるよう同じ内容で時期を変え2回開催しますので、ご都合のよい方にお申込みください。

なお、歴史的公文書を保存し、未来に伝えるアーカイブズ講座も開催します。

◆古文書講座入門編

A日程 5月17日から6月14日までの各日曜日(全5回)(定員140人)

B日程 7月5日から8月2日までの各日曜日(全5回) (定員140人)

※A日程もB日程も内容は同じ。

◆古文書講座応用編

11月1日から11月29日までの各日曜日(全5回) (定員140人)

◆アーカイブズ講座

9月6日(日曜日)  (定員100人)

 

展示のご案内

常設展示は、これまでの1階フロアの展示ケースでの展示に加え、展示室も利用し、より多くの資料がご覧いただけるようにします。

4月から始まる常設展示は、「古文書・公文書は面白い」と題して、神奈川県域の変遷をはじめ、鉄道、村の暮らし、山口コレクションなど様々なジャンルの資料を展示する予定です。

企画展示では、県内最大の川である相模川をテーマに人々と川のかかわりについて展示する予定です。ぜひお誘い合わせの上、ご来場ください。

◆企画展示「相模川-人のくらしはその流れとともに-」

9月18日(金曜日)から平成28年1月17日(日曜日)まで

◆常設展示1 「公文書館の仕事紹介」

4月16日(木曜日)から平成28年3月31日(木曜日)まで

◆常設展示2 「古文書・公文書は面白い」  

(前期)4月16日(木曜日)から9月6日(日曜日)まで

(後期)平成28年1月29日(金曜日)から3月31日(木曜日)まで

◆ミニ展示 「紙、記録資料を支えるもの」

 4月16日(木曜日)から6月28日(日曜日)まで

◆ミニ展示 「海水浴とかながわ」

 7月3日(金曜日)から9月6日(日曜日)まで

 

神奈川県

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