公文書館だより 29号

掲載日:2013年6月19日

よみがえる記録遺産 

資料の保存と修復

文化遺産と言えば、古い街並みや仏像、絵画というイメージがありますが、では記録遺産という言葉で皆さんはなにを思い浮かべますか? 

記録遺産は文字通り遺産として次の世代に伝える価値がある記録(公文書や古文書など)を指し、文化遺産に対して新しく作られた言葉です。記録遺産は別名「アーカイブズ」と呼ばれ、神奈川県立公文書館はこれらの資料を、現在の人々だけでなく未来の人々にも向けて利用できるように永く保存していく役割を持っています。

紙の保存は有限

 しかし、紙の資料の寿命は有限です。アーカイブズの内容(コンテンツ)を支える器(媒体)は、これまで紙が主流でした。そして紙は植物繊維等を原材料とした有機物であり、その製造過程で用いられる物質の影響も加わって、時間の経過とともに徐々に劣化していく定めから逃れることはできません。厳密に言えば、アーカイブズをオリジナルの形態のままで未来永劫に渡って保存することは現在の技術では大変困難であり、資料の保存は劣化が進む速度を遅くする措置を指します。

予防的保存 

 当館にはこうした資料が、70万点ほど収蔵されています。これらの資料を長期にわたって保存していくためにこれまでさまざまな方法が試みられましたが、現在ではいくつかの原則が普及するようになりました。中でも、現代の保存の考え方の中核を占めているのが「予防的保存」です。

これまでは資料の損傷がひどくなったら、修理する(治す)という方法が中心でした。いわば事後的な対症療法です。それに代わり、現在では損傷や劣化がひどくならないよう、事前の予防策を最優先します。それが予防的保存の考え方です。つまり虫歯になったら歯医者に行くのではなく、定期的に検診を受ける予防歯科と同じ発想です。

ちなみに、紙資料を劣化させる外的な要因と劣化の内容の主なものは次のものが挙げられます。

・光(紫外線を浴びることによる物質の損耗)

・温度(熱による物性の変化、急激かつ頻繁な温度変化による損耗)

・湿度(水分による物性の変化、急激かつ頻繁な湿度変化による損耗、カビの発生等)

・汚染された空気(大気汚染、家具や内装に用いられる有害物質等の悪影響)

・生物(文化財害虫による食害等)

・人(人為的な破壊)

・災害(火災、水害、地震等によるダメージ)

 予防的保存は、これらの劣化要因を日常的に抑制し、紙資料の劣化を遅らせたり、減らしたりする活動であると言えます。 

劣化要因 

環境制御とIPM

予防的保存の具体的な内容は、環境制御とIPM(Integrated Pest Management=総合的有害生物管理)です。環境制御は、資料を収蔵する書庫内での光の遮断、資料の長期的な保存に適した温度・湿度の維持が中心です。当館でも、書庫内の蛍光灯は紫外線を遮断できるタイプを使っています。また、収蔵庫内の温度は22℃、相対湿度55%以下を安定的に維持するように設定しています。

IPMは、資料に物理的な害を及ぼす害虫やカビ、建物を侵食する害虫の発生を予防することを主眼とし、発生後の駆除を含む管理方法です。化学薬剤を使うくん蒸だけでなく、それも含め多様な方策を効果的に組み合わせて総合的に生物被害を抑えるものです。

その具体的な中身は、環境制御や定期的な清掃(資料それ自体、書架、収蔵庫、館内、館外)、資料のある部屋で飲食しない、窓に網戸を付ける、外履きのままで収蔵庫に入室しないといった基本的なことです。 

酸性化

紙媒体が持つ内部的な劣化要因として「酸性化」があります。紙を製造する段階で用いられた硫酸アルミニウム等の酸性にじみ止め剤等の影響で紙の繊維(セルロース)が破断されて、劣化が極度に進行すると手で触るだけでポロポロと崩れ落ちてしまう現象です。紙の酸化が少しずつゆっくり進行することから、「スロー・ファイア(ゆっくりした火事)」とも呼ばれ、紙の記録遺産にとっては致命傷となるものです。

いったん酸化が進行したものは、元の状態に戻すことはできませんが、アルカリ成分を資料に含ませる「脱酸」という化学的な処置が種々考案され、実用化されています。

酸化した資料の写真 酸化した資料

修復・整備プロジェクト 

 修復・整備プロジェクトの作業 修復・整備プロジェクトの修復作業

最後に保存に関する最新のトピックスとして、当館の「修復・整備プロジェクト」を紹介しましょう。このプロジェクトでは、当館の書庫に保管されている歴史的公文書のうち、比較的利用度の高い簿冊を抽出し、修復・整備の処置を平成24年11月から実施しています。これは平成23年10月から翌年の9月まで行われた被災公文書レスキュー事業で得られたノウハウ(※)を活用し、さらに技術と知識を拡充させるために計画されました。この事業により、今後の保存計画に有益な知見が得られることが期待されます。

※  報告書を当館ホームページで公開しています。

修復した資料    書庫の資料 

     修復した資料は中性紙でできた保存箱に入れて書庫で保管

 

収蔵資料紹介

 記録が伝える東京オリンピックの記憶

オリンピック聖火リレー・箱根での様子(請求記号4199203885)

2020年の夏季オリンピック東京大会開催を目指して、現在国内では様々な招致活動が行われていますが、ご承知のように、東京で日本初のオリンピックが開催されたのは、1964(昭和39)年のことでした。神奈川県では、カヌー、ヨット、サッカー、バレーボールの4競技が行われ、また聖火リレーも県内を通ることから、県庁では新たに「オリンピック課」を設置し対応に当たりました。公文書館にはこのオリンピック課が作成した歴史的公文書が保存されています。

例えば「昭和三十九年度 聖火リレー関係綴(3冊の1)」には、聖火リレーのコースや実地踏査の結果等が残されています。このときの聖火リレーは全国に4つのコースが設定されましたが、そのうち第1・第2コースが県内を通り、とりわけ第2コースは箱根、小田原、藤沢、鎌倉、逗子、横浜、川崎と県内を横断するものでした。同文書には、聖火の引継場所等、各市町村から様々な要望があったことが記録されています。また、警察や消防からは「リレーコースの諸事情等を了知したいので明年4月か5月〔中略〕に試走を願いたい」(県警)、「沿道においてリレー実施中火災が発生した場合〔中略〕一時ストップさせられるか」(防災消防課)といった要請や協議がありました。このうち聖火リレーの試走については、「昭和三十九年度 聖火リレー関係綴(3冊の2)」に詳細な記録があります。

この他にも公文書館には競技会場や国民運動に関する歴史的公文書があり、当時の取り組みの内容を知ることができます。公文書という記録が大切に保存されることで、半世紀前の東京オリンピックの記憶が、現代を生きるわれわれにも引き継がれています。

           

 Let’ Try! こもんじょ            

当館で保存している古文書を紹介しながら、その読み方などを解説するコーナーです。当館ホームページ「古文書解読Web講座」にも掲載していますので、合わせてご覧ください。

初級3                                   

関口家文書「済口証文」から

済口証文   

今回取り上げる資料は、「済口証文(すみくちしょうもん)」とよばれるものです。これは、江戸時代の民事訴訟において、原告と被告が内済(ないさい)によって訴訟を決着させた際に、訴訟を取り扱っていた領主に提出した文書になります。なお、紙面の都合上、資料画像後半部は省略しています。

 今回は、最初の一つ書のうち、この部分を読んでみましょう。

南北 

1文字目の南「南」は楷書と同じなので問題ないでしょう。

2文字目の北「北」は、楷書と全く違う「小」に似た形にくずされますが、右の「ヽ」が二つになっているので、そこで判断できるでしょう。

3文字目の百「百」は楷書と同じです。

4文字目の姓「姓」はおんなへん(おんなへん)がひらがなの「め」に似た形にくずされていますが、「め」はもともと「女」から成っていることを考えると理解しやすいでしょう。

5文字目の共「共」は、下の横棒と「八」が右側の縦棒に繋がって書かれ、このような形にくずされます。以上で「南北百姓共」となります。

「南北百姓共」はこの訴訟の原告である、生麦村の南北という地域に住む百姓たちを指します。江戸時代の百姓は農民だけでなく、漁民や職人、商人など、町人以外の庶民は百姓とよばれていました。

 

 

利用案内

開館二十周年を迎えて 

 平成5年11月、都道府県の(公)文書館としては全国で21番目に、神奈川県立公文書館が誕生しました。早いもので今年は開館二十周年になります。これを機に、当館で開催する各種講座・展示などを、今まで以上に利用しやすいように見直しを行いましたので、この内容をご紹介します。

 講座のご案内

古文書解読講座については、申込みが最も多かった「入門講座」を「はじめて講座」に改め、日数を3日間にして、同じ内容で2回実施します。文字通り初めて古文書を読もうとする方を対象に、くずし字の基本からご説明します。「中級講座」「上級講座」をそれぞれ「基礎講座」「応用講座」として、講座内容の一層の充実を目指します。会場を当館以外の県内各地で開催する「入門一日講座」は継続します。

また、講座の開催順序を、年度初めから、やさしいものから高度なものになるよう配慮しました。

一昨年から始めたアーカイブズ講座についても、継続します。

詳細は未定ですが、二十周年記念特別講演を来年2月ごろに開催します。 

◆アーカイブズ講座       (定員 100人)      7月28日(日曜)

◆古文書解読はじめて講座1 (定員 140人)        5月26(日曜)から6月9日(日曜)までの各日曜日(全3回)

◆古文書解読はじめて講座2 (定員 140人)        6月16(日曜)から6月30日(日曜)までの各日曜日(全3回)

◆古文書解読基礎講座           (定員 140人)       9月29(日曜)から10月27日(日曜) までの各日曜日(全5回)

◆古文書解読入門一日講座   (定員 50人)         12月1日(日曜)

◆古文書解読応用講座           (定員 140人)       2月16日(日曜)から3月2日(日曜)までの各日曜日(全3回)

 

展示のご案内

関東大震災から90年に当たる今年、あらめて「検証・過去の震災記録」、港ヨコハマ、古都鎌倉、温泉の箱根など様々な観光資源に恵まれた土地柄にちなんで「旅館とホテルの文化史」の二つの企画展示のほか、二十周年記念特別展示を12月から予定しています。

展示内容は、鋭意検討中ですが、当館の収蔵資料の中から選りすぐりのものを多数展示できると思います。

◆企画展示

「検証・過去の震災記録」          4月20日(土曜)から8月17日(土曜)まで

「旅館とホテルの文化史」         8月24日(土曜)から12月1日(日曜)まで

◆二十周年記念特別展示

「記録遺産は時を越えてーかながわのアーカイブズー」         12月14日(土曜)から3月30日(日曜)まで

◆ミニ展示

「村田五三郎の日記ー大正時代の日常生活ー」

(前期)   7月27日(土曜)から9月1日(日曜)まで

(後期)  11月16日(土曜)から12月22日(日曜)まで

◆常設展示

「記録が歴史を語るまで」      4月2日(火曜)から3月30日(日曜)まで

・歴史的公文書の保存

・古文書・私文書の整理から公開へ

・歴史資料所在調査の概要

・資料の修復

館利用のご案内

(開館時間)  午前9時から午後5時まで

(休館日)      月曜日、国民の祝日(月曜日と重なる場合は翌日)、年末年始

(利用方法)

閲覧室に開架されている資料は自由に閲覧できます。書庫内の資料は受付に請求してください。

展示見学は無料です。ご自由にご覧ください。

自治会や学校など各種団体の視察・見学(無料)も随時受け付けています。まずは、お電話ください。

会議室は午前9時から午後9時まで利用できます。公共施設利用予約システムでお申し込みください。

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